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『アフターデジタル』 - 成功している中国企業のUX戦略から新たな視点を手に入れよう

2020年5月現在、『アフターデジタル』続編の原稿が無料公開中です。最新情報は藤井保文さんのTwitterをチェックしてみてくださいね。

こんにちは、キッチハイクのデザイン/マーケ担当メルヘンくみこです。

withコロナ、afterコロナの新しいビジネスを考えている人におすすめと言われて『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(著:藤井 保文, 尾原 和啓)を読みました。

「デジタルを取り入れたビジネスなんて、いまさらじゃない?」そう思って読み始めたら、もう読む前には戻れないような新しい世界の視点を手に入れてしまいました。

キッチハイクのグロースメンバーに同じ視点を共有したいので、参考になった中国企業のUX戦略を中心にお届けします。(社内向けに書くので、本の要約を見たい人にはずれた内容かもしれません。)

最高のユーザー体験で勝負する世界へ

中国では顔認証で決済ができたり、エストニアでは体内に埋め込んだマイクロチップで決済ができるようになっています。こうした世の中ではIoTやセンサーが偏在し、その結果として現実世界ではオフラインがなくなったり完全に「オンラインだけになる世界」になります。

そして、そうなる前と後の時代ではそもそものビジネス原理すら異なるものになります。こうした時代や考え方の違いを分かりやすく伝えるために、著者が作った言葉が「アフターデジタル」です。それに対し、「オフラインを中心にデジタルを取り込む」という日本人的な捉え方を「ビフォアデジタル」と呼んでいます。

すでに「アフターデジタル」の世界を生きる現代の企業間では、顧客IDに紐づく膨大な行動データによって最高のユーザー体験をいち早く構築した企業が勝ち残るという原理で競争が進んでいます。

そのなかで重要なビジネス原理として挙げられているのが以下の2つです。

(1)高頻度接点による行動データ分析とユーザー体験の改善ループを回す(2)最適なタイミング・コンテンツ・コミュニケーションを届ける

ここで、本書でも大きく取り上げられている中国の「平安保険(ピンアン)」グループという保険会社の事例を紹介します。

もともと保険とは、一度購入した後の保険会社と顧客の接点は少ないもの。平安保険はこれを危機と察知し、医療、移動、住居、娯楽といった生活圏にサービスを拡大。積極的な企業買収を行い、幅広い顧客接点を得ることに成功します。

そして特に顧客から支持を得ているサービスが「平安グッドドクターアプリ」。2019年時点で2億人を超えるユーザーを抱えた巨大健康プラットフォームです。このアプリでは3つの機能でユーザーとの高頻度接点を実現しています。

まずは医師に年中無休で無料問診できる機能、次に病院予約機能、そして「歩くとたまるポイント機能」です。このポイント機能はユーザーは1日が終わる前に一度アプリを開いて「換金」ボタンを押さないと歩数がリセットされる仕組みになっているようです。これは本当にうまい仕組みだな〜と思いました。

保険会社としては潜在顧客の行動データが可視化されていき、営業員は顧客にこのような電話をかけることができるようになります。「最近、体調はいかがですか?」「病院に行くのであれば、私がお子さんをみていますよ」こうした顧客が本当によろこぶタイミングとコミュニケーションをとることで、顧客から信頼されるサービスになっていくそうです。

こうした世界では、企業戦略として「すぐに売り上げにつなげるのではなく、ずっと寄り添うことを重視」してサービスの改善が行われています。接点つくりはアプリ、信頼作りは営業員、というようにアセットやリソースを有効活用してユーザーに寄り添う効果を最大限に高めているのです。

今まではデジタル=冷たいイメージがありましたが、このようなデジタルの活用の仕方をすれば本来私たちが大事にしたかった人間同士の暖かいコミュニケーションに時間を使えるようになるのです。お金とサービスの交換の原理から、人間同士の贈与の関係を構築できる世界がすぐそこにあります。

これからのビジネスに必要な視点

さて、実例を見たところで自分たちが新しくビジネスを考えるうえでどんな視点を持てば良いのかを見ていきます。

「アフターデジタル」の世界、つまり「オフラインが存在しない世界」になっても、そんなに変わらないんじゃない?そのまま成功している企業をマネすればいいじゃん。そう思いますよね。

しかし、ここで起きていることの本質は「社会システム自体の概念が変わっている」ということにあります表面上の仕組みを真似するだけでなく、社会基盤やビジネスモデル自体がどう変わるのかを考慮した上で、私たちらしい体験を再構築する必要があるのです。

「ビフォアデジタル」感覚の延長で、新しいビジネスを考えるのは危険であると本書でも警鐘を鳴らしています。

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引用元:ビービット(https://www.bebit.co.jp/services

中国のプラットフォーム企業は、すでにデジタルが完全に浸透したOMO(Online-Merge-Offline)の世界を前提に企業活動を展開しています。本書の中で日系企業が中国企業に訪問した際のエピソードがあり、視点の違いを感じることができました。

日系企業「当社はオフライン店舗を多数持ち、店舗の品質やネットワークが主軸のアセットですが、今後はしっかりオンラインも活用してビジネスを拡大していきたい」

中国企業「顧客はオンラインやオフラインのどちらで買おうなどと意識することなく、近くの一番便利なソリューションで買い物がしたいと思っているだけです。オンラインとオフラインを分けて考えることから脱却する必要がありますね
日系企業「我々は顧客が多く、データ資産が強みと考えています。その顧客情報を生かす示唆や経験はないか」

中国企業「顧客属性の情報だけだと価値はありません。行動の持つ意味を読み取り、最適なタイミングで最適な情報提供ができて初めて意味があります。属性データだけでなく行動データも含め、購買習慣を全面的にデータ収集できるかどうかが、これからのビジネスの鍵を握ります」

デジタル普及率やOMOという考え方うんぬんというのは、顧客や体験を主語にした体験設計のために重要な要素ということです。こうした視点の違いは、経営レベルで思考を変えていく必要があります。

中国のようにトップダウンでの大改革が比較的しやすい環境があれば問題ありませんが、日本なりの進め方についても著者が提案してくれています。

日本では「変革だ!」と大号令を発して大規模に動くのではなく、体験向上型、すなわちエクスペリエンス型にやりかたを小さく変え、改善ループを回して成功事例を作る、ボトムアップ型で進めるほうがうまくいきます。

今までの体験を磨き、新たな接点を生み出す

本書の最終章では、これからの未来を見据えて日本がとるべき1つの道筋を紹介してくれています。その中で、特にキッチハイクでも参考にしたいのがユーザー体験に重きを置いた新しい体験設計です。

ここでは、既存のビジネルモデルを変革する場合に、以下の2つの観点でジャーニーを考えることを提案しています。

(1)既にある行動データを使いこなすUXグロースハック
(2)(1)で得られた資産を活用するUXイノベーション

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引用元:ビービット(https://www.bebit.co.jp/services

UXイノベーションのイメージがつきやすいように、中国社会を大きく変えたテンセントの「ウィチャットペイ」の広め方の事例も紹介させていただきます。

テンセントは最初、「モバイルで支払えること自体の面白さ」を感じてもらえるテックギークを中心に広めていきました。一定のテックギークを震源地に、ウィチャット・グループに「先着3人が100元を受け取れるお年玉」機能を提供、ゲーム性の楽しさでいろんな人に広まりました。そしてコミュニケーションでいつも使うアプリにお金が溜まるので、使ってみようと思い、銀行口座とつなげて銀行にお金を入れたりするようになりました。こうしてウィチャットは広まりました。

キッチハイクでも、今まさに世界の状況の変化を受けて全体の体験設計を見直し始めています。つねに新しい視点を持ちながら、私たちらしい体験をつくっていきたいと思います。

続編が無料公開中

私がこの本を読み始めたときにはすでに、著者である藤井保文さんのTwitterで続編の原稿が公開されていました。(まずは本記事の感動をアウトプットすることに集中したかったので、まだ読んでいません。。。これでやっと読めます!笑)

今の時代を生き残るために大事な視点が、さらにアップデートされているはずです。ありがたいことに今なら無料で読めるので、本書とセットでStay homeのお供におすすめです。


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