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有機農業25%目標の達成可能性は「極めて低い」 EU環境当局が厳しい指摘

欧州環境庁(EEA)は2023年12月18日、2030年までに有機農業の栽培面積を25%に増やす欧州連合(EU)の目標について、「達成する可能性は極めて低い」との報告書を公表しました。この目標はEUの農業・食料政策の指針となる「ファーム・トゥー・フォーク(農場から食卓まで、F2F)戦略」の柱として盛り込まれていますが、実現するには対策を大幅に強化する必要性を強調しています。身内から厳しい指摘が出たことで、戦略の見直しを迫られそうです。

EUの欧州委員会が2022年5月に発表したF2Fは、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「欧州グリーンディール」の一環として、2030年までに有機農業面積の25%への拡大のほか、農薬使用量の50%削減、化学肥料使用量の20%削減などを打ち出しました。このうち、有機農業25%目標は、2030年までを対象としたEUの「第8次環境行動プログラム(EAP)」にも盛り込まれました。
 
EAPは2022年7月に発効した後、進捗状況をEEAが毎年検証し、公表することになっています。第一弾として、2023年版の報告書が公表されました。
 
報告書は、EAPに盛り込まれた28目標の達成見通しについて、「可能性が非常に高い」「可能性が高いが不透明」「可能性が低いが不透明」「可能性が極めて低い」の4段階で評価しています。このうち、有機農業25%目標については、「可能性が極めて低い」に分類されました。
 
有機農業として認められるには、農薬や化学肥料の使用抑制のほか、動物福祉への配慮、遺伝子組み換え(GM)技術の不使用といった条件をクリアする必要があります。報告書によると、EU27カ国の全農地に占める有機農業の割合は2021年時点で9.9%となりました。有機製品の需要増加や政策支援の効果により、2012年の5.9%から着実に増えています。

しかし、年間の成長率は6%にとどまり、このままでは2031年の有機農業の割合は15%にしか拡大しないと試算しています。2030年に25%に増やすには、年間の成長率を10.8%と2倍近くに加速させ、毎年2万7000平方キロメートルを有機農業に転換させる必要があるということです。2万7000平方キロメートルは、東京都の面積(2194平方キロメートル)の12倍超に相当します。
 
2023~27年を対象とした現行のEUの共通農業政策(CAP)に沿い、加盟国は有機農業の拡大などの具体策をまとめた戦略計画をそれぞれ策定しています。しかし、それに基づくと、2027年に有機農業の面積はEU全体で10%程度にとどまる見込みです。こうした状況を踏まえ、報告書は「現時点では目標と大きな隔たりがあり、目標達成の可能性は極めて低い。現在の政策支援では、目標達成に不十分だ」と結論づけました。
 
報告書はその上で、「欧州グリーンディールの実行にはもっと長い時間が掛かる」と指摘しました。さらに、「有機製品の需要は2022年以降不安定になっている。食品の生産と消費の両面で政策支援を強化する必要がある」と提言しました。
 
報告書は、EU27カ国で有機農業の普及に大きなばらつきがある点も指摘しています。2021年時点で、オーストリアとエストニア、スウェーデンは20%を超えているのに対し、アイルランドやブルガリア、マルタなど6カ国は5%未満にとどまっています。2012~21年の間で、有機農業面積のシェアはEU全体では拡大しているものの、ポーランドはむしろ縮小していることも指摘しています。

F2Fを巡り、EEAは2023年4月、2030年までに農薬使用量を50%削減する目標の達成は困難との報告書を公表しました。経済協力開発機構(OECD)も同年10月、F2Fの目標達成には具体策が不十分との報告書をまとめています。欧州議会は同年11月、農薬半減法案を否決しました。2020年5月の策定から4年近く経過し、目標期限があと6年に迫る中、F2Fは厳しい逆風にさらされています。
  
2024年6月には5年ごとの欧州議会選挙が予定され、フォンデアライエン欧州委員長の任期は2024年10月末で終了します。EUの政治体制が転換期を迎える中、F2Fも実効性を新ためて問われ、見直しを迫られる可能性が強まっています。

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