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嚥下力を維持するためにできること

うちの息子はとにかく食べることが大好きです。
4ヶ月ごろから大人の食事をみてはエアーモグモグ&ヨダレ。早めに離乳食を始めたところ、みるみる上達していき、食べる量も今や姉に及ばんばかり。
しかも食べこぼしもほとんどない。お椀を持って自分で味噌汁を煽ります。

そんな息子を見ていて、感心するのは嚥下力。
わたしが同じようにガブガブ味噌汁を飲んだら、まず間違いなくむせます。

今回は、この嚥下力について。

嚥下(えんげ)は、STにとっては切っても切れないキーワードです。
嚥下というのは、つまり「飲み込む」こと。
口から入ってきた飲食物が、咀嚼され舌と上顎で固まりになり、喉の奥に送り込まれ、ごっくんと飲む作業です。
厳密には上記の説明では「摂食」と「嚥下」が混ざっているのですが、ひとまず追求しません。
最近はしばしば聞くことが増えてしましたが、「誤嚥性肺炎」などという恐ろしい病気もあり、本当に慎重に立ち向かいます。

この食べ物・飲み物を飲み込む、という作業が難しくなるのが「嚥下障害」です。
原因は脳卒中や咽喉の手術の後遺症、入れ歯があっていないなど様々ありますが、実は加齢もその一つ。

周囲の人と話をしていても、40代半ばくらいの人から「最近むせやすくなった」と相談されることがよくあります。
文献などでは、75歳以上であることはat riskであるとされていますが、現実はもっと以前から軽微な症状は出つつあるのかもしれません。
ただ、健康な40歳代だと気道に入りかけても、体力があるので咳により回避できるのでしょう。

そしてもう一つ、男性であることも嚥下障害のリスクを高めます。
それは喉頭の位置が低いから。男性は声が低いですが、その分女性よりも喉頭の位置が低くなります。
嚥下の時には、筋肉の働きにより喉頭が持ち上げられて「ごっくん」となるのですが、男性は喉頭が低い分女性よりも強い力を必要とします。それに移動距離も長くなる。
そのため加齢などの理由により筋肉の動きが衰えると、食物の落下のスピードと「ごっくん」のタイミングが合わなくなりやすいのです。

この嚥下障害、むせているだけならまだいいのですが(苦しくて辛いからむせないほうがいいけれど)、先述した誤嚥性肺炎の原因となります。
誤嚥性肺炎は肺炎の一つですが、平成29年度の日本人の死因7位。高齢者の肺炎の中では1位という、結構な猛威を振るっているのです。

よくむせた時「変なところに入った」なんて言い方をしますが、大抵の場合は入りかけたけど咳が外に吹き飛ばしてくれて、きちんとしたところに戻ります。
ところがこれが本当に気道に入ってしまい、そこで肺炎を起こしてしまうのがです。
臨床で見ていて多いのは、初めは軽い誤嚥性肺炎で本人も体力があり回復していたのが、嚥下機能のリハビリが進まなかったり、本人が必要性を感じずにこれまでの食事パターンを変えられず、結果として誤嚥性肺炎を繰り返してだんだん衰弱するという状況です。

食べにくいもの、食べやすいもの、食べやすくする工夫、嚥下の訓練方法。
当然情報提供もリハビリもあるのですが、なかなか食事を変えることって難しいのですね。それは太っているのを自覚してもダイエットができないのと同じかもしれません。

「だって今まで大丈夫だったし」
「これくらいなら」
「食べるのを我慢するくらいなら、病気になってもいい」

とか。わからないでもないけれど、本当にいいの?
もちろんそういう気持ちを受容した上で、結果としてきちんとリハビリを受けていただけるように対応します。


さて、話が横道に逸れました。
脳卒中など他の疾患を原因とする場合を除いて、加齢を原因として嚥下障害になるのは予防ができます。嚥下は筋肉の運動が連鎖して引き起こされるので、それらの筋肉の動きが弱らないようにします。
ここで簡単にできて、おススメのエクササイズを二つご紹介します。

①前舌保持嚥下
舌を前へ突き出し、上下の歯で軽く噛みます。そのまま舌が引っ込まないように気をつけながら、唾液を飲み込みます。
②シャキアエクササイズ
仰向けに寝転んで、つま先が天井を向くようにします。首だけを持ち上げて、つま先を見ます。

シャキアエクササイズは規定の回数があるのですが、私は健常者が行う分にはどちらも「しんどすぎないけどちょっと辛い程度」の回数を実施してもらえばいいと思います。その加減は自分が1番よくわかるはず。
仕事終わりのビールをぐいっと飲みたい、リラックスタイムのコーヒーは手放せない…実は液体はむせやすいんですよ。

お口の健康は、全身の健康にも大きく関わっています。歯磨きなどの口腔ケアはもちろん、嚥下にも目を向けてみては如何でしょうか。

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