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【星合の空~9話考察】居場所の無いふたり(ネタバレ)

アニメ星合の空も終盤に突入。
王寺くんの登場で油断していた、9話。これまでで一番つらかったので、なかなか考察できずにいた。でも一番泣いた回でもあった。今期アニメで1番泣いた。

…ということで、9話でメインになっていた翅と晋吾を中心に考察していきたい。基本的には、前回の記事の続編である。ネタバレと妄想を大いに含むので、苦手な方はUターンをお願いしたい。


1.欠落を埋めあうものとしての「ペア」(追加考察)

さて、前回の記事で私は、眞己が新たに組んだペアは
「ウチ」の問題がかみ合っていて、欠落を埋めあっている
と考えた。

眞己:父の暴力・金銭(ハード面)
柊真:母の言葉・態度(ソフト面)/父の無関心?
樹:生みの親(母)の育児放棄→からの、やさぐれモード
凜太朗:生みの親(父母)の育児放棄→からの、優等生モード
翅:実父との確執、兄との愛情格差
晋吾:義母との確執、妹との愛情格差
直央:実母の過干渉、父の無関心、一人っ子
大洋:(不明)…だが、直央とペアなので、一人っ子で…放任?

このような整理ができるだろう。
翅と晋吾が追加になったことで、欠落を埋めあっている傾向がより顕著になった。残るは大洋、そして悠太の問題が中途半端になっている。一番重そうな直央、序盤から解決の兆しがまったくみえない柊真、柊真に被害が及びそうな眞己の問題は、最終回まで引きずりそう(いやむしろ、最終回までになんらかの解決を見ない可能性が高い?)である。

2.親のコンプレックスを刺激する子


翅と晋吾の回については、けっして「こんなクズな親、いるわけない!」では片づけられない問題がクローズアップされたと思う。アニメなので多少の誇張はあれど、どこの家庭でも起こりうる問題であった。

翅の家庭は、父がサッカーをやっていた影響で、3兄弟全員がサッカーを幼少期からやっているということが明らかになった。エンディングで翅がサッカーボールをもってボンヤリしていた理由が、ようやく明らかになったわけだ。

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         ©赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会より引用


しかし、本人が曰く、「サッカーの才能がなかった」ため、中学校に入るタイミングでサッカーをやめたようだ。そしてソフトテニスに転向したと…サッカーをやめたことで父からは「情けない」だの「男らしくない」だのさんざんに罵られたようだ。

翅の父がサッカーで大成功したとは到底思えない。だから、その夢を3人の息子に託しているのだ。もうサッカーで頂点を狙えない自分の代わりに、自分の分身たる息子がサッカーで頂点をとってくれれば…それで、父本人の過去に対する未練やわだかまりは解消できるのである。

なんたるエゴ。親のエゴ以外の何物でもない。
しかし、そういう親はこの世界にごまんといるはずだ。

しかし翅は、サッカーをやめてしまった。なぜ父はそれを許せないのか。
それはかつて、サッカーに挫折した自分を、もう一度見せつけられているからだ。だから耐えられない。見たくない。
だから翅につらくあたる。息子がかわいくないわけではない。自分のコンプレックスを刺激してくるから、排除したいのだ。


一方、晋吾の家庭にもこのコンプレックス問題が絡んでくる。
会話の内容から察するに、晋吾の父と現在の母は「再婚」
アンは晋吾父と現在の母の子だが、晋吾は前妻との間の子である。

Cパートで母親は
「目元がますます母親に似てきてる」…と晋吾を嫌悪している。
Aパート・Bパートでは「うるさい」「きたない」だので嫌悪していたが、根本は違うのだ。晋吾を嫌悪する原因は「前妻の血を宿しているから」に他ならない。

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         ©赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会より引用

つまり、晋吾を見るたびに母親は、前妻の存在を思い出し、それに劣っているかもしれないというコンプレックスにさいなまれるのだ。だから、晋吾を愛することができない。前妻の存在を嫌悪しているから。

翅と晋吾の家庭問題でクローズアップされたのは、「親もまた未熟な人間である」というようなことだったと思う。本作はクズ親のデパートのようだと揶揄されているが、親だって欠陥や欠落のある人間だということを描こうとしているのだろうと思う。ただどうしても、中学生の目線からそれを描くので、最低なクズ親のように見えてしまうだけだ。
父も、母も、兄も姉も妹も弟も、家族それぞれが、何かが欠けていて、何かが良いのである。そのバランスがうまくいっているかいないかは、紙一重ということなのではないか。


3.居場所のない「血」―晋吾

子供の視点からも、翅と晋吾の接点を探っていこう。
まず前半パートで注目された晋吾の場合から。際立ったのは、四人家族のなかで彼の体にだけ「異分子の血」が混じっていることに起因する、疎外感だった。

父系で血縁のある父、妹とは関係が良好だが、母とは血縁がない。異物のように扱われている。数の論理からいえば、母こそ疎外されるかと思われるが、この場合晋吾を除いた3人がしっかりと「血」で繋がっているため、それは難しい。
前半パートにおいて、晋吾は一度も母と対面で話をしていない。かならず父やアンを介して会話を成立させている。彼なりの処世術だと言っていいだろう。血が繋がらない=会話が繋がらないという、なんとも無慈悲な構図である。

後半パートでも、アンが母に耳掃除をされ、父がくつろぐリビングから、まるで退散するように「外で素振りをする」と言い出す。
よくいえば気を使った...悪くいえば疎外感に耐えられなくなったのだ。いくら同じ家に住んでいても、3人の輪の中に自分が入ることは、決してできない。

晋吾は人格や後天的な性質のせいで疎外されているのではない。自分の意志が介在できない、先天的な「血」のせいで、居場所を無くしているのだ。


4. 居場所のない「個性」―翅

翅の場合も、家庭内に居場所のない状況は晋吾と同じだ。サッカーをやる父と兄2人が占める家に、翅のための居場所は用意されていない。もちろん、それを主導する父が不在であれば、居場所はあるが...(だからこそ、兄と談笑していた場面に父が現れた瞬間に、撤退せざるを得ない)

翅が疎外される原因は、「血」ではない。後天的に生み出された「個性」(サッカー以外に才能がある)によって、居場所を無くしているのだ。


晋吾も翅も、「ウチ」に居場所がない
理由には、先天的/後天的の差がある
やはりペアの2人には、「ウチ」の問題が噛み合うという特徴があると言っていいだろう

そして、
居場所のない「ウチ」で、「怪我をした」という弱みをみせられず、外に出た翅を
居場所のない「ウチ」から出て素振りをしようとした晋吾が、発見した
のである。

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         ©赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会より引用

居場所を無くした2人が、お互いの中に居場所を見つけたという今回の展開は、尊いとしか言えないが、切なさもある。願わくば、2人が大人になっても互いの居場所であってくれれば...というところだ。


5.なぜ翅は晋吾の家に向かったのか


この2人、これまでのストーリーでは、そこまで親密という感じには描かれていなかったように思う。たしかにペアとしてのノリは噛み合っているな、とは思ったものの、特別仲良しとは思えなかった。

しかし、困窮した翅は、極限状態の中で無意識に晋吾の家に向かっていた...
怪我→試合がヤバい?→ペアのところへ
という心理状態かとも思われたが、Cパートを見て少し見方が変わった。

晋吾と翅は、小学生のころ同じサッカーチームに所属していたというのだ。兄のことももちろん知っている。...翅がサッカーを挫折した末に、ソフトテニスをやっていることも。
この「知っている」ことの安心感から、翅は晋吾のもとに向かったのだと思う。恐らく他のチームメイトは、翅のこの弱みや苦悩を知らないのだ。家族でさえも、翅の本当の苦悩を知らないかもしれない。

そしてもうひとつ。前半パートでの出来事も大きく影響しているだろう。

アンは幼稚園児...たしか5歳と言っていたような。
だとすると、アンが生まれた時の晋吾は9歳。恐らく2人がサッカーチームに入ってしばらくたったころだろう。
つまり、翅は晋吾の両親の離婚→再婚→妹誕生の経緯を多少なりとも知っているのだ。その中で母に疎外されて苦悩する晋吾の姿も目にしたはずだ。前半パートのアン捜索の際も、その事情を知った上で、晋吾に「大丈夫だ」と声をかけたのだろう。アンに危険が及ぶ=晋吾を窮地に立たせることだと察知していたからだ。

それでも晋吾はアンの兄であろうとし、父とは良好な関係を継続している。翅はそれを見てきたのだ。そこに自分と同じ何かを見出したからこそ、翅は晋吾に「怪我をして弱った自分」―そして、涙を見せることができたのではないか。

翅が「あいつ、俺が階段から落ちたのに...」と涙を溢れさせた時に、晋吾口元が「戸惑い」から、キュッと結ばれた「涙や怒りを堪える」形に変化したのが印象的だった。もちろんそこには、自分が怪我をしても微動だにしない晋吾の母の存在が重なっていただろう。

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         ©赤根和樹・エイトビット/星合の空製作委員会より引用

(ちなみに、怪我をして彷徨うところからこの場面にかけての豊永さんの演技、近年見たアニメ作品の中でも屈指の「泣き」場面だったと思う。本当に素晴らしかった。痛い涙→悔しい涙への変化が絶妙であった。)

紛れもない「共感」という絆が2人の間に結ばれたのだ。尊いという言葉では陳腐だろうが、本当に...泣いた。今期1番泣いた。
それぞれの置かれた状況や悩みは違えど、それを理解し得る存在がペア...ということになろうか。


6. 共感の広がりが、今後の鍵?


眞己の「ウチ」の事情は柊真のみが知る
柊真の「ウチ」の事情を眞己は知らない

樹の「ウチ」の事情は凛太郎とメンバー全員が知る
凛太郎の「ウチ」の事情は柊真しか知らない

という状況だった中で、恐らく晋吾と翅のペアが初めて、互いの事情を互いに知り、その苦悩に共感したと言えるだろう。

その名のごとく「ツバサ」が折られたソフトテニス部は、廃部に追い込まれるだろう。
そこでポイントになってくるのは、エンディング直前で何度も示唆されている「ダンス大会」かもしれない。それに出場することで、廃部の危機を脱する...のか?


それにしても、現状を打破するためには、今回翅と晋吾の間に生まれたような「共感」が、もっと広がる必要があると思われる。
最終的には、メインメンバーである眞己が、柊真に金で買われてソフトテニス部に入った原因とも言える、柊真の「ウチ」の問題を知る必要がある。でなければ本作は着地できないだろう。

眞己のもとで纏まりつつあったソフトテニス部。その精神的支柱である眞己が「契約」で入部しただけの存在だと知った時、部員はショックを受け、バラバラになりかけるはずだ。
それがまたひとつにまとまるには、それぞれの事情をある程度理解し、共感する必要がある。その共感による繋がりを見た周囲が、心動かされたら...部の存続は有り得る。
現に顧問の桜井をはじめ、女子部の面々も彼らに心動かされているのだから。


...ということで、翅と晋吾の話題から、今後の展開に思いを馳せてみた。まだまだ展開が読めないが、子供にも大人にも何らかの救いのある最後を迎えて欲しいものである。
とにかく、まずは直央の闇落ちをなんとかしてあげたいが、10話では翅の怪我の方がオオゴトになりそうなので、大洋にがんばってもらうしか...

最終回まで、メンタルを強く持って見守りたい作品である。


長文にお付き合いいただきありがとうございました!


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