ユリシーズ 第14挿話 太陽神の牛 エロと言文不一致運動について

メモ的に。

産院で宴会をするバカどもの寓意
丸谷他訳の訳註では、あの広間を「卵巣」と書いているが、それ「精巣」の誤植でしょ。しかもそれでも間違えていると思う。
あそこは、コンドームの袋の中。蠢くバカどもは精子。「永遠の童貞」なんじゃろう。
今のコンドームと同じ構造なら「暖炉」は前方のポッチ。その前の主人席は空席なのです。
何度も、帽子や外套やらを被ったり着たりするので明白だと思うが。
で、U-Δ14.87-88の表現は、最初、膨れ上がった精巣と女性陰部かと思ったが、そうではなくコンドームが精液が溜まり続けて膨れあがっているととれば、はじけて飛び出すのは、また愉しからずや。「バーク酒場へ!」

14挿話の「言文不一致運動」と言いたくなる大騒ぎ
実は、衒学的なスティーヴンと現実的なブルームの出会いを劇的に描くための大袈裟な仕掛けだったとも読める。
それまでほとんど噛み合わなかった2人が、いきなりシンクロする。

…その表象の千万の変形をばなし終え、し果て、牡牛座の眉上、「ルビー」色なす三綾の記号「アルファ」となむなりて燃え上がる。(U-Δ14.72)

…太陰系の遊星アルファから送られてきたオレンジ色をした炎なのだが、エーテル体にはならずに、第二星座から出る紅玉色の自我によツて受肉化されるのだ(U-Δ14.76)

そして、スティーヴンとブルームの直接の論争(U-Δ14.81-83)ではブルームの科学的「染色体」としての「原形質」が、スティーヴンの神智学的「原形質」の記憶とシンクロし、スティーヴンの「子を産むことが母の生命を守ること」という主張は「染色体=遺伝物質」が母から子にコピーされることで永遠の記憶を得るという論理に合成されている。(スティーヴンは第2挿話などでもしきりに「子は母の薄められた血」と言っている)(ちなみに、メンデルの法則の再発見が1900年、染色体説発表が1902年)

ついに

(スティーヴンの)その偽りの冷静さは習慣に依るものなのか芝居がかりなのか言葉づかひにまで及んでゐたが、その言葉が辛辣すぎるために口にする本人の非健全さ、すなわち、人生の酷薄な面に対する好みをさらけ出してしまふのである。観察している外国人(ブルーム)のなかにある光景が浮かびあがつて来た。ごくありふれた普段使ひの言葉からかつての日々が今ここにあるかのやうに(と思ふ人もあらう)生き生きとした喜びとともによみがへつた。(…)(U-Δ14.86)

そう、「バーク酒場へ!」の直前で、言語的にもスティーヴンとブルームは初めて出会うのだ。
言語的な出会いは意識の融合にまで進み、

外の空気は、(…)神の大気、万物の父の大気、輝きながらあたりいちめんにみちる恵み深い大気。それを神かけていふが、シオダー・ピュアフォイよ、お前は(…)(U-Δ14.89)

ピュアフォイ(夫)を礼賛するかのような朗々たる口語で、バカにするのだ。バカにする? それは「シオダー(Theodrore)」。分解すれば The odor(e) 、すなわち「悪臭」である。(それはピュアフォイが老人であることを嫌でも思い出させる)

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