見出し画像

[今だけ無料]『身勝手・わがまま・自我』は他人を困らせ不快にさせる迷惑極まりないもの、という勘違い|ジブン解決マドリンネ婦人 File.0002-9


「……別に」

 あれ……? 声が、浮き足立ってる、気が。

「そういう事よ」

 ……もしかして、伝わった? でも、なんで……?

「……あ。なるほどな。だからさっき、『痛みが残ってた』ってか……」

 あ……。マドリンネ婦人の意図、伝わったみたい。

 ……でも、どうして? それに、『痛みが残ってた』って過去形になったこと……今、認めた。ということは、彼は……もう、過去の傷に囚われてない? エッ、どうして?!

「ちなみにいうと、もう一箇所あるわ……」

「……あ。『今、未来にかざすための貴重な経験の中にいる』か。……気に入らねぇなー、俺はまんまと乗せられたわけだ?」

 わからない……どこだろう? さっき、彼女はなんて言った? 振り返りたい。ここはどうしても……わかりたい。

 『ぜーんぶ、思う存分吐き出して、むき出しのジブン状態で……どう?』……これは、早坂さんがマドリンネ婦人にやってたことだと思う。そう、多分これまで他人にやることを避けてたけど、マドリンネ婦人相手にはできた、彼が素で、むき出しで接すること。そうだ、これは、ジブンを解放すること。

 そして、確か……そうだ、彼は、身勝手さを見せることは、相手を悩ませるとか迷惑って言って……あー!

 『それを、アタクシが迷惑がっているとでも? 嬉しくない楽しくないと……本当にそう思うの?』……そうか! マドリンネ婦人の本質を信じることさえできれば、早坂さんにはわかるはず……! だってマドリンネ婦人、絶対彼との話、本音で楽しんでた! というか私には、2人共とても深く交わろうとしてて、別に個性を押し殺してるわけでも、かといって潰し合ってるわけでもなくて……。そう、なんだか、ただ向き合ってるけど、でも……どう見ても、楽しそうだし、目に見えないお互いへの信頼が増してるのが、私にすら感じられるもんーーだから、こんなにほっこりしちゃてる。

 ん……ってことは、そっか! つまりコレだ、『勘違い』! どこかで言ってたヤツ。

『自分勝手さは大事な自分の一面よ? 本当に大事な相手には、見せていいもの。いえ、見せなければ……きっと仲は深まらないし、時にその選択は、大事な存在を傷つける。だから、恋愛ではそれを出していく勇気がとても大切』

 そう考えれば、幼少期に繰り返し味わった根が深い痛みすら、『残ってた』って過去形にできる意味が少しわかる。今、目の前の彼女とのやりとりの中で、その痛みや恐怖から派生してた彼の中での何かが、なくなったってことじゃないかな? だから、彼の変な肩の力みが自然となくなった。

 そしてその一連の経験が、『今、未来にかざすための貴重な経験の中にいる』って意味……かも? え、ってことは、マドリンネ婦人はこの経験を彼にさせるのを、意図的に? あ! ……そっか、だから『仕掛けてる』! ……ヤバい、ヤバイヤバイ何もかもが繋がっちゃう!

 それに……時間の流れの話は未だに信じきれないけど、でも、本当に未来から過去に流れてるとすれば、今、早坂さんは違う可能性の未来を経験した。そして、そのおかげで過去からのしがらみーー何度も過去からジブンで引っ張り出しちゃってた『勘違い』から、解放された。

 ……うん、そう考えると、辻褄が合う。……にしても! あっちこっち行ってた話題が、一気に繋がり始めるんだもん! それも、2人とも、それをあんな一瞬で、少ない言葉で理解し合って……すごすぎる!!

「アタクシの本質はご存知のはずなのに、また曲がった表現だこと」

「なぁマダム……身勝手、わがまま、自我……俺、今言ったのは全部、人間関係には不要というか、他人を困らせ不快にさせるメーワク極まりねぇもの、って思ってたけど……違いそうだな?」

 ……スゴイ。すべての根源をキレイにまとめた。そう、私もそう信じてた。だからだったんだ、早坂さんの発言に何度も強く『そうそう!』って思ったり、同じ苦しみが理解できたのは……。でも、今は彼と同じく、混乱してる。自分が信じてたことが、なんだか、違う気がしてて……。

「うふふ〜、大事な部分ね。アタクシの解釈は、プラスがあるからマイナスがある。仕事があるからプライベートがある。社会があるから家庭がある。だから、すべては均衡と御縁」

 ……ヤバイ! また難しい。ギュッと詰まってる。早坂さん……紐解けたかな? 私には確実にムリだ……濃すぎる。マドリンネ婦人って……なんか、堅物の大学教授と、お花畑で踊る貴婦人を合わせて割ったような人!

「あー、なるほどな」

 ほんの少しの間合いだけで、早坂さんは応答しました。

 ……スゴイ、解けた?!

「俺の中にあるポジティブさのおかげで、俺は、社会でそれなりに役立つとか、結果が出せてる、っては思ってる。ケド、それを支えるためには、どうしても真逆のネガティブさが必要、ってのは薄々思ってたケド……」

「いいわね、マイナス面にも気付いた上で、今はちゃんと認めてる」

 つまり、彼自身が自分のネガティブさを理解して、否定せずに、認めてるってこと。……確かにこれ、冒頭の発言とは真逆。あんなに、あんなにネガティブなジブンを嫌がってたこの彼が……。

「ケド、仕事とプライベートをそういう意味で出してくるってのは……意外だった」

「プライベート、自由にやってるでしょう? 恋愛は本質的になればなるほど、そちら側に近づいていくものよ? まぁ、あなたは仕事みたくやっていたみたいだけれどね? Mr.早坂」

 ハッ! ……私が途中で無意識に思ってた、その結論!

「しょーがねーって、それは。プライベートで他人と交わってうまくいった成功体験なんか、これまで全くと言っていいほどなかったんだし……」

 あ……。それはつまり、プライベートの人間関係がどこまで成立するのか、知らなかったってことだ。それは私も同じ。1人でいるときだけが私のプライベート。親でさえ、今はどちらかというと一種の仕事になってる。

「そうね。だから今、多くの若者は社会で『ありのままの自分を認めてほしい』と言っているのかもしれないわね……」

「それを最初に学ぶ場であるはずの家庭が、俺ん家みたいに崩壊してるとこが増えてる、ってことか……」

「学校の友人関係でさえ、結局家庭環境が影響して築かれるもの。その土台を知らないままでは、『らしく』いられる人間関係を築くのは難しいわ。それに、目先の仕事と生活に追われて、心に向き合う時間が失われてる家族も多い。さまざまな要因から、どこまで踏み込んだ人間関係が築けるのか、その可能性を知らない人は、現代に多そうね」

「知らないことは体現できない……か。ったく、キレーにまとめてやがる」

 ホントにそう。つまりそれは、早坂さんや私のように、崩壊家庭で生まれ育った人間が、他人との人間関係の深め方を知らなくても、できなくても当然っていう……。そっか、あの時から、既にマドリンネ婦人は、早坂さんの過去を見抜いて、その上で、肯定してくれてたってことだ。……あぁ、やっぱり、彼女の思いやりって深いし、気が利いててすっごく心地良い。

「一方、社会や仕事は極める作業。だから、個性や自我はそこまで肯定されない」

「だな。結果良ければすべてよし、というと大げさだけど」

「だから『優しい』の満場一致を得て……」

「なるほどな。その裏にあったのは、冷酷な完璧主義者の顔だった、と。……まぁな。ケド、社会的な意味で、今の俺があるのはそのスキルのおかげ。それに、仕事には感謝してる。スキルを磨く過程って、1つのゴールにたどり着くためにジブンを削ぎ落としていく作業だったかんな……割と嫌いじゃなかったし。唯一問題があったとすれば……その感覚と経験を、他人との関わり全てに持ち込んでた、ってとこだけ」

「うまくいく結果を知ってるだけに、技術をプライベートにも活用してしまうのは、当然といえば当然。『成功体験』は、社会で役立つ限り、おおいに活用すべきものですもの」

「……ケド、常にそれが最高とは限んねぇ」

「そうね。人間関係、特にプライベートの親しい関係性は、不確定な未来を切り開いた無限大の可能性の1つであって、どの関係を切り取っても、実は何1つ同じものはない」

「つまり『勘違い』って言ったのは、俺自身が他人に許していい自分の幅の定義だな? 実は海のように広かったのに、俺は金魚鉢レベルでやりすごして、うまくいかねぇって嘆いて混乱してたってわけだ……」

 ……そっか。ようやく、言いたいところがわかったかも。

 確かに、仕事では身勝手、自分勝手、わがまま、個性、自我……ほとんどこれらは必要ない。というか、それを出してもイイことがないというか、結果につながらないことがほとんど。何せ、仕事は完璧な結果に満足する相手がいてこそ、成立しているものだから。これは、私も同意。仕事は相手のためにある。

 でも、逆のプライベートは……誰だって、プラスもマイナスも持ってるんだから、日頃押し殺している部分を吐き出して、自由気ままに過ごす時間があっても悪くない。むしろ当然の権利。

 ただ、彼も私も、そこに他人が存在してるなんてありえないって思ってたんだ。他人が、ジブンの身勝手やわがままを許容し、理解できるだなんてこと……信じられなかったんだから。その可能性を肯定することすら、経験がなければできるはずがない。だって、社会では他人の迷惑を避けるように、って、誰もが当然として信じきってるもん。それに……その可能性や人間関係の幅広さを学ぶ土台となるはずの家庭が……私達にはなかったんだから。だから、それが勘違いだとは気づけなかった。

 なんというか……まるで、行き止まりの道が、実は通り抜けられる透明な壁だったってくらい、衝撃的な事実。

「たった1人でもいいんですもの」

「……あー、イイこと言うじゃん」

 ……確かに。たった1人……通じ合える人がいれば、全然違うのかも。だって、今この目の前で起こった彼の変化を見れば……たった1人でも、自分らしくいられる相手がいれば……きっと、全然違う。本人の個性ものびのびするし、生き心地もきっと全然違う。なんて言えばいい? 人として生きるラクさ、みたいなものが……全然違うはず。だって……今の彼が教えてくれた。他人に受け入れてもらい、かつ、それが他人にとっても嬉しいとか楽しいだなんて……こんなに幸せなこと、ないはず。だから、彼は今、むき出し状態で、すっごく楽しそう。声も背中も、なんかスキップしてるくらいに浮かれてる。

 ……あ。あ! 『幸せ』! そっか……彼は、ここへ今の体感を味わいたいって期待を持ってきたんだ。そしてそれを見抜いてたのか何なのか、マドリンネ婦人はそれを彼に与えた! ……一体この人、何者? 探偵って言っても……明らかに普通の探偵じゃない! 確かに彼自身の内なる事件は解決したけど……え? もしかして、そういう探偵?

「日本人が何人いて、世界には人間が何人いるか、ご存知?」

「へーへー、わぁったよ。たしかにな……確率論的に言っても、それだけいれば、たった1人、俺がラクで向こうもラクで、ケド、らしくいれる関係。その上で、心も体もほしい存在……見出だせるかもしれねぇな」

 ドキッ! 『体も』! ……そうだった。彼はそれも含めて、恋愛がしたいんだもんな。

「それにあなたは、身勝手に振る舞うときでさえ、加減が大事だということをよーく知っているもの。知らないうちは、みんな痛い目を見ながら学ぶものだけれど……だから、大丈夫」

「ま、度が過ぎた身勝手人間のたどる末路は、嫌というほど見てきたからな……意図は重々」

「うふふ〜! ようやく、あなたがいつも相手のわがままを叶えていたとき、彼女たちがどんな体感だったか……わかったのではなくて?」

「フッ……罪滅ぼしのつもりだったんだけどな、偽善者に対する」

「っていう表面的な思いの裏で、実はそうしてもらいたいって思っていたのにね?」

「は?」

 ……ん?



To be continued..


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


* この回は、先着100アクセスの皆様にのみ、無料で全文公開中です *



↑:目次へ
< :冒頭から読む
> :つづきを読む
<<:本Main(ジブン解決)シリーズを最初から読む
<<:Sub(かわいくねぇヤツ)シリーズを最初から読む
Q:どくしゃの方向け - FAQ

『色とりどりの最高の個性で生きる喜びと自己成長の最大化に貢献する』をモットーとしたProject RICH活動に使わせていただきます♪ ありがとうございます❤