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燃えてシャンドン(リエゾンの話)

フランス語の取っ掛かりの悪さは発音はもとよりその文法の面倒くささにあり、と先日書いたところ、思ったより反響があって驚いたのだが、他の外国語に比べてもう1点乗り越えなければならない難関がある。

お気づきと思うが、それは「リエゾン」である。リエゾンの複雑さは克服できそうでなかなかできない。それに時代の流れによってちょっとずつ違ってくる。たとえば pas encore はかつては「パザンコール」という言い方が圧倒的に多かったが、今では「パ・アンコール」の方が優勢である。

リエゾンには必ずしなければならないものと、pas encore のようにどっちでもいいものと、絶対にしてはいけないものがあって、それが外国人にとっては大きな壁になる。さらに例外もけっこうある。

& の意味となる “et” は「リエゾンしてはいけないもの」と日本の大学では習う。でも厳密に言うと、et は後ろの単語にはリエゾンしてはいけないが、前の単語にはリエゾンする場合の方が多い。たとえば vingt et un (21) は前方にはリエゾンして後方にはリエゾンせず、ヴァンテアンとなる (ヴァンエアンではない)。

数字とリエゾンはたいへん複雑だが、その最たるものがお金の単位である。
昔は franc だったので、リエゾンなど気にしなくてよく、数字の後に「フラン」を付ければそれで通じた。

しかし euro になってからは複雑怪奇なことになった。フランス人でさえリエゾンしていいのかどうなのか判らなくて、euro だけ数字から切り離してリエゾンさせないでモゾモゾと発音する人がけっこういるらしい。ちなみにフランス語の euro の発音はユーロではなく、オとエの間の曖昧な音でエォロ。すなわちヤ行の音ではなく母音なのでリエゾンの対象となる。

1ユーロ (un_euro)、 2ユーロ (deux_euro)、3ユーロ (trois_euro)、5ユーロ (cinq_euro)、10ユーロ (dix_euro) とだいたいはリエゾン(またはエリエゾン)する。面倒くさいのは、100ユーロは cent_euro サントェロ と t 音でリエゾンするのだが、200ユーロ以降は deux cents_euro ドゥーサンゾェロ のように z 音でリエゾンする。また 20 ユーロは vingt_euro と t の音でリエゾンするが、80 (4 x 20)ユーロは quatre-vingts_euro と z の音でリエゾンする。このあたりをきっちり出来るかどうかで教養が問われるとさえ言われるので厄介である。

さて、前出のように “et” は後ろにはリエゾンしてはいけないが前にはリエゾンする場合が多い。

なので、みなさんよくご存知のシャンパン Moët et Chandon。実は Moët_et Chandon とリエゾンするのが正しい。

モエ・シャンドンでも、モエ・エ・シャンドンでもなく、「モエテシャンドン」が正しい発音です。フランスに行って注文するときにはモエテシャンドンと言いましょう。別のものを薦められる確率は高いけれど。

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