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夢中になれることがある、ということ

『バッタを倒しにアフリカへ』前野ウルド浩太郎

先日、借りていたこの本をようやく読み終えることができました。
開業から1年3か月経ち、細々としたカスタマイズもようやく落ち着いてきたかな、という今日この頃です。
長いこと借りていてごめんなさい。

店主は女性ですがマルチタスクが得意ではないので、ある程度脳内を占める作業は大きなものでひとつ。大きければ大きいほど他のことが手につかなくなります。その分、ハマるととんでもない働きをします(当社比)。
研究者も割とそういうタイプが多いのかな、と思います。

先述のバッタを倒している前野さんは、
アフリカで農作物を喰い荒らすサバクトビバッタの研究者で、
その防除技術の開発のために訪れたアフリカでのフィールドワークの一部始終を綴ったのがこの本です。
前野さんは幼いころに昆虫学者・ファーブルに出会い、
そこから昆虫にぞっこん。ちゃんと大学の研究室も高校生の頃から調べて、ちゃんとお目当ての分野に進んだ「夢をきちんと追い求めてきちんと実現した人」。

おそらく多くの人が「自分が夢中になれる、できれば仕事になるライフワーク」って見つけていないように思います。
私も環境・建設系の学科に進みましたが(しかも院までいったのに)、建築の仕事は一切していないし、グラフィックデザインをかじったり、博物館学芸員をちょろっとやったり、未だに蛇行人生です。
なので、『ブルー・ピリオド』とか、『プラダを着た悪魔』なんかはめちゃくちゃ憧れるわけです。まっすぐで。

バッタの前野さんも「人生をかけるくらいバッタを研究している人がいたっていい。それくらいでないとこの問題は解決できない」と野心を燃やします。

それくらい夢中になれるって、羨ましいですよね。

↟↟↟

そんな私でも「これは!」と思った出来事があります。
大学生の頃、たまに「勉強会」というものを自宅で開催していました。
それは、色んな大学の、色んな学科の、色んな趣味の人が、今一番自分が興味のあることをそれぞれ持ち寄って、こたつくらいの机に頭を付き合わせてプレゼンをするのです。こたつなので、大体4〜5人。
ある人は羊毛フェルトでモビルを作るワークショップをやったり
ある人はエッシャーの永久階段を作れるのか、という実験をするためにみんなで模型を作ったり
ある人は政治の裏側をしゃべったり
分野は芸術、文化人類学、マジック、ととにかく多種多様。

それぞれが自分の得意分野をプレゼンしますが、リスナーは全員分野外。
でもこたつサイズで聞くと講義とはわけが違い、距離感が近い。さらに友人という関係性の距離感の近さも相まって、途中での質問も中断もなんでもありだから、誰もおいてけぼりをくらわないし、分からないを残さない。

そして何より、その分野を知らない人に自分の分野のことを話すというのは、自分自身が一番学びます。学業でインプットされてきた数々の情報を、友人レベルで分かるように整理し、伝える。
そこで「へぇ〜」と言わせたら、勝ちです。
時には辛辣な質問も出ます。「それって何かの役に立つの?」「何がおもしろいの?」「何でその分野を勉強しているの?」
これら遠慮のない質問が話し手の脳内をさらに整理してくれると同時に、熱かった頃の初心を取り戻したりするのです。

そんな勉強会の中でも私が一番衝撃を受けたのは、数学の話。
「ABC予想」や「リーマン予想」というと聞いたことがあるかもしれません。ある仮説に対して、それが正しいと証明できるまでにどんな天才が挑んでも未だ解決できていない超難問の存在です。
そもそも仮説を立てた人がえげつない。そして、その証明のために一生を捧げる人もいる。出た!まっすぐな人!
(ABC予想は証明されたものの査読が最近終わりましたね。査読だけで8年もかかっているからまたえげつない・・・)

本来ならそういうことは興味がないと調べもしないし、一生知らないままかもしれない。勉強会のように受動的に知るということがまず新鮮でした。
ここで知った様々な新しい世界はどんな授業よりも得難いものがありました。その後、本屋では本来なら手に取らなかったであろう本が目に留まるようになったり、見る映画やテレビの変化など、ちょっとずつ生活を変えていきました。
広がったアンテナは、その後の人生の幅の広がりを大きく変えるといってもいい。

私はこの時から異分野や、普段出会わない人との出会いに虜になりました。
「勉強会」から何年経っても、仕事で人に感じてもらいたいことは常にこの新しい世界との出会いであり、自らも新しい世界に出会うために、色んな人に出会うための仕事をしようと生きてきました。この基準軸はどんな職に就いても変わっていません。

↟↟↟

当店を知っているならうっすら気づいた方もいらっしゃると思いますが、
THE SPACEの構想はそこから来ています。
先述の通り店主はマルチタスクが得意ではありません。でも、お店作りにはいかにマルチに人々の興味を惹きつけるかという点も大切。店主だけではできないこのマルチさを「人」に切り替えたのがTHE SPACEです。
要は他力本願なんですけどね。

【THE SPACEとは】
THE SPACEはPOP UP専用スペースで、店舗の1室がまるまるそのスペースに充てられています。ほぼ週替わりで入る店舗が変わります。
2020年はコロナで何もやっていない期間もありましたが、のべ38組のPOP UP SHOPを行いました。

私もこのTHE SPACEで具体的に何をやりたいかなんてわかってはいません。
やるうちに、自分も、お客様も知見が豊かになっていくに違いないと思いながら、とりあえず入っていただきたい店舗さん・作家さんに声をかけたり、かけられたり。
毎回といっていいほど、モノにまつわることだけではなく、空間の使い方には発見があります。そして、借り手からつながるご縁も。POP UPをきっかけに初めて来店された方が、お店のファンになってくれたり、自分も出したいというお声をたくさんいただくようになりました。

ただ雑貨だけ売っているとマンネリしてくるとこもあるし、やる気だって無くなるときもありますが、毎週新たな出店者さんを迎えることで、
こういった人と人の数珠繋ぎが、やめられないんだなぁ
と常々思います。

そしていつか、バッタの前野さんのように好きが社会に欠かせない存在になるように、いつまでも他力本願でいたいと思います。


・・・前野さんの夢は実は「バッタに食べられたい」なので、
リトルドリームのために社会貢献にまで好きを貫いてしまった人
というのが実は正しいのかもしれません(笑)

ああ、アフリカに行きたいなぁ。

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