見出し画像

いい酒と、いい土地と

「やっすい居酒屋でまっずい酒飲むんだったら、その金でいい酒を飲んだほうがいいと思わないか?」

一升瓶から紙コップへと手酌しつつ熱弁する姿には、妙な説得力があった。


大学生の時、年末は高校の友人グループで集まるのが恒例になっていた。

一人暮らししているやつの家に集合して、酒やらつまみやらを買い込んで、お互いの近況を報告したりゲームをしたりして、夜を明かす。
なんともまあ、金のない学生らしい遊び方だ。

冒頭の発言は、何かの折に「飲み会が楽しくない」と僕が愚痴ったのを聞いて、友人の一人が吐いた言葉だった。

たしか、それからだ。僕が日本酒をたしなむようになったのは。


地酒を現地で買って、家で飲む。
これが僕のスタイルだ。

今時、ある程度名の知れた酒蔵はどこもオンラインストアを持っている。ワンクリックで、国内中の地酒が飲めてしまう時代だ。
しかも、東京の近くに住んでいれば、ちょっと奮発すれば日本中のいい酒とうまい料理が一緒に楽しめてしまう。
そんな状況で、わざわざ現地に赴く必要はどこにもない。

確かにそうだ。一理ある。
それでも、僕はやはり現地で買いたい。

もちろん旅の思い出の品として買う側面もあるが、ぼく個人の感覚として、その酒を生んだ土地の景色をしっかりと見て、飲むものを選びたい気持ちがある。

地酒には、その土地のスピリットが介在していると思う。
作られた酒には全て、銘柄と名前がつけられる。その名前は土地土地ゆかりのものであり、それらが作られた酒蔵をとりかこむ風景にインスピレーションを得ているはずだ。
それゆえに、地酒はすべからくオリジナルだ。たとえ同じ米、同じ水、同じ製法で作ったとしても、作る場所が違えば違う酒になるはずだ。

それに、都会にいると気づきにくいことだが、日本酒はサステナブルだ。

日本酒は、自然と共にある。
いい酒を生む土地には、必ずいい水源がある。原料となる米を育て、酒の品質を決める水。その水質を維持するには、豊かな自然が欠かせない。
さらに、製造工程で多くの人が関わる。いい水を生むための森を育てる人がいて、米を育てる農家がいて、酒を醸す蔵人がいる。
誰か一人が欠けてしまえば、良い酒は生まれない。

自然と土地と人。
それらが有機的に絡み合って、はじめていい酒は作られる。

正直、今日まで日本酒をそんな風に考えたことがなかった。
僕は日本酒に対して、失礼な態度をとっていたのかもしれない。
今まで以上に、慈しむべきだと思った。


そのうち、酒蔵の方にインタビューもしてみたい。

あなたのちょっとのやさしさが、わたしの大きな力になります。 ご厚意いただけましたら、より佳い文章にて報いらせていただきます。