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米国が除草剤ジカンバの規制を強化 禁止は見送り

米環境保護局(EPA)は2023年2月16日、旧モンサント(現ドイツ・バイエル)などが販売する除草剤ジカンバに対する規制を強化すると発表しました。この除草剤は周囲に飛散しやすく、周辺の農地の作物などを誤って枯らしてしまうといった被害が米国で多く報告されているためです。アイオワ州など4州について、散布できる期間を8~10日短縮するという内容です。

裁判ではこの除草剤の認可自体が不当との決定を受けており、環境団体は使用を禁止させるよう強く求めています。しかし、農業界やバイエルなどの農薬メーカーは使用継続を求めていることから、EPAは規制強化で何とか乗り切ろうとしているようです。農薬による環境汚染が世界各地で問題となる中、欧州連合(EU)は2030年までに農薬使用を半減させるとの野心的な目標を打ち出しているのに対し、米国の対応は鈍く、両者の違いが鮮明になっています。

ジカンバは、グリホサートで枯れなくなったスーパー雑草への対策として導入されたものです。米国では、モンサントの「ラウンドアップ」などグリホサートを含む除草剤を多く使われてきたため、グリホサートに耐性を持つ雑草が次々と登場して、農家を悩ませてきました。この対策として、モンサントはジカンバという新たな成分が有効だと判断し、グリホサートにジカンバを加えた強力な除草剤を開発し、2016年にEPAに認可されました。

モンサントは、遺伝子組み換え技術によりジカンバ耐性の大豆や綿花も開発し、セットで米国の農家に売り込みました。これならば、この強力な除草剤を散布しても、作物に何の影響を与えることなく、従来の雑草やスーパー雑草を駆除できるというわけです。ドイツのBASFやスイスのシンジェンタも同様の商品を販売しています。

バイエルのウェブサイトより

しかし、ジカンバには周囲に飛散しやすいという特徴があったのが誤算でした。農家が自分の農地だけに散布したつもりでも、風に乗って近隣の農家や森林などに飛散し、ジカンバ耐性を持たない作物にダメージを与えたり、生態系に悪影響を及ぼしたりするケースが多く報告され、大きな問題となりました。ジカンバの使用禁止を求めている米国の非営利団体(NPO)の食品安全センター(CFS)は、年6万4000件以上の被害が生じているとして、「米国で史上最悪の除草剤飛散による被害が生じた」と批判しています。

CFSなどの訴えを受け、米控訴裁判所は2020年6月、EPAがこの除草剤の使用を認めたのは違法との決定を下しました。しかし、EPAは同年10月、この決定を無視する形で、条件付きで使用継続を認めることを公表しました。除草剤を散布する期間について、大豆の場合は6月30日まで、綿花の場合は7月30日までに限るということです。その後、期間を短縮するなど規制を段階的に強化しており、2023年はアイオワ、イリノイ、インディアナ3州の使用期限を6月12日(前年は6月20日)、サウスダコタを6月20日(前年は6月30日)に変更しました。

CFSによると、EPAは2017年以降の7年間で5回もこうした細かい修正を行っているということです。使用禁止を求める環境団体と、使用継続を求める農家や農薬メーカーとの間で板挟みとなり、迷走しているのが実情のようです。CFSは「EPAが農薬メーカーに屈服したことで、今年もジカンバによって作物の被害が生じ、農家の生活を危険にさらし、地域社会を崩壊させることになる」と警告しています。

CFSは、NPOの生物多様性センターとともに、EPAがジカンバの使用を認めた2020年10月の決定などを不当として提訴しており、今回の決定もこの裁判に追加するということです。2023年6月に決定が下される見通しだということです。

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