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【SK∞~5話考察】すれ違う「手」と「まなざし」(ネタバレ)


前回の考察記事を書いてから2週間。「SK∞(エスケーエイト)」界隈がどんどん盛り上がってきてとてもうれしい。
ダークホース的なオリジナルアニメが、だんだん覇権を握っていくような雰囲気、ユーリonICE放送当時を思い出す。

現在5話まで放送されている本作だが、予告を見る限り6話は少し休憩回になりそうである(と見せかけて、とんでもなくしんどいかもしれないが)
前半のストーリーを振り返り、怒涛の展開となりそうな後半に向けて、心の準備をしていきたい。

今回は私が大好きな「手」と「目」を中心に考察する予定である。

とはいえ「まだ」5話であるため、今後の展開について何ら保証をするものではない、ただの妄想であることをお許しいただきたい。5話までのストーリーに関して大変なネタバレをする予定である。苦手な方はUターンをお願いしたい。なお、記事中の画像は全て、
©ボンズ・内海紘子/Project SK∞
からの引用である。

ちなみに、前回の記事を踏まえての考察となるため、未読の方はそちらを先に読んでいただけると、唐突感が薄まるかと思う。


1.ラブハック―真正面から見つめる

3話の段階ではすべてが謎に包まれていたアダムだが、彼の必殺技である「ラブハック」が、4話5話であきらかになった。技を分析してくれたチェリーに感謝したい。

簡単に言ってしまえば、相手の真正面からグイグイ近づいて、相手の自滅を狙う、という技だ。
スケートにおいて相手と向かい合って滑るなどというのはイレギュラーである。そりゃ自滅する。

この技を決めるアダムは「おいで、僕の胸の中に」と言っている。それは相手にも「真正面からまっすぐ来て、見てくれ」と言っているようなものであることに注目したい。

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つまり、技としては自滅を狙うものだとしても、その根底には、「目をそらさずまっすぐ見てほしい」という欲望があるのかもしれないのである。

アダムが気に入ったスケーターにこの技を仕掛けまくるのだとしたら、「まっすぐ見てくれる」相手を探していると言えるだろうか。結果的に相手が目を逸らすので、怪我を負わせることになるのだが。

4話で暦は、アダムを避けて自滅した
5話でランガは、正面から向かっていったのち、「上に飛んで」、超えた

そう考えると、アダムにとってランガは「初めて真正面から見てくれた」相手ということになる。その上怪我もしない。
つまりは自分を理解してくれる、受け止めてくれる可能性を感じ取ったことになろう。

アダムはランガのことを「どうやら君は僕と同じ人種らしい」ともともと考えていたようだが、ラブハックを破られたのちは、「君こそが…僕のイブだ…」と認定している。

アダムとイブと言えば、ご存じの通り、アダムの一部からイブが作られた…という関係性にある。
同じ肉体に由来する存在なのだから、それはまあ、唯一無二の「対」ということになるだろう。
アダムはランガにそれを見出した。
つまり、ランガの中に「自分を見出した」ということにもなるまいか。


2.アダム―翼を持たない「タバコ」


まずはアダムの背景を知るために、4話を振り返ってみよう。
5話のビーフを振り返ると、フラメンコステップとスピンで笑いがこみあげてしまうが、ここはぐっと我慢である。その奇行の裏にあるアダムの真実を知りたいのだ…

アダムは実家と思われる豪邸に入り、3名の叔母に挨拶している。
開口一番、「愛之助さん、今日も神道家の名を汚さない行いができましたか?」と問われている。

ここから透けて見えるのは、アダムが政治家の「家」に縛られているということ。
そして親類からは、「家」にふさわしい人物であることを求められ、そこから外れた場合は、評価されない、最悪は排除されるような環境にあること。

父は同じ政治家であるようだが、母の存在は見えない。結婚話で「ふさわしい女を」と話題にされていることから考えれば、アダムの母は「ふさわしくない女」として「家」から排除された可能性が高い。
もしも母がアダムの「本当の姿」を唯一認める存在だったのだとしたら、母の不在と同時に、アダムの「家とは関係のないオリジナル部分」というのは、封印せざるを得なくなったのかもしれない。

つまり、アダムは「家」に都合の良い人間として生きる―「家」に縛られた者なのである。
本当の自分、本当の欲望・願望は潰されている。いや、そもそもそんなものを「見てもらう」ことすらできていない。都合の悪いものは、目に入れることさえ厭いそうな叔母たちである。

いうなれば、アダムのいう「高級なシガレットケース」は「家」
そのなかに入って、「それなりの価値を持ったタバコ」は「自分自身」
ということだろう。

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アダム周辺の人々は、アダムの外側の、限られた一面を、上・下・横から見ているに過ぎない(菊池を除く)。
だからSでは真正面から「見られる」ことを望むのではないだろうか。

ではアダムにとってSとは何なのか
前回の考察でも書いたが、現実世界とは違うペルソナで生きることが許される場所なのである。
閉鎖された山の中、夜の闇の中で、匿名で開催されるSの場だからこそ、アダムは「家」とは無関係な生き方ができる
アダム個人の魂は、クレイジーロックに籠ったままである。

そのSの場で、アダムがランガに「翼」を見たことは、無関係ではない。
暗く隠された山の中に籠るしかない本当のアダムができないことを、ランガはやってのけた。翼を捥がれたどころか、翼をもつことすら周囲に認めてもらえないアダムが、ランガを渇望していくのは当然の流れだ。

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振り返れば、アダムのビーフは、明確に「飛ぶ」シーンが見えない
唯一飛んだのが、ランガにラブハックを突破されたあと、まるでシンクロするように二人がトリックを決めたシーンである。

ランガに「翼」を見たからこそ、できたという捉え方もできる。


物語後半に問題になってくるのは、アダムがランガをどうしたいか?という点である。
翼をもつランガをつぶすなら、一蓮托生でSに籠り、永遠に二人でビーフを楽しむ、という方向になる。
反対に、ランガに引きずられる形でアダムが山から下りるとしたら、Sを潰して、下界で羽ばたく可能性もある…どうだろうか。

今回警察を呼んだと思われる菊池に、私は期待している。
なぜなら彼は、ほぼ唯一、シガレットケース内のアダムと、むき出しのアダムを知っている人物なのだから。


3.すれ違う「まなざし」―ジョーとチェリー

アダム関連で、ジョーとチェリーについても少し考えておこう。
特に5話で強調されていたのが、チェリーが比較的「アダムに好戦的」であるということ。ジョーはチェリーに引きずられる形で「アダムにビーフを挑む」とは言っているものの、暦をけん制したりしており、若干引き気味であることは否めない。

4話で明かされたのは、S創設よりもチェリーよりも先に、アダムとジョーがスケート仲間だったこと。
5話では、チェリーがアダムに「先に俺たちから離れたのはお前の方だろ」と発言していることから、チェリーも一時期はアダムと仲間であったことがわかる。

そして5話でチェリーが書くのは「悔悟奮發」…かつての過ちを悔いて挽回する…
つまりまだ、アダムを取り戻せる…という望みを捨てていないということではないのか。ランガがアダムに勝てば、あるいは、アダムも正気に戻ると…
その一方、ジョーはアダムのことが「今はもうわからない」と発言しており、かなり諦めてしまっていることがわかる。

二人の温度差は、ジョーの店でのラブハック再現場面にも見える。

ジョーに真正面から近づくチェリーに対し、最終的にジョーは目をそらしているのだ。

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この二人もまた、何かしらのすれ違いを抱えているのではないか。


この二人の温度差については、過去も含めて大変気になるところだ。6話の温泉で、何か明らかになればいいが。


4.すれ違う「見ているもの」―夜の海

ここからが本題である(ずいぶん寄り道をしてしまった…)
5話で強調されていたのは、暦とランガのすれ違いだ。これを詳しく見ていこうと思う。

何よりもまず、アダムと滑りたいランガと、やめてほしい暦――この対立である。

もし暦がアダムに敗北しても「けがをしていなかったら」、暦はランガを止めなかっただろう。
それは暦の過去が影響している。

恐らくSに足を踏み入れる前、友人がスケートで大けがをし、スケートをやめたというのだ。

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少し話題が逸れるが、5話までの間、オープニングを除いて、暦が人目がある場所でスケートをやったことは一度もない。(スケート専用の施設や公園の場合も、やはり人がいない)
言い換えれば、クレイジーロックだけでは、気兼ねなく楽しく滑れるということにならないか。

友人がけがをしたのがSではないのは確かである。そうなると、暦がその後スケート仲間も増やさず、匿名の人々が集うSに活路を見出していったことにも納得がいく。街中で、人目がたくさんあるところでは、友人を怪我させた罪悪感から楽しめないのだろう。
誰も知らない、知る必要のないSの中でなら、楽しんでも罪悪感はない
アダムと同じく、暦もまたSという場所に囚われ、外にでる翼を失っているのである。

暦がスケートを楽しめる場所:S。暦はランガをそこに導いたが、今回はそこから引き離そうとしている。
理由は、ランガがけがをしてスケートをやめてほしくないからだ。そして、Sでランガがけがをすれば、暦は本当にスケートを楽しむ場所を失ってしまう…


一方のランガ。
最初こそ、やりすぎなアダムへの怒りで対戦を承諾したようだが、得体のしれない何かに突き動かされるように「滑りたい」思いを募らせていっている。

その気持ちは、スノボを始めた時の楽しさに重なるらしい。
恐らくは、できないことができるようになっていく快感、まだまだ上がある、上っていけるという快感…といったあたりではないか。先を行く父についていき、それを超えるか、超えないか…、、、これがアダムに無謀な挑戦をする現状とオーバーラップしている。

アダムのすぐ後ろを滑るランガは「引きずられる…」という感覚を得ている。そして、アダムにシンクロするようにトリックを決め、「見たことのない景色」を幻視している。
これまで幻視してきた雪山ではない、新たな景色である。
アダムが知っているであろう景色を知りたいという欲望が、ランガの中ではかなり育ってきてしまっている。怪我のリスクを、その欲望は超えている


このすれ違いが浮き彫りになるのが、警察から逃れたあとの、夜の海のシーンである。

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「なんだよあれ、アダムの上飛び越えたやつ」
「アダムと回転したとき、離れるより近づいたほうがいいかなって…」
「お前なあ、無茶しないって約束は…?」
「ごめん…」
「でもまあ、よかったよ…お前が無事で

ここで思い出したいのは、1話と3話である。
ランガはシャドウ・ミヤとの対戦でも、かなりの「無茶」をしている。怪我こそしていないが、ギリギリである。
にもかかわらず、暦は滑り終えたランガに、
「お前、すっげぇじゃん!」
「お前…すっげぇよ!」
と、絶賛・全肯定している
のだ。「ランガの滑り」を。

今回だって、勝利こそしなかったものの、アダムのラブハックを突破し、無傷で帰還した。
「すっげぇよ!」
と言われることをランガは期待したはずなのだ。だって自分では、アダムを突破出来て嬉しかったのだから。
暦に褒められることを望んでいたはずなのだ。一緒に喜びを共有してほしかったはずなのだ。

だから、暦に「怪我がなかったことだけ」を褒められ、ランガは寂しそうな表情を浮かべたのだ。

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思えば、初めて二人が海を眺める場面は、初めてランガがオーリーを決めた時だった。
ランガの過去を共有し、オーリーの気持ちよさを共有した海は、明るかった

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それに対して、5話の海はまっくらだ。

これまで暦とランガは、スケートに関して「見ているもの」が一致していた。
それが5話で決定的にずれ、お互いが何を「見ている」のか、わからなくなってしまった
だから海は真っ暗なのだ。月も星もなく、底も見えない暗い海が広がっているのだ。

ランガは、暦が教えていない、暦自身もできない技を、暦がいないところで身につけてしまった。
怪我でスケートをやめなくても、ランガは暦から離れていってしまうかもしれない。自分が至ることができない高みへ、ひとりでいってしまうかもしれない。
ランガが同じ景色を見られるであろうアダムに、ランガが奪われるかもしれない。

ランガを褒められない暦の不安・孤独も、真っ暗な海が表しているようでもある。

5.すれ違う「手」―ランガと暦

前述したような二人のすれ違いが、別の形で描かれている場面も確認しておこう。
ジョーの店でラブハックの分析を聞いたあと、ランガが暦をバイクで送る場面である。

暦はランガに「アダムと滑るな」といい、友人との過去を話す。
そして、ランガは「怪我してもスケートはやめない」といい、二人は「約束を交わす」

そこで指切りをしようとした暦は「大人はこうするんだよ」といい、ハイタッチのあと、拳をランガの胸に

しかしこの場面、「フィストバンプ」がすれ違ったようにも見えるのだ。

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ランガがオーリーを初めて決めた日から、二人はことあるごとに「フィストバンプ」をしていた
それがはじめて「すれ違った」のである。
暦の想いのすべてはランガに伝わらない。逆も然りである。

まさに5話は、ランガと暦の関係の転換点であったといえるだろう。
ただひたすらにスケートを楽しむことができた無垢な子どもでいられる時期は終わった。すれ違いや孤独や傷をかかえた、大人になっていかざるを得ないのである。だから「大人の約束」なのである。


そしてこの、フィストバンプ未遂の「約束」は、ランガを縛る重荷になっていくようにも思われる。
「無茶をしない、怪我をしない」という約束に縛られながらも、ランガはアダムと滑りたい…その欲望と葛藤していかなくてはいけない。

ボードスポーツとの絆を取り戻させてくれた暦。その暦が、今度は、スケートを楽しむことの妨げになっていく
まさに、「きずな」が「ほだし」になっていく…というところだろう。

もちろん、最終回にはきっと、ふたりのつながりはより強固に、心から楽しめるものになっていると思うが、ここからしばらくはしんどい展開が続きそうである。
チェリーやジョーが、ランガと暦の関係にプラスに作用してくれるような展開を期待している。


それからもう一つ。前回の記事からしつこく言っているのだが、暦はメカニックスキルのことにもう少し目を向けてほしいのだ。


今回ランガが、アダムのラブハックを「飛び越え」られたのも、ボードが「回転」したからだということを忘れてはいけない。
飛ぶ直前、ランガはグーフィーポジションから、一瞬で180度ボードを回転させている。
これは、暦が施したホイールがなければできなかったことだ。

そして、ランガとの「約束」の場面でも、暦がいつも腰につけている、工具のキーホルダー(本物かも?)がクローズアップされていた。偶然かもしれないが、やはり気になる。

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同じものを見ていた二人のまなざしがズレた今だからこそ、もう一度強調しておきたい。
同じ滑りが、同じところできること、ライバルであることだけが、一緒にいる楽しさや価値ではない。
暦がそのことに気が付いたとき、これまでとは違ったスケートの楽しさが、二人の間にもたらされるような気がする。


…二人の関係が、物語後半でアップデートされていくことを、心から願っている。

ということで、まだ5話だというので、これまたひどい妄想を書き散らしてしまった。
前回の記事からして、暦とランガの関係が一度こじれることは予想していたのだが、いざその予兆を目の前に晒されると、なかなかしんどいものがあった。
とはいえ、2話のような関係が永遠に続くなんてことは、アダムがいなくても無理だったことなので、これをきっかけに、息の長い関係性を築いてもらえたらと思っている。

6話以降は、アダムと菊池、ジョーとチェリーの関係性も深堀されていくだろう。
こちらも負けじとしんどいだろう…心して来週を待ちたいと思う。


長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!

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