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カナダとの乳製品紛争でニュージーランドが勝利

乳製品をめぐるカナダとニュージーランドの貿易紛争で、環太平洋連携協定(TPP)の紛争処理小委員会(パネル)は2023年9月5日、ニュージーランドの主張の主要部分を認める決定を下しました。カナダはTPP交渉で乳製品市場の部分開放を迫られましたが、約束通りに実行していないということです。日本も参加するTPPを舞台にした初めての貿易紛争で、今後こうした紛争が増えてくるかもしれません。

日本や米国、オーストラリアなど12カ国は2015年10月にTPP交渉で大筋合意し、2016年2月に署名しました。その後、2017年1月にトランプ米政権(当時)が離脱したため、11カ国が2017年11月に包括的・先進的なTPP(CPTPP)として新たに合意し、2018年12月に発効しました。2023年7月に英国が参加したことで、再び12カ国となりました。

カナダは、小麦や菜種、牛肉、豚肉などの輸出国で、オーストラリアやニュージーランドなどとともに農産物輸出国でつくるケアンズグループの一員です。しかし、乳製品や鶏肉、鶏卵、七面鳥、種卵については、1960年代以降、「供給管理制度(Supply Management)」と呼ばれる独自の制度に基づき、農家を保護してきました。これは、日本のコメの生産調整(減反)に似た制度で、公的機関が需給を管理するものです。輸入は原則として認めてきませんでした。

関税撤廃を原則に掲げるTPP交渉では、日本のコメなどとともに、カナダの乳製品の扱いも焦点となりました。最終的には、日本のコメなどと同様、カナダは市場開放を阻止すること成功する一方、関税割当て(TRQ)により、TPP加盟国からの輸入を受け入れるため、乳製品の国内需要の3.3%に相当する輸入枠を設けることになりました。

乳製品の大輸出国であるニュージーランドとしては、この枠を使ってカナダへの輸出を増やせると期待しましたが、実際の輸入は3.3%の枠をかなり下回ったということです。ニュージーランド政府は2022年5月、「輸入枠がきちんと満たされていないのはTPP協定違反だ」として、TPPの紛争処理手続きを要請しました。過去2年間で、ニュージーランドに6800万ドルの損失が生じたと訴えました。この貿易紛争には、日本やオーストラリアも関心を示し、第三者として参加しました。

3人で構成するTPPのパネルは2023年9月5日、ニュージーランドの主張の主要部分を認め、乳製品に関するカナダのTRQの扱いの大半について、「TPP協定に反している」と認定しました。ニュージーランドやカナダのメディアによると、カナダは輸入枠について、工業用チーズやヨーグルト、バターなど16品目に細分化したほか、80~85%を国内の加工業者に割り当てていました。輸入枠は設けるものの、分かりにくい複雑な仕組みとすることで、輸入を事実上制限していたということです。

ニュージーランドのダミエン・オコナー貿易・輸出振興相(兼農業相)は9月6日、「ニュージーランドを支持する決定が下された。ニュージーランドにとって大きな勝利だ」と勝利宣言を行いました。「カナダはTPP協定を守らず、われわれの乳製品業界が輸出を拡大するアクセスを事実上妨げていた」と指摘しています。

オコナー氏は「TPPでわれわれはカナダ市場の3.3%、年数万トンの乳製品のアクセスを確保した」はずなのに、カナダは国内の乳製品加工業者に優先的なアクセスを与えていたことが明らかにされたと説明しました。その上で、「ニュージーランドの乳製品輸出業者が、CPTPPを通じて苦労して勝ち取った市場アクセスを適切に利用できるようになることを期待し、カナダの消費者の選択肢が増えることを願っている」と訴えました。

これに対し、カナダのメアリー・エング輸出促進相は「パネルの決定は、カナダにとって明確な勝利であり、とても満足している」との声明を発表しました。主要部分はニュージーランドの主張が認められたものの、輸入枠の割り当てについてカナダ側に一定の裁量が認められたことを「勝利」とアピールしています。ニュージーランドなどを念頭に、「カナダの供給管理制度を弱めようとする国々と割当てについて交渉するつもりはない」と強調しています。事実上敗訴したものの、決定を無視するようにも受け取れるため、これで一件落着とはいかないかもしれません。

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