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[今だけ無料]尽くして尽くしてどんなに頑張っても、報われず満たされない負のスパイラルの正体|ジブン解決マドリンネ婦人 File.0002-10


「へそ曲がりのあなたでは、そこまで気づけなかったようね。人間というのは面白いもので、自分がしてほしいことを相手にするものよ。あなたはそういう意味で、誰かに知ってもらいたかったのよ。ジブンの心の奥深くを理解してもらいたい、配慮されたい、尽くされたい……。だから、相手に尽くすことそのものには、何の苦も感じなかった。ただ、相手はあなたが見せてきた全力以上は返してこない。いえ……あなたが隠すから、相手も返せない。その満たされない連鎖に苛立ち、自己嫌悪を深めて……。つまり、すべてはあなたの出方次第だった」

 この時、早坂さんの肩から、スーッと完全に緊張が取れていくのを見て、私はハッとしました。

 また、何かが変わった……彼の中で。大きく。だって……今回の変化は、あからさまだもん。

「……そか。そりゃ、返ってこねぇーわな」

 その、急に軽く、柔らかな打ち解けた表現が言葉として出てきたことで、また内なる大きな変化があったな、と私は確信を持ったのでした。

「うふふ〜、それはなぜ?」

「俺が……らしくねぇままだったから、かー。だからか、デートとかしてても、『マヂでムダな時間』って思っちまってたの」

 ……お、お、おぉぉ。これはまた、さらに怖い自分をさらけ出し始めたことで……。でも、それが本音だったんだ……。『らしい』気がする。頭のいいこの人にとっては、恋愛感情がうずいてないなら、相手との時間は、たとえそれが絶世の美女でも……その感想は大いにありうる。ケド、前までの彼はきっと、そんな怖い事を言うジブンに気づく度、自己嫌悪だったんじゃないかな? ……ところが、今はマドリンネ婦人に見せられるほどに、認められるようになった。

「だからこそ、相手ではないのよ。そして押し付けるジブンにも耐えきれなくなるから、3ヶ月で終わってしまう……けれどそれも良い傾向。相手をこれ以上傷つけないため、というお題目のもと、自分自身を騙すことにも耐えられず……というのが実際のところなんですもの」

 そっか。イヤなジブンとはいえ、それなりにジブンで自分を守ろうとしてもいたんだ。……その方が、いい。絶対、いい。どうせ、ヘソマガリをやりすぎたところで、誰も助けてくれないし、気づくはずもない。その上、結局ジブンで負のループの更に深い奥の方に沈んでしまうだけ……。

「逆に、どこかのタイミングで向き合っていたら得られたかもしれないこの体感……言葉で言い表すとなんだ? ……解放感?」

「『愛』よ」

 愛!

「ハッ、くっせーセリフ!」

 でも、1番しっくり来る表現でもある。……愛。

「うふふ〜、また照れ隠し。けれど、愛されること……受け入れてもらう体感はとても大切だもの。その喜びや温かい体感がないうちは、人間である醍醐味を知らないようなもの」

「俺は、架空の言葉に憧れてただけ……?」

 架空の言葉? ……あ、『男が女に尽くす』かな?

「恋愛というよりも、愛でしょうね。尽くし尽くされる美しい関係は」

「的はずれなターゲットをロックして射撃してたわけだ。そりゃ、当たった感触がねぇはず……」

「少し順番が違っていただけよ」

「ん?」

「自分勝手さを含めた、自分と相手の向き合いの中で成立する人間関係がある……それを知らなかったんですもの。その土台を作らないうちに恋愛を楽しもうとしても……それは、よくてゲームにしかならないわ」

「ゲーム……か。なるほどな、俺はこれまで、ジブン押し隠しゲームしてたわけだ……恋愛という表面的な形式を通じて」

 なんか……ようやくわかった気がする。友達が恋愛の悩みを語り始めるとき、いつも悶々としてるのはなぜなのか。みんな、自分を出せてない上、相手を理解できてないんだ……。だから、その人間関係の土台がうまく作れてないうちにイチャイチャしようとして、それで、表面的な事になっちゃって……。もしかしたら、ある意味、あの人達もその類かもしれない……。

「相変わらずね〜。けれどこれからは違う。本当の青春時代、楽しみね〜」

「ハッ、ありえねーし」

「うふふ……言っていることと表情が、一致してなくってよ? Mr.早坂」

 確かに……。背中からも、さっきまで感じた角ばった感じも、緊張感も……もう、何もない。感じるのは……闘志? 純粋でシンプルな、けど燃えるような熱。

「どっかで、俺が自分をこうやってぶっちゃけてたら、あんなにおんなじコト……」

「アタクシが思うに、困ったことにあなたは頭がいいし、洞察力も非常に鋭い。だから相手を選びすぎる傾向がある。その上、自分でも気づいていたはずだわ……下手に自分を出せば、相手をひどく傷つけることになるだろうと……。アタクシも、あなたのこれまでのその判断と選択は正しかったと思うもの」

「ヒデェー言い方。褒めてんだか、けなしてんだか」

 ……けど、正直それは当たってる。頭のいいもてなし上手の男性にアレコレ難しいことを言われたら、多分……混乱すると思う。だって怖いし、責められてるように感じる気がして……。外野の私でさえ、途中、何回か責められてる気がしてドキッとしたもん……。恋愛感情でドキドキ舞い上がってる相手に、そんな論理的な事を求められても、返せるはずなんか……。

「曲がっているわねぇ〜。アタクシの意図は、『チャンスあらば、あなたは自分を出していたかもしれなくってよ?』という、反面に隠された可能性だったりもしていてよ?」

「あー、そっちか……実は俺も、さっきからそれは思ってた。数打ちゃ当たる戦法も、あながち悪くはなかったわけだ」

「けれど、それだけ打ってもあなたのお眼鏡に叶う姫君は、現れていなかった。さらに言えば、姫君に対して身勝手な振る舞いを完全に戒めていたあなた自身の勘違いも相まって……」

 あ……まただ。またさらに、早坂さんの肩から力が抜けた。

「……オッケ。勘違い、か」

「何を見つけ出したのかしら?」

「つまんねぇこだわりを、ずーっと引きずってた自分、かな、今日のところは……。けど多分、まだまだまだありそー」

「いつ気づくか。それだけだわ」

「ホンット、マダムが言ってたとおりかも……後ろ向きに歩いてたんだよ、俺。それも、そうやって過去から学んで、あらゆることに警戒するのが正しいって言ってるエゴの声を、真に受けて……バカだな」

 ……ヤバイ。早坂さん、急にいい男になった……発言がいちいち、カッコイイ!!

「過去のジブンを表現すると、今はどうなるかしら?」

「意気地なし、ビビり、臆病者、わかってるフリをしたクソガキ……とは、思うけど。ま、いいや。それは過去の俺であって、これからとは違ェーし」

 肯定した。過去を、あれだけ否定してた過去を……肯定した。

「いい答えじゃな〜い」

「だろー? なるほどな……わがまま女子が嬉しそうになんだかんだ言ってくるの、こーゆー体感だったのな……全然理解できてなかった。ケド、言い換えると、逆も実はすぐ目の前にあった」

 つまり、彼女たちがやってるように、自由気ままに相手に振る舞っていれば、きっと違う経験ができた、ってことだ……。

 ってことは、過去と同じことを繰り返す未来を選択してたのは、やっぱり彼自身だった、ってことになる。そして今、彼は違った可能性を見出しつつある。きっと、次の相手には、今の素の彼でいくはず。

 いやー、絶対ヤバイ、捕まった女性! だって恋愛感情込みだと……どう答えればいいかわかんないし、それもどう思われるかも怖いし……絶対逃げたくなる! ケド、彼は逃すかな? だって、彼がロックオンしたら……。私はそう考えただけでゾクゾクっと背筋が震えたのでした。……やっぱり最強。Mr.早坂!

「フラれた彼女たちは、さぞ悩んだでしょうね? あなたとうまくやれていると思っていたでしょうし」

 確かに! 最初の常識的で優しい早坂さんなら、簡単に想像がつく……。

「あー! ……だからか。今までサ、別れ話するといっつも、『悪いところがあったら直す』とか言われて……。『別にそこじゃねぇーし』って思ってた」

「でしょうね。相手からしてみれば、あなたは偽善者じゃなく、本当にいい人に映っていたでしょうから」

「……バカだな。それじゃ意味ねぇーし、っつーかそれ、俺じゃねぇーし」

「どう? フッてきた彼女たちに罪悪感でもわいたかしら?」

「いや……むしろ、本質的な俺と交われなくてかわいそうだなー、とか? いや違うな……『俺の本質を引き出してみろよ』って……いっつも思ってたのかもしんない」

 ドS? ピッタリ! と思ってしまうから恐ろしい……。すごいな、むき出しの早坂さん。男。漢!

「うふふ〜。変わったわね、視点が。当初のあなたがどう自己評価していたか、覚えていて?」

「申し訳ねぇーとか俺の選択が間違ってたーとか……ウジウジ、ダッセェな。ケド……思うのは、結果から見て相手を思うなら、そう考えそう言うべきだ、って思考から出てた発言だったな、って」

「建前とやらね。……あなたの本音は? 含まれていた?」

「選択には、な。だって俺、本質的にはマダムが指摘したとおり、可能性に掛けたかった。だから、頭ではどうせ無理ってわかってるのに、また性懲りもなくあえて乗ってみたり……。ま、だから申し訳ねぇっつーより……しょうがねぇ?」

「アタクシは随分オブラートに包んで表現したのに、あなたは本当に……」

「あー! そっか、それが『お互いを最大化するためのご縁ではなかった』か……。ご縁、ご縁かー。まぁ、そうなのかもな。実際に俺、ちゃんと反応する人間には反応するなって、強烈マダムのせいで確信持っちまったし」

「『おかげ』、でしょう?」

「へへ、いーよな、そういう小さい仕掛けにちゃっかり気づいてくれる感度! そーそ、思えばここまでわかってるヤツ、いなかったなー、これまでは。そっか……これがご縁とやらなら……だな、俺はこれまで、最大化のご縁待ちしてたってだけ」

「まぁま、嬉しいわ〜♪」

「ヌカしてろ」

「うふふ、ようやく、プライドのレベルを越えたわね」

「は? プライドのレベル?」

「そう。プライドをかざしてる人間がいるエネルギーレベル。その上には、自分が傷つくかもしれないリスクをとってでも、一歩先へ踏み出せるかという段階が待っている。そしてその先にこそ、『愛』のレベルがある。あなたはずーっと、小さなプライドをかざして嫌味を発信し、偽善者で過去に囚われてるジブンの方がいいと信じ込んでいた。一方で、不確実な可能性に対して飛び込みたい欲求ーー『愛』を知りたい本能的な欲求もうずき出していた」

「あー! それかー、矛盾!」

「Exactly! Mr.早坂さすがね〜、こんなに話が飛んでいたというのに、ちゃーんと覚えているんですもの」

「ヘッヘェーン」

 そして少しして、突然早坂さんが吹き出し笑いを始めたので、私までもドキッとしてしまいました。……ど、どうしたの?

「プッ……ハッハッハー! やべぇー、そっかそっか……今、矛盾の中でもがくジブンがすげー想像できた。……そっかそっか、俺、プライドって言葉も勘違いしてたわ。確かに、プライドが俺の次の一歩の足かせになってたのかも。ネガティブでエゴだらけのジブンが嫌なはずなのにその声に従ってたのは……プライドと自分を一体化しちまってたからだ!」

 すごい……。全然、一緒なんかじゃない。今の彼は……うーんと私の先をいってる。だって、言ってることが全然わからない。それも、そういう考えが自然と口からスルスルと出てて……余裕すらある。ヤバい……彼を、遠くに感じる。

「あらまぁ〜! Mr.早坂ってば、アタクシの仕掛けをほとんど解いてしまったわね」

「へっへーん、今ならその『仕掛け』の理由もわかったぜ。俺自身が答えを見出すため、だったんだな……?」

「あら? どういう意味かしら?」

「ハッ、まーたおとぼけ。どんなに正しくてキレイな言葉を言われても、他人に与えてもらった言葉じゃ意味がねぇ。価値が低いっつー感じ? 自分の理解が追いついてなきゃ、結局その真価を手にできたとは言えねぇし、それじゃ、あっという間に忘れちまう。けど、自分で考え導き出した答えは違ェ。自分で考えて、過去とかこれまでの知識と照会して、意味を体感込み、もしくはそれ相応の覚悟込みで導き出すーーそれ全部、『自分』でやるわけだからな……すっげー自分に刻まれる。それに俺の場合、その自分が負のループから抜け出せずに苛立ってたわけで……。今さ、『なんだ、抜け出せたじゃねーか』っつってる……この体感。言葉では単純だけど、見た感じの俺に急激な変化があるわけじゃねーだろうけど……かなり、俺の人生にスゲーインパクト与えてんのは、間違いねぇし。……あー! そうか、マダム、だから俺を挑発してたんだな? ……仕掛けてるって表現も含めて、挑発的な言動にはずっと疑問だった。話せば話すほど、どう考えてもあんたは攻撃的な人間じゃないはずなのに、って……」

 ……あ。それ、私も思ってたことだ!

「アタクシ、明言していたのだけれど、いかが?」

 ウソ?! ……どこで? いつ? ……全然わからない。じゃあ、マドリンネ婦人はやっぱり、わかって挑発してたんだ? なんで?

「……あー! フッ……ったく、ホーント仕掛け人だな……『あなたの答えを探すお手伝い』とかいう甘ーい言葉に反した、辛辣な言動だったけどな!」

 ……エッ?! えーっとたしか……確かに、冒頭で言ってた。仕掛ける仕掛けないのあたりで、誰かには正しい答えでも、誰かには間違ってる。だからそう、早坂さん向けの答えを探したいって……あ。つまり、挑発そのものも早坂さん専用だった、ってこと? どうして?

「挑発は、プライドのエネルギーレベルの人間にだけ効果があるの。それを通過している人間には本気を掻き立てる要因にならないし、そこに到達していない人間には、萎縮の要因にしかならない」

 あ……まさにそうだ。だって、私は彼女の挑発が怖かった。私が間違ってるかもっていう不安が先行して、自分を出すどころか、萎縮しただけ。だから2人をスゴイと思った。けど……私は、同じようにできないな、とも。

 逆に、本当に正しいということを知ってるフェアな人ーー多分それがマドリンネ婦人が言うプライドレベルを通過してる人たちーーに対して、たしかに挑発は無意味かも。それは、そういう人を数人か見たことがあれば、誰にでもわかるはず。本当にわかってる人は、挑発なんかに乗らない。自分と他人に差を見せつけようとするんじゃなくて、彼等はその隙間を感じさせないように自然に近づいてくるもん。たとえ、挑発が何かの良いきっかけになるとわかっていて乗ることはあっても、少なくとも、今回の早坂さんのように、必死で食らいつくほどの反応は示さない……。

 マドリンネ婦人……本気だったんだ。だって、この人は自分も他人も大切にできる人。なのに、あんな挑発言動を連発させて。きっと彼女だってわかってたはず、少し使い間違えれば、彼を怒らせるだけで何の結果も得られなかった可能性だってあったこと……。そう考えると、すごいな……すごい挑戦者。

「とはいえ、プライドは大事なものよ。社会では、誰に対しても本質的でいられるわけではないもの。プライドは、相手に応じた自分であることを適切に調整するための助けになる」

「……で、マダムみたいな視点の人間からすれば、つまんねぇーいち過程でしかねぇわけだ。……あーあ、悔しーよーな、嬉しーよーな。そっちの視点からずーっと対応されてたって思うと。……ケド、まぁいーや。だって俺、今恐ろしいほどに、ここまでの仕掛けが頭の中で次々と結びつき始めてるし!」

「うふふ〜」

「今なら、偽善者が紙一重って言ったマダムの意図も手に取るように理解できる。自然とループが止むっていった意味もな」

「あら、素敵。それはなぜ? なぜ止むのかしら?」

「出たなー、『なぜなぜ』攻撃……。んー、前者の方は、あらゆる配慮が浮かんでる上で、最後だけ自分で選ぶなら、結果に対する解釈は相手次第だから。後者は、出来事に挑む心理的な姿勢がぜんっぜん違ェから、かなー」

 エッ……? なんか、きれいにまとまりすぎてて、全然理解が追いつかない……。配慮が浮かんだ上で最後の選択だけが自分だとなんで紙一重って、納得できるの? ……自分で選ぶから? それに……心理的な、姿勢? それって……どういう、意味? ダメだ、さっきから……言ってる意味が、つかみきれない。

「あら、割と良い答えね」

「最高の、の間違いだろ?」

「それが、前を向いて歩くって意味よ」

「過去の出来事から何か学んだとしても、それが勘違いである可能性を忘れず、未来……いや違うな、可能性に向かって踏み込んで進む、って意味でもある」

「Exactly! ウフフ〜良さそうね。さぁて、ではそんなあなたの恋愛不感症に対する価値観の変化をうかがうとしましょうか」

「いいぜ? 答えてやっても」

 不思議、後ろ姿しか見えてないのに、彼が笑ってる様子が手に取るようにわかる。



To be continued..


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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