「光る君へ」11話感想
「光る君へ」11話「まどう心」リアタイしました。
花山天皇が強制退位、それに伴いまひろの父・為時もリストラされてしまいました。さて、まひろたちはどうなってしまうのか。
変わりゆく道長
花山天皇を出家に追い込む陰謀が成功し、まひろとも契りを交わし、公私ともに充実した(?)道長。今週の見所はなんと言っても「高御座の生首事件」でしょう。おそらく大河ドラマ好きはみんな鎌倉殿での首桶ラッシュにある程度免疫がついていたことと思いますが…。まさか今回は生首がダイレクトに鎮座していましたね。
そしてこれが完全な創作でもなく、歴史物語である「大鏡」に記された話だというから恐ろしい。平安時代において、死と血は最大級の汚れ。
もしこの生首の存在が公になっていたら、一条天皇の即位は遅れ、政敵たちに逆襲のチャンスを与えてしまうところでした。
即位式や、結婚式などでこういうハプニングが起こる、みたいな話はいかにも不穏ですよね…。
マリー・アントワネットが結婚を誓う文書にサインをするときにインクをぼたりと垂らしてしまったとか、エリザベートが結婚式のときにティアラを落としてしまったとか…。どちらも女性ですが。
「このことは断じて漏らすな。もし言えば、命はないものと思え」と脅す道長。もう、泣きながら直秀の亡骸を埋葬していた道長はいません。
度重なるイベントによって徐々に真っ黒になっていった某鎌倉の執権を彷彿とさせます。三谷さんと大石さんは親交もあるようなので、もしかしたら参考にしているというか、うっすら影響を受けている所もあるかもしれません。
顔も頭も良いが、危なっかしい伊周
今回、道隆の嫡男である伊周(演:三浦翔平さん)が初登場。お美しいです。さらっと「笑裏蔵刀」を引用する利発さもある。しかし、初対面のはずの安倍晴明にこんなことを言うのはちょっと軽薄な気もします。頼む、余計なことをしないで下さい(盛大なフラグ)。
そして!!筆者の推しでもある藤原定子(のち一条天皇の皇后に)の子供時代が初お目見え。かわいらしく、まっすぐに晴明を見つめるまなざしが賢そうです。定子の目を見た晴明が、一瞬動揺したような気がします。彼にはこの少女の行く末が見えてしまったのでしょうか。
そばに居られたら幸せなのか?
さて、気持ちが通じ合ったはずのまひろと道長の関係も転機を迎えます。逢瀬の回想が妖艶でした。谷崎文学の世界?
再び、まひろと逢う道長。諦めきれない道長は、まひろに「妻になってくれ」と言います。まひろは「それは、北の方にしてくれるってこと?…妾になれってこと?」と尋ねます。
これに対して道長は、「そうだ。…北の方は無理だ。二人で生きていくために、俺が考えたことだ」と返します。
確かに道長なりに考えて精一杯の妥協案を出したことは良くわかります(為時の解雇を取りやめてもらえるよう兼家に直談判してきたまひろを、兼家が「虫けら」呼ばわりしているのをもろに聞いてしまったというのもある)。しかし、まひろはここで、「妾でもいい。そばにいたい」と言えるほど、恋愛に頭一杯になれる女ではないのです…。
ここで、感想で議論を巻き起こしている道長の台詞。
「心の中ではお前が一番だ」。
これは!!!言ってはあかん!!特にまひろみたいな女の子には。
「そうは言っても、いつか北の方が…耐えられない、そんなの!」と想いを吐露します。
わがままだ、紫式部っぽくない、という意見もありました。一理あると思います。
しかし筆者は、「紫式部だからこそ」こう言ったのではないかと思います。
まひろは幼いころから多くの文学作品に触れたことで、男の言葉がいかに信用ならないかを知っているからです。恋しい人を待ちながら眠ってしまう女の身の心細さを書物や和歌を通して分かっているから。
「お前が婿を取れば良い」と提案する宣孝に対して「こんな家に婿入りしようと思う人は居ませんよ」と返していますし、本気で道長の北の方になれるとは思っていないのではないでしょうか。
それでも、相手が道長になると「(妾になってあなたを待つばかりになるのは)耐えられない」と言ってしまう。
これこそ、恋に落ちた男女のままならなさであり、源氏物語の主題そのものではないでしょうか?
とはいえ、この時点のまひろはもちろん「これ、物語のネタにできる」と逆算しているわけではなさそうですし、まひろ本人も、「らしくないことを言ってしまったな」と思っているのでしょう。
感想ツイートを漁っていて目についたのが、「心の中ではお前が一番だ」と光源氏に言われた結果、大きな苦しみを抱えることになった紫の上というキャラに、このときの自分の心情を託しているのではないか?という意見。
すごいと思いました。確かに猫を飼っていて、それが逃げ出したことで兼家から存在を認知され、道長との縁を掴む左大臣令嬢の倫子(のち道長の正妻)は、同じく猫が逃げ出したことで柏木に惚れられた女三の宮を彷彿とさせます。
「愛している」と言っても、ステータスのためにはやはり高貴な妻がほしくなる。
「妻になってほしいと言ってくれたのは嬉しかった。でももしあのとき、貴方のプロポーズを受けていたら私はこうなっていたわ」というifを、紫の上に託して描く、ということなのではないでしょうか?
それこそが、まひろからの、道長への真の返事になるのでは。
しかし、それが分かるのは道長と紫式部の二人きり。誰にも言えない秘密の共有です。これが…ソウルメイトなのか。
もしそうなったら紫の上推しの筆者は感動の涙を滝のように流す自信があります。
「源氏物語」という超大作を書き上げたのだから、さぞかし濃密な人生を送ってきたのだろうな、という解像度が高い。
散楽師の友人を埋葬したり、父親がクーデターのあおりを食ってリストラされたり、想いの強さゆえに愛する人と破局したり…
そういう小さな…いや、大きすぎる絶望を経験して、まひろは確実に大人になってゆくのです。
何がすごいって、この内容の濃さ、面白さでまだ11話ということ。4分の1も経っていないと思われます。
個人の意見ですが、鎌倉殿に匹敵しそうな香りが漂ってきました。目が離せません。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?