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稀人ハンター版・お金の学校初日 新しい本の売り方「行商」の結果は?

坂口恭平酋長の『お金の学校』は、ほんとにシビれた。書籍の初版印税を辞退するなど奇想天外なお金の稼ぎ方に仰天し、「畑部」など考えたこともなかった発想にまた仰天し、酋長の稼ぎの多さにもまた仰天し、思わず、山崎豊子さんの名著『沈まぬ太陽』に出てくる仰天四郎を思い出した。

この本のなかで、酋長は繰り返し「経済とは流れ」「流れてないと滞る」「流れてる時は心地よい」と書いていて、自分の稼ぎや稼ぎ方など「情報」を流すことも経済の一環だから、オープンにするとあった(と思う)。

僕は川の流れをイメージし、確かに濁りなく、サラサラ流れている清流は見てるだけで気持ちいいよなあと思った。酋長は自ら川を作り出して、そこにいろんなものを流して、自分だけの経済を生み出してる。古代文明が、ナイル川やメコン川など大河のそばで栄えたことを思い出した。

『お金の学校』を読んで、僕も川になってみようと思い立った。誇れるほど稼いでないし、酋長ほどオープンにできない(恥ずかしい)。でも、『お金の学校』から発生した大河のほっそーい支流、大河の一滴ぐらいにはなれるかもしれない。

自分の情報を「流す」ことで、誰かひとりでも背中を押したり、地雷を踏まずに済むなら嬉しいし、これを読んだ誰かが「自分も情報を流してみよう」と思ったら、坂口川がより豊かになるだろう。

ということで、今回は僕が昨年10月31日、11月1日に行った本の行商についての情報をオープンにしようと思う。

行商をしようと思った理由

僕は昨年10月に、『1キロ100万円の塩をつくる: 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』という本を出版した。

この本は、塩、パン、チーズ、ジェラートなど「おいしいものづくり」を通じて、アッと驚くような小さな革命を起こしている10人を取り上げたものなんだけど、本の紹介はこれぐらいにして。

著者にとって、自分の本は「わが子」みたいなものです。いや、ほんとに。
でも実は、どんな人が本を買ってくれているのか知る機会はあまりない。書店でどんな人が手に取ってくれるのか、柱の陰から見守りたいぐらい。

それに、自分の周囲を見渡すと、今は「書店に足を運ぶ人」自体が少なくなっていて、書店の棚に置いてもらえば誰かが手に取ってくれるだろうとは安易に思えない時代。わが子同然の自著をより多くの人に手に取ってもらうために、どうしたらいいだろう…と考えた結果が、これ。

「書を持ち、売りに出よう!」。

軽トラモバイルハウスで行商

行商と言っても、本を抱えて路上で売るのはさすがにハードルが高い。そこで閃いた。これも坂口酋長の影響が少なからずあると思うんだけど、川内家は、セルフビルドで山梨に小屋を作っている。ここに詳しく書くと長くなるので、小屋づくりについて気になる方はノンフィクション作家をしている僕のワイフ、川内有緒のnoteを読んでほしい。

この小屋づくりの師匠、大工の丹羽さんが、軽トラの荷台に乗せられる小屋を作ったとフェイスブックに投稿していたのを思い出したのだ。軽トラモバイルハウスで行商をしたら、なんか面白そうじゃない?

丹羽師匠が作った軽トラモバイルハウス。諸々の法律に沿った作りで高速道路にも乗れる。

丹羽師匠に連絡すると、快諾してくれた。

次は、売り場所をどうするか。なんのあてもないので笑、「どこかで本を手売りさせてほしい!」とSNSで声を上げてみた。

すると、以前、一緒に仕事をしたことがあり、今は下北沢の素敵施設・ボーナストラックの運営も手掛けているヌマブックスの内沼さんが、なんだかおもしろそうという理由で「ボーナストラックでなにかやりませんか?」と声をかけてくれた。ありがたい!

そんな機会はなかなかないし、ひとりは寂しいから(笑)、「自分の本を手売りしたい人いる!?」と呼びかけたら、僕以外に5人の著者が手を挙げてくれた。ワオ、なんでも言ってみるもんだ!

ということで10月31日(土)、僕と川内有緒、スポーツジャーナリストの中島大輔、アーティストの秋山あい、コミュニティ・アクセラレーターの河原あず、ジャグラー書店員の青木直哉が、ボーナストラックで自著を手売りすることになった。名付けて、「物書き手売りフェス」。

さらに!『1キロ100万円の塩をつくる: 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』に登場する、女性として史上初めて日本一になったチーズ職人、柴田千代さんが自身の工房で月に一度だけ開催するチーズ販売会が11月1日ということで、ここにも出店させてもらえることになった。ラッキー!

テーマは「読みながら味わう」

2日連続で行商をするにあたって、僕は考えた。軽トラモバイルハウスは見た目もインパクトがあるし、ワクワクする。でもそれで普通に本を売るだけじゃ、面白くない。

そこで、僕の本に登場してくれた人の「おいしいもの」を一緒に売ろう!と思い立った。テーマは「読みながら味わう」だ。

早速、『1キロ100万円の塩をつくる~』の登場者のなかから、エベレストの麓で無農薬栽培されているピーナッツを使ってピーナッツバターを作っているサンチャイの仲さんに連絡し、OKをもらう。

さらに、一昨年に出版した『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』に登場する星付きレストラン御用達のハーブハンター梶谷さんの極上ベビーリーフとハーブティー、無農薬栽培で皮から食べられる奇跡の国産バナナ、もんげーバナナの苗を仕入れて就労継続支援施設で作っているひかりバナナ(山口)を仕入れることにした。もちろん、『農業新時代~』も一緒に売る。

行商の準備

ちなみに、僕は「やるからには本気。本気でやらないと面白くない」と思っている。本気とは、どういうことか。「形から入る」ということだ。よくスーツを着るとビジネスモードになるというけどそれと同じ理屈で、しっかりと形を整えると気が引き締まってやる気がでる。お金がかかるから、売らなきゃヤバいという尻に火がついた感じもある。お勧めである。

ということで、友人のデザイナーに頼んで「稀人商店」という暖簾を作ってもらった。暖簾自体は3万5750円、デザイン費は1万円。(彼には稀人商店というオンラインショップのデザインもしてもらっていて、そのデザインを流用したので安かった。オンラインショップについては、また後日解説する)

本気なので、もちろん仕入れたものはすべて買い取り。売れなければ、手元に残る。もちろん、赤字だ。それは避けたいから、必死で売る。気合いで売る。

ちなみに、この時はピーナッツバター20個(無糖10個、有糖10個)、ひかりバナナ10本、梶谷農園のベビーリーフ20個、ハーブティー20個を仕入れた。仕入れ価格は先方の都合などもありここには記さないけど、数万円である。

さらに、10月30日、丹羽師匠のモバイルハウスを借りに本厚木に行き、軽トラをレンタルした(軽トラ自体は丹羽師匠が使うので、ハウスだけを借りた)。31日、1日と出店して2日に返すので、3泊4日。これが2万円弱。

暖簾代、デザイン料、レンタカー、商品の仕入れ代金、さらに本厚木から都内の往復の高速代、柴田さんの工房がある大多喜への往復の高速代などを含めると、だいたい10万円ほどの出費だった。

10万円の出費をどう見るか?

誰から頼まれたわけでもなく、自分がやりたくてやる行商は、はたから見れば「遊び」かもしれない。でも『お金の学校』的に考えると、これはただの遊びじゃない――と僕は考えた。

①書店で本を買うのとは違う層に、自分の本を届けられる。どんな人が本を買ってくれるのか、興味を持ってくれる人のイメージがつかめる。

②本と商品を買ってくれた人には「読みながら味わう」という体験を提供できる。それはきっと読者にとって、楽しいはず。楽しい体験には、価値があるだろう。

③自分の本に出てくれた人たちの商品を仕入れて売ることで、その商品を世に広める応援ができる。ファンづくりにも貢献できる、かもしれない。

この3点を考えても、自腹で10万円払う価値はあると思ったけど、読者の皆さんはいかがでしょうか? そして、行商の結果はいかに?

2日間の行商の結果

本と商品の売り上げをシンプルに記そう。

初日のボーナストラックでの行商の様子

2日目のチーズ工房 千での行商の様子

自分の本は2冊合計で37冊販売。今回仕入れたピーナッツバター20個、梶谷農園のベビーリーフ20個、ハーブティー20個、皮ごと食べられる国産バナナ10本、すべて完売。

なんと!初日に約5万円、2日目にも約5万円売り、合計金額は約10万円。細かく計算すると数千円の赤字になったけど、大雑把にいうとトントン!

なんだ、儲けなしかよ……と思う人もいるかもしれないけど、僕からすると大成功だった。なぜなら、先に挙げた①、②、③をすべて達成できたから。特に、自分の本を買ってくれるのがどんな人がわかったのは、めちゃくちゃ大きなポイントだった。

本を発売するタイミングでよく出版イベントをするけど、それはもともと著者や本のテーマ、内容に興味を持った人が参加するもの。本屋で買ってくれる可能性が高い。今回の行商では、僕や僕の本に興味を持って買いにきてくれた人もいたと思うけど、大半は「その場で居合わせた人たち」。

実際、僕のことも僕の本についても、まったく知らない人が大半だった。たまたま軽トラの前を通りかかり、僕から声をかけられて、足を止め、本や商品を買ってくれたのだ。それは開拓であり、未知の出会いである。

開拓も、未知の出会いも、その言葉自体にドキドキ、ワクワクしない? そして『お金の学校』という原点に戻ると、僕は見知らぬ人たちと会話をしながら、下北沢と大多喜で確かに「情報」を流したという手ごたえがあった。

この経験は、プライスレス。お金を払ってもなかなかできないだろう。だから、僕にとって出費と収入がトントンになったのは、万歳三唱なのだ。こんな貴重な体験を、ほぼゼロ円でできたのだから!

そしてなにより、とんでもなく楽しい2日間だった。

続く


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