ゲノム編集でウイルス病に強い牛が米国で開発
米農務省(USDA)は5月9日、ネブラスカ大学などと共同で、ゲノム編集技術を活用し、牛ウイルス性下痢(BVDV)にかかりにくい牛を初めて開発したと発表しました。BVDVは世界各地で発生し、畜産業界に大きな打撃を与えているだけに、実用化されれば、被害の軽減に向けて大きな効果を期待できそうです。ただ、ゲノム編集食品には安全性への懸念が指摘されるだけに、牛肉や乳製品として利用されるためには、消費者の理解を得ることが前提となります。
USDAによると、BVDVは全世界で牛の健康に甚大な被害を与えるウイルス病の1つで、1940年代から対策が検討されてきました。人間は感染しないものの、牛の間での感染力は非常に強く、深刻な呼吸器疾患や腸疾患を引き起こす可能性があります。妊娠中の牛が感染すれば、流産することもあるほか、感染した子牛を出産し、その子牛がウイルスをまき散らし、感染を一段と拡大させる事態も想定されます。50年以上前にワクチンが開発されましたが、感染阻止に必ずしも有効ではなく、現在でも抜本的な対策はないということです。
日本の農林水産省の説明によると、近年は日本でもBVDVの発生は増加傾向となっており、全国的な蔓延が危惧されているということです。下痢や発熱、流産などの症状があり、2019年には207戸で359頭が感染しました。ピークの2016年には222戸で406頭が感染しました。予防法はワクチン接種ということです。このゲノム編集による牛が実用化されれば、日本でも飼育される日が来るかもしれません。
USDAによると、ここ20年余りの研究の結果、BVDVは牛の体内にあるCD46と呼ばれる細胞受容体にウイルスが付着することで引き起こされることが分かりました。ゲノム編集でこのCD46を改変することで、感染を防げるようになったということです。USDAの担当者は「我々の目的は、ゲノム編集技術を使ってCD46をわずかに改変させてウイルスと結合させないようにしながら、牛の通常の機能を全て維持することだった」と説明しています。
この試みは成功し、「ジンジャー(Ginger)」と名付けたゲノム編集による乳牛が2021年7月19日に誕生し、数カ月後にBVDVに感染した牛と1週間一緒に飼育されました。ジンジャーの細胞はBVDVへの感染力が著しく低く、健康への悪影響は見られなかったということです。第一段階としてゲノム編集によってBVDVに感染しにくい牛の開発に成功したと言えますが、引き続きジンジャーの健康状態や生殖能力などを観察するそうです。まだ研究段階にあり、こうした牛から生産された牛肉が販売されることはないともUSDAは説明しています。
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