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EUの有機農業25%目標の達成は困難 欧州会計監査院が指摘

欧州会計監査院(ECA)は9月24日、有機農業の栽培面積を25%に拡大させる欧州連合(EU)の目標達成は困難だとする報告書を公表しました。現行の戦略では不十分で、対策の強化が必要だと訴えています。欧州環境庁(EEA)に続き、再び身内から厳しい指摘が出たことで、目標達成への疑念が一段と強まったと言えます。2025年春ごろに策定される新戦略「農業・食料ビジョン」で、有機農業をどう位置づけるかが大きな論点となりそうです。
 
欧州委員会は2020年5月に公表した「ファーム・トゥー・フォーク(農場から食卓まで)戦略」で、2030年までに有機農業の栽培面積を全農地の25%に拡大する目標を打ち出しました。日本の農林水産省が1年後に発表した「みどりの食料システム戦略」も2050年までに有機農業を25%に拡大する目標を盛り込んでおり、「有機農業25%」が1つの目安になっています。
 
ECAの報告書によると、EUは共通農業政策(CAP)により、有機農業を後押しするため、2014~22年に約120億ユーロを投じました。2023~27年を対象とした現行のCAPには約150億ユーロが盛り込まれ、予算は増額されました。
 
しかし、有機農業の面積は2022年時点で10.5%にとどまっており、これまでの年6%程度の増加率のままでは2030年に16.7%にとどまります。25%の目標を達成するには、増加率を11%とほぼ倍増させる必要があります。さらに、国によって大きな開きがあるのがあることも報告書は強調しています。
 
マルタでは有機農業は全農地の0.6%に過ぎず、ブルガリアとアイルランドも2.2%、ポーランドも3.9%、オランダも4.4%と、5カ国は5%を下回っています。これに対し、オーストリアは既に25.7%に達し、エストニアも23.4%と高い水準になっています。有機農業の面積自体はフランスが最も大きく、スペインとイタリア、ドイツを加えた主要4カ国で全体の56%に達するということです。

EU加盟国の有機農業面積(ECA報告書より)

報告書によると、有機農業の拡大について、EU全体で面積を25%に増やすという拘束力のない目標があるだけで、国別の目標はなく、生産や消費を増やす目標など、それ以外の目標は何もありません。2030年以降の目標もありません。
 
こうした分析を踏まえ、ECAは欧州委員会に対し、25%の面積目標を補完するものとして、有機農業の生産や消費に関する目標を新たに定めたり、2030年以降の長期的なビジョンを打ち出したりして、戦略を強化するよう提言しました。有機農業に関するルールも加盟国によってバラバラなので、EUとして統一的な指針を設けることも提案しました。
 
ECAの担当者は声明で、「欧州農業はますます環境にやさしくなり、有機農業はその中で重要な役割を果たしている」としながらも、「成功を続けるためには、有機農業の面積だけに焦点を当てるのでは不十分だ」と指摘しました。その上で、「市場を発展させ、生産を増やすなど、部門全体を支えるためにもっと多くのことが必要だ」と強調しました。
 
これに対し、欧州委員会は「25%目標は達成する」と反論する文書をわざわざ公表しています。「ウクライナ戦争など、外部要因による多少の遅れは排除できないとしても、欧州委員会はこの目標達成に完全にコミットしている」と強調するとともに、「より持続可能な農業に移行するための重要な手段として、CAPは有機農業を支えている」と訴えました。有機農業25%の旗は降ろさないようなので、どれだけ実効性のある追加対策を打ち出せるかがカギとなりそうです。

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