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「トレド水危機」から10年、農業界は改善アピール

米中西部オハイオ州トレド市で2014年8月に発生した「トレド水危機」から、ちょうど10年が経過しました。水質汚染の元凶として批判された農業界は、さまざまな取り組みにより事態が改善していると必死にアピールしています。しかし、2024年夏もアオコによってエリー湖は汚染されており、依然として改善は道半ばです。(上の写真は「FLOW」ウェブサイトより」)
  
トレド水危機は、北米五大湖のエリー湖西岸で有毒アオコが大量に発生したため、エリー湖を水道水源としていたトレド市などで8月2~4日、水道水の使用を禁じられたというものです。約50万人が影響を受けたとされ、自治体がペットボトル入りの水を住民に無料で配る様子などが全米で大きく報じられました。エリー湖での遊泳もしばらく禁じられました。
 
オハイオ州立大学の分析によると、有毒アオコが発生したのは、肥料に含まれるリンが大量にエリー湖に流れ込み、富栄養化を招いたのが主因です。リンは生活排水などにも含まれますが、85%は農業由来ということです。トウモロコシや小麦などの農家が「主犯」と名指しされ、厳しく批判されました。
 
農家が肥料を使い過ぎたため、大雨などの際に一部が川に流入し、最終的にエリー湖に流れ込んだということです。環境や持続可能性より効率や生産性を重視する米国農業のひずみが浮き彫りになったとも言えます。米メディアでは当時、「エリー湖のケースを警鐘と受け止め、改善に取り組むべきだ」といった論調が目立ちました。
 
その後は、浄水施設の改良も加わり、水道水が飲めなくなるほど深刻な事態は生じていません。一方で、農業に由来する湖沼の富栄養化やアオコの大量発生は、日本を含め世界各地で起きているので、米国だけの問題でもありません。
 
オハイオ州の農業団体オハイオ・ファーム・ビューローは8月1日、トレド水危機から10年経過するのにあわせ、これまでに取り組んできた主要な10項目を公表しました。「エリー湖西岸の農家にとって、水質と栄養分の管理は2014年以前から大きな懸念事項だったが、あの夏の出来事により、健康な水のために取り組みを加速させることになった」と強調しています。
 
具体的には、自画自賛の感は否めませんが、報道などを引用する形で、以下の10項目を挙げました。
 
①    「水質に関する前進は無視できない」との農業界の主張を地元紙が掲載
②    オハイオ州の調査で河川の水質改善が確認
③    農家は農地の保全によってエリー湖の水質を保全
④    農家の環境保全対策をオハイオ州全域に拡大
⑤    農家の環境保全対策で一定の成果
⑥    アオコ汚染に悩む別の湖で農家の対策が効果
⑦    オハイオ州の農家はアオコ問題との関係を確認、対策に意欲
⑧    オハイオ州は投資に値するとの調査結果
⑨    オハイオ州は栄養分の管理計画を強化
⑩    環境保全に向け農家の認証制度を創設
 
 
農業界もそれなりに対策に取り組んでいるのは間違いないのでしょうが、10年経っても相変わらずアオコ汚染が生じていることから、とても十分とは言えないのが現状です。米海洋大気庁(NOAA)は6月27日、エリー湖西岸では「今夏に中程度から中程度以上の有害アオコが発生する」との予測を公表しました。8月中旬の時点で、有害アオコの原因となるシアノバクテリアは620平方マイル(約1600平方キロメートル)に拡大しました。
 
五大湖の水質改善に取り組む非営利団体(NPO)「For Love of Water(FLOW、ミシガン州トラバースシティー)」の幹部は8月1日付のブログで、「エリー湖の汚染対策にほとんど進展がないことに落胆し、いらだちを覚える」と厳しく批判しています。「なぜ毎年繰り返される有害アオコの発生が水質汚染防止法違反とならないのか。いつになったらエリー湖の水が飲みやすく、泳ぎやすく、釣りがしやすくなるのか」と訴えています。
 


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