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あかるい花束のゆくえ

あぁ私が、最初にこの本のすてきさを見つけた人になりたかった!
謎のジェラシーを感じている。

図書館でたまたま出会い、違う図書館でも見かけ、話題作なのだと知った。
『あかるい花束』という岡本真帆さんの短歌集。

「わ、これはずるい」

本のサイズ、厚さ、重さが、もうずるい。
宝物になるために作られたような佇まい。  
手に取った時点で、
中身を読む前から、ときめいていた。

「どうか、好きな本でありますように」

好きな中身じゃないと困る、と思うくらいに本そのものにときめいた。
中身への期待も自然に高まる。

中を開くとそこにまた。

「うぅ…ずるいよ」

ページにあしらわれた、手描きの小花たち。
とてもかわいく咲いている。
ひとつのページを読んでいるときにも、奥のページで咲いている小花が少し透けてみえている。
これはきっと計算されているんだろうなぁ。
ずるい……

カラーのページはない。
イラストも素朴なタッチ。
だけど、本当にずるいかわいさ。
私は本の装丁フェチなため、この本には心を奪われてしまった。

そして大事な、中身。
これがまた、こころにぺたりと添うように心地よかった。
特に好きだったふたつの歌を。

ひとりにはやや多すぎる部屋数のひとつひとつに朝を教える

老夫婦にゆっくりなれたかもしれないひとの優しい手を放す冬

「あかるい花束」岡本真帆   ナナロク社

先程まで全く知らなかったはずの、この本の主人公。
その主人公が、一体どんな状況に置かれているのかが
57577の短いリズムの中で、少しずつわかるようになっていく。
説明的ではないのに、風景が見えてくる。

あまりにもなめらかに話が進むものだから、情景を理解できる読み手側が、
さも掌握力が高いかのように勘違いさせられてしまいそうになる。
本当は、作者のあざやかな表現によって、景色を見せてもらっているに過ぎないのに。

直接的な表現でドラマを展開する短歌よりも、比喩でまとめられたような短歌に惹かれがちな私。
『あかるい花束』は私にとって「好き!ずるい!すき!」の連続のような短歌集だった。

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きっかけは、毎夜楽しみに聴いている、ライターの佐藤友美(さとゆみ)さんのVoicy。
番組の中で『老人ホームで死ぬほどモテたい』という短歌集が紹介された。著者は上坂あゆ美さん。
さとゆみさんのVoicyを聴いて「あ、短歌のシーズン、来た感じする!」と久しぶりにソワソワした。
世の中はこれまでもシーズンなんて関係なく、ずっとすてきな短歌が生まれ続けているのだけれど。
私にとっての、シーズンが、来る予感。

短歌は、学生の頃に楽しんでいた。
読んだり、作ったり。
でもお恥ずかしながら、追求には至らず。
そのため、上手に詠めるようにはならない。
だけど、見るもの見るものが57577で語りかけてくるような時期があった。
短歌のリズムで生活しているような。
素人ながらにその感覚がたのしくてうれしかった。

カメラのレンズを通して見る風景が、いつもより鮮やかに見えるのと同じような感覚で、57577で切り取る生活の眺めが好きだった。

それなのに、最近ではなぜか遠のいてしまっていた。
あの感覚で今の日々を眺めることができたなら、きっと違う景色が見えそう。

そんな矢先に手に取った短歌集が、岡本真帆さんの『あかるい花束』。
前作には『水上バス浅草行き』という短歌集がある。

あとで調べてみたら、さとゆみさんおすすめの上坂さんの『老人ホームで死ぬほどモテたい』と
岡本さんの『水上バス浅草行き』は作者同士が出版社を飛び越えて、お互いの歌集について書き合った「副読本」なるものも発行されているという。

好きになった作者と、これから読みたい作者同士がつながっていた!

何かを好きになったとき、こういった関連性が見いだせると大体深みにハマる気がする。
呼ばれてるかもしれない!という妙な高まりと明るい勘違い。
楽しい気配である。
これから開ける扉が次に見えると、やっぱりつい、開けたくなってしまう。

さて、どの扉、どの表紙から開こうか。
どなたか、一緒にドアをノックしてくれる方もいらっしゃったら、ぜひ。

ちなみに装丁は鈴木千佳子さん。他に手掛けていらっしゃる本を見たら、すでに知っているものがあれこれ!「わーかわいすぎるー!」とときめきは続いております……にこにこ


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