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POPsに指定されている農薬

以前、こちらのnoteにて、POPs(残留性有機汚染物質)とはなんなのかを簡単にまとめました。
簡単に振り返ると、

  • 難分解性

  • 高蓄積生

  • 長距離移動性

  • 有害性(人の健康・生態系)

以上の要件を満たす物質でストックホルム条約(通称:POPs条約)に指定されたものがいわゆるPOPsとなります。(素朴な疑問。なぜPOPs条約の公式ウェブサイトはhttpsではないのだろう??)

このPOPsは、地球環境及び生物多様性の観点から常にアップデートされており、最近では有機フッ素化合物のPFOAやPFHxSが追加されたりしています。
(有機フッ素化合物について取り上げたnoteはこちら
またそのほかの物質でもPOPsへ追加検討中のものは多数あり、現在日常的に利用されている物質が必ずしも安全なものだけではないというのは(決して不安を煽るわけではありませんが)頭の片隅に置いておきたいところです。

さて、そんなPOPsですが、現在指定されている物質の中にいわゆる「農薬」と呼ばれる物質群があります。
常日頃でも、農薬をめぐる安全性は慣行栽培や有機栽培などの栽培方法の話と絡め、侃々諤々、日常会話はもとよりSNS界隈でも頻繁に話題に登るホットワードです。
そういった論争(?)を見かけるたび、多種多様な成分や物質、物体から成る「農薬」という広義的な単語で安全性を語るのは不毛だと常々感じますが、それには今回取り上げるPOPsに指定されている農薬成分なども、安全性に係る印象に影響を与えているような気がします。

ここから本題ですが、現在POPsに指定され、日本国内において農薬取締法で規制されている農薬成分にはこの環境省の資料に記載の17物質があります。
一応、列挙してみると、以下の17物質になります。

  1. アルドリン

  2. クロルデン

  3. ディルドリン

  4. エンドリン

  5. ヘプタクロル

  6. マイレックス

  7. トキサフェン

  8. DDT

  9. クロルデコン

  10. リンデン(γ-HCH)

  11. α-ヘキサクロロシクロヘキサン(α-HCH)

  12. β-ヘキサクロロシクロヘキサン(β-HCH)

  13. エンドスルファン

  14. ペンタクロロフェノール(PCP)とその塩及びエステル類

  15. ジコホル

  16. ヘキサクロロベンゼン(HCB)

  17. ペンタクロベンゼン(PeCB)

ちなみに、農水省のこちらのサイトで掲示されている禁止物質は27種。
うち、POPs物質として禁止されているのが上記と同じ17種。
…なんですが、物質によっては呼び名が違う表記になっていてちょっと混乱します。
例を挙げると、
ジコホル → ケルセン
エンドスルファン → ベンゾエピン
など。
また、17種以外の10物質は、POPsには指定されていないけれど、ダイオキシンを含有していたり、使用者の急性毒性による事故が多発した物質などが農薬取締法によって使用を禁止されています。

禁止物質のほとんどが昭和40年代〜50年代に農薬としての登録は失効しており、直近のエンドスルファンも平成22年(2010年)に失効しています。
(全国農薬協同組合からの販売禁止農薬等の回収についてPDF

日本の禁止物質への対応は決してPOPsの追随をしているわけではなく、POPsに2019年に追加されたジコホルを見ると、日本では2004年にすでに農薬としての登録が失効しており、その後2010年に農薬の販売の禁止を定める省令の改正により、POPsへの追加に先んじて日本国内での販売・使用が禁止となっています。
上記のPOPs指定外の10物質の対応なども含め、世界の情勢を鑑みつつも、日本は日本で独自に安全性の検証を行なって適宜対応しているのが分かります。

それにしてもこういった法令の改正やそれに伴う検討会議の資料など、あちこちに散在していて情報を集めるのがものすごく大変です…
とにかく流れが掴みづらい。
いろいろ調べていたら、化学物質の法規制・有害性情報等を提供しているNITE-CHRIPというサイトを見つけたのでリンクを貼っておきます。→ こちら

このように過去、農薬として使用されていた物質でもその後、安全性に問題があると分かったものについてはすでに(少なくとも12年前には)日本国内での販売や使用が禁止されています。
その意味で言えば、現在国内で農薬として流通している物質については正しく使用すれば安全性は担保されていると言えます。

一方で、農薬も常に新薬が開発されています。
もちろん、新しく世に出る物質については今までの知見から安全性についての検証は十分行われているはずですが、やはり未知の危険性が全くないとは言えません。
これは現在流通している農薬にも当てはまります。
そもそも薬と毒の歴史は表裏一体であり、切り離すことは出来ません。

また日本には特定農薬という農薬も存在します。
その地域にいる天敵昆虫も農薬です。
(特定農薬を農薬とみなすか個人で解釈が分かれるかも知れませんが、農薬取締法の第3条にははっきりと農薬と明記されています。)
農薬という単語一つで包括する物質って広義すぎるんです。

農薬が危険かどうかと言う件については

  • 危険性が指摘されている物質を含む農薬は、日本では12年以上前から使用禁止となっている。(ほとんどが数十年前から使用禁止)

  • ただ、現在流通している物質、新しく開発される物質について未知の危険性が全くないとは言い切れない。(常に検証は行われている)

  • 生活環境に害を及ぼす恐れのない特定農薬という農薬も存在する。

POPsにリストアップされている農薬の話から農薬の安全性という話になってしまいました。
どうしても「農薬は○○だ」という極めて一面的な話に陥りがちですが、その物質ごとの安全性の違いや、農薬が農業において果たしている役割、功罪についてもっと建設的な議論になるといいなぁなんて思いながら今日も農作業に勤しみます。

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