ウクライナの穀物合意から半年、累計輸出額は1930万トン

ロシアの侵攻を受けたウクライナ産の農産物を世界各地に輸出する「黒海穀物イニシアチブ」が2022年8月に始まってから半年が経過しました。国連のウェブサイトによると、23年2月1日までに輸出された農産物は約1930万トンとなりました。日本のコメ生産量が年700万トン程度であるため、その2.7倍ぐらいです。月平均では約320万トンとなり、開始時点では月200万~500万トンとの見通しを示していたので、まあ想定通りと言えそうです。紛争の影響で輸出が激減し、アフリカなどで深刻な食料危機が生じることへの懸念が高まっていましたが、今のところこうした事態は避けられているようです。ただ、ウクライナはもっと大幅に増やしたいようで、「ロシアの妨害で非常に少ない」と不満を表明しています。

国連ウェブサイトより

同イニシアチブは、国連のグテーレス事務総長やトルコのエルドアン大統領の仲介よって実現されました。22年7月22日に合意された文書によると、ウクライナのオデッサとチェルノモルスク、ユーズニーの3港を出港した穀物や肥料の運搬船について、紛争の影響を受けることなく、安全に黒海からボスポラス海峡を通って世界各地に向かえるよう運航することが目的です。共同調整センター(JCC)と名付けた機関をボスポラス海峡があるイスタンブールに設置し、ウクライナやロシア、トルコ、国連の関係者が駐在し、安全確保や監視、検査などの活動を行います。

グテーレス事務総長が22年4月、ロシアのプーチン大統領やウクライナのゼレンスキー大統領と会談した際にこうした仕組みを提案し、実現されました。グテーレス事務総長は7月27日にイスタンブールで行われた署名式で、紛争が続く中で黒海経由で穀物輸出が再開できるようになったことを「前例のない合意で、希望の光だ」と成果をアピールしました。

第一弾として、2万6000トンのトウモロコシ運搬船が8月1日にオデッサ港を出港し、8月3日にイスタンブールでJCCの検査を受けた後、レバノンのトリポリに向かいました。その後も次々と出港し、ウクライナ政府の23年1月30日の発表によると、同日までにウクライナを出港した船舶は1687隻となり、積載された穀物は1890万トンに達しました。ただ、1日当たりの出港数は今でも2.5隻程度と開始当初とほとんど変わらず、ウクライナ政府は「非常に少ない」と不満を表明しています。その理由として「JCCでの手続きがロシアの妨害で遅れている」と指摘します。同イニシアチブは当初、120日間の予定でしたが、11月19日から120日延長されることで合意されており、ウクライナ政府は最終的に輸出量は2800万トンを超えるとの見通しを示しています。。

これまでの実績について、国連のウェブサイトが詳しく情報を公開していて、2月1日時点では、出荷された農産物は合計で1928万8350トンとなりました。トウモロコシが47%と半分近くを占め、小麦が28%、ヒマワリ油とヒマワリミールがともに6%となりました。ヒマワリミールは、ヒマワリからヒマワリ油を抽出した際の副産物で、家畜の飼料として使われます。

船舶の行き先としては、意外にも中国が最も多く、2位がスペイン、3位がトルコ、4位がイタリア、5位がオランダ、6位がエジプト、7位がイスラエルとなっています。食料危機が心配されているアフリカ諸国にきちんと届いているのかは不明です。中国や欧州が奪い取っていないことを祈るばかりです。

国連ウェブサイトより

言うまでもなく、ウクライナは世界有数の農産物輸出国です。国連食糧農業機関(FAO)の資料によると、2021年のトウモロコシの輸出は米国とアルゼンチンに次いで世界3位、小麦も世界5位でした。植物油として欧州でよく使われるヒマワリ油は世界首位です。

FAO資料より

同じFAOの資料によると、アフリカのエリトリアやソマリア、ジプチ、モーリタニア、リビア、エジプト、チュニジア、インド洋の島国セーシェル、中東のレバノンなどがウクライナ産小麦への依存度が高くなっています。アジアでもインドネシアやパキスタンは多く輸入しているようです。

FAO資料より



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?