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米国との乳製品紛争でカナダが勝利

カナダ政府は11月24日、乳製品輸入をめぐる米国との貿易紛争で勝利したと発表しました。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に違反しているとして米国が提訴し、紛争処理小委員会(パネル)で審議されてきました。2021年12月に米国がいったん勝利していましたが、その後のカナダの対応が不十分だとして再び提訴していました。敗れた米国はなお反発しており、紛争はまだ続きそうな気配です。
 
パネルの決定を受け、米通商代表部(USTR)のタイ代表は「非常に失望している」との声明を出しました。「カナダが協定で約束した乳製品市場へのアクセスを履行しているかどうか、米国は深刻な懸念を抱いている。今後もこの問題への対応を続け、米国がUSMCAの利益を得られるように、あらゆる手段を使うことをためらうつもりはない」と表明しました。
 
カナダは小麦や牛肉などで主要な農産物輸出国でありながら、乳製品については、国内の酪農家を保護するため、1970年代に導入した供給管理制度と呼ばれる独自の制度の下、輸入を制限しています。先に触れた通り、酪農大国のニュージーランドもカナダの酪農保護政策を攻撃しており、環太平洋連携協定(TPP)のパネルは2023年9月、カナダの措置はTPP協定違反との判断を示しました。
 
北米自由貿易協定(NAFTA)を引き継いで2020年7月に発効した協定について、米国はUSMCAと呼ぶのに対し、カナダは国の順番を入れ替えて「カナダ・米国・メキシコ協定(CUSMA)」と呼んでいます。しかし、日本では一般的にUSMCAと報じられているので、ここではUSMCAに統一します。
 
カナダの報道パネルの決定などによると、USMCAでカナダは関税割当(TRQ)により、国内の乳製品市場の3.5%に相当する輸入枠が設けられました。輸入枠は牛乳やクリーム、バター・クリームパウダー、スキムミルク、工業用チーズ、粉ミルク、アイスクリームなど14品目に細分化され、2039年にかけて段階的に増えていくことになっています。
 
乳製品輸出国の米国としては、この枠をフルに活用してカナダ向けの輸出を増やしたいのですが、きちんと運用されておらず、USMCA協定に違反しているとして、2022年5月にパネル設置を要請しました。USMCAでのパネル設置はこれが第一号となりました。
 
3人で構成されたパネルは2021年12月、米国の主張を受け入れ、カナダの措置はUSMCA違反との判断を示しました。カナダの加工業者に輸入枠の大半を割り当て、輸入業者への配分が絞られたため、米国からの輸出が進まず、制度が本来の趣旨に沿って適切に運用されていなかったと認定されました。
 
敗訴したカナダは措置の見直しを迫られ、輸入枠の配分見直しなどの対応を行いました。しかし、USTRによると、小売業者や外食業者への輸入枠の割り当てを事実上認めないなど、不当な輸入制限がその後も続いたということです。このため、依然としてUSMCA協定に違反しているとして、米国が2023年1月にパネル設置を再び要請し、今回の決定となりました。
 
パネルは「この紛争の核心は、カナダがTRQを毎年どのように割り当てるかだ」と指摘しました。その上で、「輸入業者がTRQを十分に利用できるようにするため、カナダは未使用の割り当てを再配分する措置などを講じている」として、「カナダの措置はUSMCA協定に違反しているとは言えない」と結論づけました。前回の敗訴から措置を見直した結果、改善が見られたと評価しています。
 
決定を受け、カナダのエング輸出促進・国際貿易・経済開発相とマッコーリー農業・農産食料相は共同声明で、「カナダは非常に喜んでいる。カナダの酪農産業と供給管理制度にとって朗報だ」と表明しました。さらに、「カナダ政府は供給管理制度を維持し、守り続けていく」として、各国からの市場開放要求に今後も反対していく姿勢を示しました。
 
カナダ政府によると、同国には9700以上の酪農場と500の乳製品加工工場が存在します。2022年には174億ドルを売り上げ、7万人以上の雇用を生み出しているということです。カナダ酪農家協会(DFC)は「パネルの決定を歓迎する」との短いコメントを出しました。
 
これに対し、米乳製品輸出協会(USDEC)は「カナダがUSMCAの義務を無視することを認めたことで、危険で破壊的な前例を作ってしまった」と今回のパネル決定を批判しています。「米国の輸出業者によるTRQへのアクセスは制限され、(1回目のパネル決定後に)制度が少し修正されてからも、この不均衡な状況は続いている」として、依然として米国からの輸出が制限されていると訴えています。
 
USMCAの紛争処理手続きには、世界貿易機関(WTO)の上級委員会のように上訴する仕組みがありません。タイUSTR代表が言う「あらゆる手段」に何が含まれるのか不明ですが、米国はかなり怒っているようなので、これで決着というわけにはいかなそうです。

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