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稀人ハンター版お金の学校2日目 オンラインショップで自分の本を”おまけ”として売ってみた。

前回は、軽トラモバイルハウスで自分の本を手売りした話を書いた。

今回は、本の発売に合わせてオンラインでオリジナルのコラボ商品に本をつけて販売を始めたことについて書こうと思う。もちろん、坂口恭平酋長の『お金の学校』に倣って、すべてオープン&フリーである。

初見の人のために改めて記すと、昨年10月に出版した『1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』には、塩、パン、チーズ、ジェラート、おはぎなどのおいしいものを革新的なアプローチで作っている10人が登場する。

実はこの本を出す時、僕は不安だった。一昨年に出した『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』は、読者として農業従事者とか農業ビジネスに興味がある人という想定ができたんだけど、今回の本のテーマは「おいしいものづくり」。

農業本みたいにターゲットがガチっとしていないから、売れるかどうか自信が持てなかったんですよ、正直言って。でも、登場者たちのアツくてユニークで世の中を明るくする取り組みを広く知ってもらいたいから、本気で売りたい。それで、策を練った。

全国の本屋で売れるのが一番嬉しいことだけど、そもそも書店に足を運ぶ人は少ない。そのうえ、コロナ禍でイベントもやりづらいし、どうしようとさんざん悩んだ。そうして出した答えが、モバイル軽トラハウスでの行商とオンラインショップだった。

でも、オンラインショップで普通に本を売っても、買ってもらえると思えない。僕のサインを入れたとして、サイン本が欲しくて送料を払う人は稀人だろう(笑)。

自分は無名の書き手だということを自覚したうえで、ではどうするか。ある日、閃いた。

登場者の人気に便乗しよう!(爆)

思い起こせば、この本をまとめていた時に「もし登場者がコラボしてくれたら、夢のようにおいしいものができるんじゃないかなあ……」「本を読みながらそれを味わえたら最高だなあ」と妄想していた。もしこの妄想が実現して、コラボ商品の「おまけ」として本をつけてオンラインで販売できたらサイコー!と思ったのだ。

僕は、なにかを思いついた時、後先考えずに行動してしまう。特に計画もなく行き当たりばったり、そのうえ空気も読んでいないので、周りに迷惑をかけたり、呆れられることもしばしばなんだけど、これだ!と思うとイノシシばりに猛進&直進してしまうのだ。今回も思い立ったが吉日とばかりに、コラボできそうなものを作っている本の登場者に連絡した。

ほかの登場者とコラボしてオリジナル商品を作り、僕のオンラインショップで本と一緒に売りませんか?

今振り返ると非常にセルフィッシュ!な申し出だ。でも、この圧倒的無茶ぶりに、5人の登場者が「面白そう!」と協力してくれることになった。まさかの妄想カムトゥルー!!!

この恩に報いるためには、気合いで本を売るしかない。本が売れれば、協力してくれた5人の追い風にもなる。僕はジョッキーばりに自分の尻を叩くために、自著を430冊買い取った(なぜ中途半端な数なのだろう。この数にした理由を忘れてしまった)。

オンラインショップも、間に合わせの適当なものじゃ、5人だけじゃなく、お客さんにも失礼だ。友人のデザイナーに連絡して、しっかりデザインしてもらうことにした。

肝心かなめのお金の話

ここで、お金の話をしよう。

著者が自著を買い取る場合、出版社は割引してくれる。20%引きの場合が多いけど、今回は冊数が多かったこともあり、特別に25%オフにしてくれた。ありがたし! 
900円(書籍の税抜き価格)×0.75%=675円
675円×430冊=29万250円也。

オンラインショップ「稀人商店」は、BASEを利用したのでそれ自体は無料。友人のデザイナーは、トップページのデザインを5万円で請け負ってくれた。なんと、打ち合わせ時間ゼロ、明るい感じ、とかふわっとしたイメージを伝えたら、これこれ!というデザインをしてくれた。持つべきものは友人だ。

ということで、スタート時点の出費が35万250円になった。

ちなみに、この本の印税は販売価格の10%なので、90円。
1冊入ると90円入る計算だけど、いちいちカウントするのは大変だから、出版業界の慣習として、最初に刷る部数(初版という)の印税は保証してくれる。僕の本は初版7000部だったので、63万円が印税収入だ。オンラインショップの開設で半分以上が消えた笑 

しかし! 本は定価の990円で売るので(じゃないと本屋さんが困るからね)、430冊を売り切れば、990円×430冊=42万5700円。初期投資を回収した上に7万5450円の利益になる。

前回の投稿にも書いたけど、この「売るしかない!」というヒリヒリした状況に自分を追い込むことで、鼻から白い蒸気をブシュ―ッと噴き上げる機関車トーマスのように、人は本気になるのである。

コラボ第一弾はジェラート

そして、このコラボ企画第1弾として誕生したのが、3種類のジェラート。

日本初の野菜ジェラート専門店を営み、一昨年のジェラートマエストロコンテスト優勝者の大澤英里子さんと、書籍に登場する3名のコラボジェラートを作ってもらった。

・南大東島産ラム酒と大崎ぶどうのラムレーズン(南大東島で作られている超レアラム酒を作っているグレイスラム・金城さんとコラボ)

・自然栽培ほうじ茶と大崎で採れたサツマイモ(兵庫県神河町で自然栽培のお茶づくりに挑んでいる仙霊茶・野村さんとコラボ)

・ネパール産ピーナッツバターと鳴子のミルク(無農薬栽培・たんぱく質1.3倍のネパール産ピーナッツでピーナッツバターを作っているサンチャイ・仲さんとコラボ)

ジェラートのラベルも、同じ友人にデザインしてもらった。こちらは各1万円で計3万円。

我ながら、ぜいたくすぎるコラボ。。。。試作段階で味見させてもらったんだけど、口に含んだ瞬間にハッピーになれるだけじゃなかった。南大東島のサトウキビ畑、神河町の茶園、ネパールのピーナッツ畑の風景が浮かんでくることに驚いた。本を読んでくれた人も同じように感じてくれたら嬉しいと思った。

さて、いくらにしようか。値付けの仕組みはこうだ。ジェラートを作る大澤さんが、ラム酒、茶葉、ピーナッツバターをそれぞれから卸値で仕入れる。それをジェラートにして、ちゃんと利益が出る形で値付けする。そこに書籍代990円を乗せる。

最終的に、この3種類のジェラートを2個ずつの計6個に本をつけて4500円(送料別)にして、50セットを売ることにした。

僕がジェラートを預かることはできないので、稀人商店で注文を受けたら、送り先を大澤さんに伝えて、鳴子から送付してもらうという流れにした。楽天やアマゾンと同じような仕組みだ。

送料を入れると、余裕で5000円を超える。ここでしか買えないオリジナル商品だし、大澤さんのジェラートのファンが全国にいるとはいえ、高いんじゃないかと思った。でも、誰も損せず、無理しない形にするには、4500円以下は無理だ。売れるのか、売れないのか、考えても仕方ないことが頭の中でグルグル巡る。ぶっちゃけ、すんごくビビっていた。

オンラインショップ「稀人商店」のオープンは、10月19日。果たして、結果は……

50セット完売!!!!!!

第1弾ということで、僕の友人・知人が応援購入してくれたこともあり、情報公開2日で25セットを販売。その後も緩やかに売れ続けて、12月28日に最後のセットが旅立っていった。最後のセットの購入通知が来たときは、リアルに「よっしゃー!」とガッツポーズをした。

売上(送料別):22万5000円
本の数430-50=380冊

コラボ第2弾はパン

第2弾は、3年待ちの超人気通販専門パン屋さんヒヨリブロートの塚本さんと、ネパールで無農薬栽培・在来種のピーナッツを使ったピーナッツバターを作るサンチャイの仲さんにコラボしてもらった。仲さんはジェラートに続いて、2回連続の登場だ。

塚本さんにコラボをお願いした後、サンチャイのピーナッツバターを送った。どんなリアクションがあるのかドキドキしながら待っていたら、メッセンジャーで連絡が来た。

「正直、驚いて、困っています。美味しすぎて。もう、びっくりしています。けた違い」

この感想をもらった時は本当にうれしかったなあ。忙しいふたりに無茶ぶり的にお願いしたコラボだけど、それがきっかけで素敵な出会いにつながったなら、稀人ハンター冥利に尽きるじゃないですか。

この「おいしすぎてけた違い」のピーナッツバターをパンの生地に練りこんで誕生したのが、ピーナッツバターの風味が豊かに香る上品なブリオッシュと、滋味溢れるコクをアクセントに使った、カレー風味のワイルドなパン。

ピーナッツバターの風味が豊かに香る絶品ブリオッシュ

滋味溢れるコクをアクセントに使った、カレー風味のパン

こちらは、塚本さんの好意もあり、強気の200セットを用意した。ジェラートと同じように、塚本さんにピーナッツバターを仕入れてパンを作ってもらい、利益が出るように値付けをしてもらって、そこに本の価格を加えた。

稀人商店で注文を受け付け、塚本さんに伝えて、兵庫県の丹波にある工房から送ってもらうという流れもジェラートと一緒である。

ブリオッシュ2個とカレー風味のパン1個に僕の本をつけて2800円(送料別)。

ぶっちゃけ、この値付けも悩みに悩んだ。パンのおいしさは間違いないけど、それを僕がうまく伝えられずに売れなかったらどうしよう、ふたりに申し訳ないとビビり、塚本さんには「2800円より2750円のほうがいいですかね?」なんて小さな相談をしていた。その時に塚本さんが「2800円で大丈夫、売れますよ!」とカラっと明るく背中を押してくれたんだよなあ。

そして、塚本さんの言葉通り、200セットも完売!!!!!

塚本さんが普段販売しているパンは3年待ちで、今は受付自体していないから、塚本さんのパンを食べようと思ったら、こういうイレギュラーなイベントやコラボの時に買うしかない。そのタイミングを待っているファンが、全国にたくさんいる。塚本さんがコラボパンの告知をしてくれた瞬間から続々とスマホに通知が入って、びっくり仰天した。

売上(送料別):56万円
本の数380-200=残り180冊

コラボ企画の結果

最終的に、ジェラートとパンのコラボ企画で用意した250セットが完売し、本も250冊売れた。書籍だけの売り上げを見ると、仕入れ価格(675円)と販売価格(990円)の差額が315円。これが250冊分だから、コラボ企画によって7万8750円の利益が出た。稀人商店のデザイン費5万円、ラベルのデザイン費の3万円を引くと1250円の赤字になった。ほぼトントン。

一昨年に出した『農業新時代~』は、あちこちで出版イベントをして、半年ぐらいかけて230冊ほど売った。自腹で兵庫や京都にも行ったから、赤字ではないけどトントンぐらい。

今回はコロナ禍で出版イベントができないというところから、オンラインショップで販売する道を選んだ。そうしたら、どこにも行かず、2カ月ほどで250冊売れた。

しかも、僕に興味があるというより、コラボしてくれた5人のファンが購入してくれたことで、書店で本を手に取る本好きとは違う層に届けることができたと思う。購入者のリストも手元にある。

なにもしなければ、オンラインショップの立ち上げから運営の経験をすることもなかったし、新しい層に本を届けることもできなかった。

430冊の書籍の購入費分(29万250円)はこの時点で赤字ながら、今回もまた貴重な経験と財産になった。

商品が完売したのは完全にコラボしてくれた5人のおかげだし、汎用性のない試みかもしれないけど、自分にとっては本の売り方として新しい道を切り拓いた気がする。

次回は、昨年末に恵比寿のギャラリーで開いた稀人マルシェについて記そう。


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