米国がGM小麦を初めて承認 数年後に市場投入か
アルゼンチンの農業バイオテクノロジー企業バイオセレス・クロップ・ソリューションズは8月28日、同社が開発した遺伝子組み換え(GM)小麦について、米農務省(USDA)から商業栽培の認可を得たと発表しました。米食品医薬品局(FDA)の食品安全審査は既にクリアしており、GM小麦として米国で生産・販売が初めて承認されました。業界団体の米小麦連合会(USW)によると、試験栽培などを経て、数年後に米国市場に投入される可能性があります。
この小麦は、「HB4小麦」と呼ばれ、GMによって乾燥耐性を持たせました。2020年にGM小麦として世界で初めてアルゼンチンで認可を得て、商業生産が始まりました。ブラジルやパラグアイでも商業生産の認可を得ており、米国で4カ国目となります。
米国の小麦生産は世界第4位で、GM小麦を認可したこれら4カ国の中では最大です。米国の動向が今後のGM小麦市場に与える影響はかなり大きいと思われます。日本にとって米国は最大の小麦輸出国であるため、日本へのGM小麦の輸出圧力が強まるかもしれません。
米国では、トウモロコシや大豆、綿花などは既に9割以上がGM作物ですが、これらの作物は主に家畜の餌や衣類のために使われ、人間が直接食べることはありません。これに対し、小麦はパンや麺類として人間が直接食べるため、消費者の反発が予想されるだけに、GM大国の米国でもGM小麦の導入には慎重でした。
旧米モンサント(現ドイツ・バイエル)はGM小麦を既に開発し、過去に米国で試験栽培を行っており、当局に申請すれば、認可される公算が大きいです。そんなモンサントでも、消費者の反発を恐れ、GM小麦を強引に推し進めることはしてきませんでした。
一方で、米小麦業界にとっては、GM小麦を使えるようになれば、トウモロコシや大豆と同じように生産性を向上できるとして、導入はひそかな悲願でした。バイオセレスのGM小麦が米国の消費者に受け入れられれば、他の企業も相次いで参入し、将来的にはトウモロコシや大豆にように9割以上がGM作物に置き換わるかもしれません。
USWは、バイオセレスの発表を受けて声明を出し、「生産者と消費者に大きな利益をもたらすと確信している」とアピールしました。米小麦業界の強い期待が現れています。当局の規制はクリアしたものの、屋内での試験栽培など、「必要なステップはまだいくつか残っている」とも指摘しました。
その上で、「USWは、バイオセレスの商業化計画を引き続き監視していく」と、前のめりになり過ぎない姿勢もにじませました。デリケートな問題であるだけに、消費者の反発を招いて頓挫することのないように、慎重、丁寧に進めていく考えのようです。
このGM小麦は乾燥耐性を持たせたものなので、気候変動の影響とも指摘される干ばつに見舞われても、高い収量を維持できるのが特徴です。USWは「世界のどこで小麦を生産していても、干ばつは収量や品質に打撃を与える。HB4(GM小麦)のような技術革新は生産者にとって大きな利益となる」とメリットを訴えています。
USWは「干ばつ耐性品種はより安定して持続可能な生産を可能にする」と改めて強調する一方、GM小麦を購入したくない顧客が出てくることを念頭に、「顧客に特定の希望がある場合には、希望する小麦を購入できるよう業界がサポートする」として、非GM小麦の供給を続ける意向も表明しました。「これが16年以上続くわれわれの方針だ」ということです。