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12月24日


 昼過ぎから散歩、ついでに昼食を買う。外は年末の雰囲気、一人で出歩くのは自分以外滅多にいない様。つい先日まで路傍の木に紅葉が残っていたから今年は暖冬かと思っていたがなんだかんだと寒くなってしまった。外に出れば寒さから足裏には虫の蠢くようなこそばゆいような、またそれを一歩一歩路面を踏みしだくことで緩和しているような感覚。家に帰って手を洗えば、冷え切ったはずの水道水も無感覚で却って苦にならない。ただ横浜で越す初めての冬だから、土地柄の問題なのか、気象の問題なのか、例年通りなのかそうでないのか、そんな事が何もわからない。
 弁当を買う途中には、綺麗なイチョウの並木道がある。ただもう葉は殆ど地面に黄色く散り敷いて、箒の先のような枝だけが、煉瓦造りの建物らを背景に幾重にも差し挙げられている。そこら一辺に冬の西陽が当たる。眩しいばかりで身体を暖めるには役をしない、またちょうどイチョウの葉の黄色によく似た金色の西陽が。僕は買った弁当をぶら下げて、その西陽の中を、鴎外の『青年』を読みながらぼつぼつ歩いている。そこにはこう書いてある。「ちっと無遠慮に世間へ出して見給え。活字は自由になる世の中だ」そんならと思って、僕はこうして書いている。

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