リテンションを高める「アンカリング効果」と「Aha Moment」戦略

サービスは新規顧客を誘致するために様々な方法を試みます。Google検索、YouTube、TikTokなど他のプラットフォームを利用する顧客をターゲットに広告を展開し、サービスに初めてアクセスした顧客には価格割引の特典を提供することもあります。そうして誘致した新規顧客が継続的に我々のサービスを利用するようになったとき、初めてサービスの成長に貢献することになります。
このように、新規顧客がリピーターに転換するためには、サービス利用の初期段階の体験が非常に重要です。今回の記事では、「アンカリング効果」と「Aha moment」の観点から、アプリサービスの新規顧客がリピーターに転換する韓国スタートアップの事例と特徴を見ていきます。

SAZOの写真撮影の際に盗撮しました

アプリの初期体験が顧客のリピート率を決定する

新規顧客のアプリ初期体験は、リピーターになるために重要です。アプリを初めて体験する際に、継続して使用するか削除するかを決定するからです。したがって、新規顧客がアプリをどのように認識しているのかを理解する必要があります。

新規顧客はアプリの利用経験がありません。この時、アンカリング効果が現れます。アンカリング効果とは、錨を下ろした船が動こうとしてもロープの範囲外に出られないように、人間の思考や判断も最初に提示された情報の範囲内で大きく外れることなく行われるという意味です。

アンカリング効果とは?
錨を下ろした船が動こうとしてもロープの範囲外に出られないように、人間の思考や判断も最初に提示された情報の範囲内で大きく外れることなく行われるという意味です。

アンカリング効果について

例えば、スーパーマーケットの「割引価格表」について考えてみましょう。大型スーパーやアウトレットで割引商品を見ると、価格表には「元の価格」と「割引価格」が一緒に記載されています。消費者はこの二つの価格を比較することで割引額を実感し、購入の動機を得ます。しかし、もし「元の価格」なしで「割引価格」だけが記載されていたらどうでしょうか?その商品がなぜ安いのか実感できないでしょう。つまり、割引価格を見る消費者にとって「元の価格」はアンカリングとして作用するのです。

このように、顧客に何らかの行動や判断を下すための基準(=割引商品の「元の価格」)を提示して行動を促すこと(=「割引価格」で購入を誘導する)をアンカリング効果と呼びます。

アプリサービスを初めて利用する新規顧客にもアンカリング効果が現れることがあります。それは、アプリに初めて接続した際の体験が、その後のアプリ内での行動に影響を与えるということです。新規顧客はアプリの利用経験がないため、最初に何をすればいいのか慣れていません。そのため、アプリ接続の初期段階で、サービスが望む行動を促すように誘導することができます。アプリ接続初期の体験がアンカリングとして作用し、顧客の特定の行動を誘導するアンカリング効果が現れるのです。

アンカリング効果が現れる新規顧客の体験

アンカリング効果が現れる新規顧客の体験の流れは次の通りです。


Figjamで簡単に描きました

アプリ接続初期に提供する体験は、新規顧客の行動を誘導する「アンカリング」の役割を果たします。この時にどのような体験を提供するかによって、顧客の行動が変わります。
新規顧客の体験にアンカリング効果がどのように現れているのでしょうか?

1. アプリ接続前

アプリに接続する前、新規顧客はアプリをダウンロードします。この時点ではまだアプリの利用経験がないため、アプリに接続した時に最初に表示される画面や、どのような体験をするかは具体的にわかりませんが、アプリに対する期待を持っています。

2. アプリ接続初期に提供する体験

アプリ接続初期に提供する体験は、新規顧客の行動に影響を与えます。新規顧客はアプリの利用経験がないため、何をすればよいのか分かりません。このため、サービスはこのような新規顧客の行動を誘導することができます。

もし新規顧客が接続したサービスがこれまで利用してきたものとは異なるタイプのサービスであり、使用方法を習得することが重要である場合、アプリ接続初期に使用方法を学べるフローを設計することができます。あるいは、サブスクリプションサービスの加入率を高めるために、アプリ接続初期の体験を設計することもできます。

例えば、定期購読サービスに加入するかどうかを決定する際、顧客はその価格が妥当かどうか判断できない場合があります。この時、「コーヒー一杯の価格で購読してみませんか?」というメッセージが提供されれば、「コーヒー一杯」が顧客の決定に対するアンカリングとして機能します。顧客はコーヒーが毎朝飲むものであり、大きな負担になる金額ではないと感じることができ、「購読料=それほど負担のない金額」という考えを持つことができるでしょう。

上記の例を続けると、コーヒー一杯は顧客にとって負担のない金額という認識を形成し、定期購読サービスへの加入のハードルを下げます。コーヒー一杯という情報が、顧客の購読を決断させるアンカリング効果として機能したのです。

このように、新規顧客のアプリ接続初期に提供される体験は、その後のアプリ内での行動に影響を与える可能性があります。それでは、サービスを提供する私たちは新規顧客にどのような行動を期待し、アプリ接続初期の体験をどのように設計すればよいのでしょうか?

顧客のリテンションを促進する「Aha Moment」

サービスは新規顧客をリピーターに転換するために、サービスを継続利用する理由を感じさせる必要があります。さらに、同業界内に多くのサービスが存在する場合、他のサービスと差別化された優れた体験を設計することが重要です。

例えば、韓国の食品業界では、Market Kurly、クーパンロケットフレッシュ、SSGの三つのプラットフォームが同様に迅速な配送サービスを提供しています。この時、Market Kurlyは「私の体のための有機商品」を、クーパンロケットフレッシュは「低価格の商品」を、SSGは「さまざまな業者による商品選択肢」を顧客に提供します。その中で、新規顧客は最も魅力を感じたサービスでリピーターに転換されるでしょう。(次回の記事のはKurlyに関して分析したいと思います)

新規顧客のリテンションに関連する概念には「Aha Moment」があります。Aha Momentとは、新規顧客がリピーターに転換する体験を定義したもので、新規顧客がサービスに留まる決定的な瞬間と定義されます。Aha Momentは「XXという行動を、登録後YY日以内にZZ回行う」という形式で表されます。例えば、メタは10日以内に7人の友達とつながることをAha Momentとしています。

サービスごとにAha Momentの形式は異なる場合があります。例えば、スラックではチーム内で2,000件のメッセージがやり取りされたときをAha Momentと定義しています。このように、Aha Momentは「顧客の行動」に注目しています。

Aha Momentがサービスの価値を感じる顧客の行動を定義している点において、私たちはサービスのAha Momentを見つけ、新規顧客がそれを経験できるように設計する必要があります。特に新規顧客にとってはアプリ接続初期の体験が重要であり、この時にAha Momentの「行動」を設計して、サービスに留まる決定的な瞬間を提供することが重要です。

韓国サービス事例: 「アンカリング効果」と「Aha Moment」の分析

今回は、サービス事例を通じて、各サービスが「アンカリング効果」を用いてアプリ接続初期に提供する体験と、それを通じて「アハモーメント」へと誘導する行動を見ていきましょう。

1. オーハウス

インテリアアプリ「オーハウス(오늘의집)」は、接続初期に家のインテリア写真を提供し、これを通じて写真中心の商品のショッピング体験を設計しています。

以下の例示画像を見ると、アプリ接続初期に新規顧客は「ホーム画面」を目にします。この時、顧客の視線が留まる画面中央部に「こんな写真を探していますか?」というメッセージと共に家の写真を表示し、興味を引きます。オーハウス(오늘의집)には「家紹介」、「家写真」、「生活収納」など様々なコンテンツがあります。「家紹介」はインテリアの前後を比較する記事で、「家写真」は家のインテリア写真を見せるもので、「生活収納」は収納方法を写真で紹介するコンテンツです。

その中で、オーハウスは「家写真」コンテンツをアプリ接続初期の体験に設計しています。これが新規顧客の注目を引くのに最も適したコンテンツであると判断したのでしょう。


オーハウススクショ(韓国版)


新しく出たGoogle Image Translationを利用してみましたが、思ったよりいいですね!

さらに、「家写真」コンテンツの詳細画面に接続すると、写真の上に商品の座標が+で表示されており、これをクリックすると商品ページに移動します。家の写真を中心に商品ショッピングの体験を提供しているのです。

このように、オーハウスは新規顧客にアプリ接続初期に家のインテリア写真と「こんな写真を探していますか?」というメッセージを通じて、コンテンツに関心を持たせる「アンカリング効果」を活用し、インテリア写真中心のショッピング行動を「Aha Moment」として設計しました。


2. エイブルリー(에이블리)

ファッションアプリ「エイブルリー(에이블리)」は、初回接続時に顧客に好みのスタイルを選ばせることで、顧客の趣向に合ったショッピング体験を設計しています。

エイブルリーは、アプリに初めて接続した際にサービスの基本画面を表示せず、さまざまなスタイルの写真から顧客が好むものを選ばせる画面を表示します。写真を多く選ぶほど、趣向に合ったおすすめがより正確になるというメッセージと、選択後に「私の好みに合った商品を見に行く」というボタンのメッセージを通じて、顧客に個人の趣向が反映された商品が表示されることを期待させます。


Ably スクショ


Ably スクショの翻訳

さらに、「私の好みに合った商品を見に行く」ボタンをクリックすると、ホーム画面が表示されます。この時、「会員様のためのおすすめ商品」リストが表示されます。前もって顧客が選択した好みのスタイルがホームの商品リストに反映されていることを伝え、興味を引きます。エイブルリーのホーム画面に表示される商品は、他人とは違う、まさに「私」だけのためのリストであり、顧客の関心を引くのに十分です。

このように、エイブルリーでアプリ接続初期に好みのスタイルを選ぶことは、好みが反映された商品が表示されるという期待を形成する「アンカリング効果」です。そして、ホーム画面で顧客の好みに合った商品リストを表示することで、好み中心のショッピング行動を「Aha Moment」として設計しました。


ここにすぐおすすめの商品が出てきます。

まとめ

これまで、新規顧客をリピーターに転換するためのアンカリング効果とAha
 Momentについて見てきました。アプリ接続初期に顧客がサービスのAha
 Momentを経験できるように設計することが重要です。これを通じてサービスの価値を顧客に十分に伝えることができれば、リピーターを確保し、最終的にはサービスの成長に貢献することができるでしょう。韓国から情報を集めて翻訳をしながら改めて「私たちのサービスはどんな価値を、どのように伝えるか」をなやむきっかけとなりました。


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