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[今だけ無料]自分勝手さは悪いもの・隠すべきものだと思うようになるルーツは、大事な存在の不快感に触れた瞬間だった…?|ジブン解決マドリンネ婦人 File.0002-6


「お父さんのコト、どう思っていて?」

「ジコチューで弱くて、仕事に逃げてばっかで……相手を思いやることを知らねぇクズ」

 ……どこの家庭も同じ、か。それも、そんな環境で育った子供は……マセるしかない。こっちが大人になるしか、生き延びる術はないんだから。多分、この彼も……だから、気が利くんだ。

 それにしても、ろくでもない男が多いのは、なぜなんだろう? いや、男っていう枠で縛るというより……父親として、納得できない人間が多いのはなぜ? ……私達だけ?

「お母さんのコトは?」

「……別に」

「お母さんから、小さい頃に何かショックなことでも言われなかったかしら?」

「は? ンなの……」

 ここで、ほんの少し、早坂さんの息遣いを感じました。

「……あるのね?」

 さすがはマドリンネ婦人。気づいた。

「今では、超どーでもいいような、くだらねぇ事だよ……」

「それが意外と大事だったり。今この瞬間、ふと浮かんだ事でしょう? それなら、今、話すために浮かんだのかもしれない」

「ンなの……忘れた」

「……それが勘違いに気づくカギになるかもしれない」

「……ったく。全然つまんねーことだっつってんじゃん……」

「Mr.早坂、ジブン解決のカギは、たいてい小さなものよ?」

 ……あ。私には、今の言葉で早坂さんの肩の力みがとれたように見えました。……また一歩。

「うーっすらした記憶しかねぇけど……疲れて帰ってきた母親に、テストで100点とったのを見せるのに、夜な夜な起きてたことがあって。ようやく帰ってきたと思って話しかけた時……そっけなかったなー、って……浮かんだのは、ただ、それだけ」

 ……悲しい話。まるで目に浮かぶよう……当時の早坂少年。

「その当時、そのお母さんの態度を受けてどう感じたの?」

「ンなのもう覚えてねぇーって! だいたい、何でもかんでも言葉にして答えなきゃいけねぇわけ?」

 ……確かに。辛い思い出を言葉にしただけでも、彼にはキツかったはずなのに……。

「もちろん、言い表せない事はたくさんあるわ。けれど今回のジブン解決は、あなたの中で絡まっている多くの糸を解いた、その先にある。もちろん人によっては、過去を完全に忘れ去ってスッキリできる人もいる……けれどあなたはダメ。こだわりが強いから、捨ててもまた拾い集めてきて、余計に絡ませる……」

「明らかに批判してるよな」

「褒めているつもりよ。だってそれは、自分が受けた痛みが大きかったからこそ、本質を学ぼうとする意志が非常に強い証拠。だからあなたはあえて探偵の元へやってきた……ジブンを深掘りすべく」

 えっ……?! マドリンネ婦人って……探偵なの?!

「うふふ、あなたは自分が受けた痛みを与えたくないのよね……周囲への配慮をとても大切にする、本当に優しい人。もちろん、アタクシの解釈をどう受け取るかは、あなた次第よ? Mr.早坂」

 ……悔しいな。マドリンネ婦人を悪者にして、『過去なんかもういいじゃないですか、そっとしておいてあげましょうよ』って言いたかったけど……でも、彼女の言うとおり、かもしれない。

 確かに彼は最初から、後悔だらけだった。あれはまさに、忘れ去ればいいはずの過去を拾い集めてきてる証拠。頭がいいって、気が利くって……良いことばかりじゃないんだ。

 だからあえて、なのかな? マドリンネ婦人……どうしてもココ、引くつもりなさそう。

「……ンなこと言っても、ちっちゃかったし……ショックだったんじゃね?」

「もっと感情を具体的な言葉にしてみると?」

「寂しい、虚しい、悲しい……。あー、確かに、あったかもなー、そういうの……」

 あ……少し、彼の声、震えてる……。

「その思い、当時のあなたはお母さんに伝えたのかしら?」

「あ……今、思い出した。俺……あんとき、泣いた気がする……ガキだったしな」

 ……かわいそう。

「その時にお母さんは? 何か反応したはずよ」

「……頭を抱えて、ため息をついて……『勝手にやって』」

 ……ヒドイ! 純粋な少年心に、なんてことを!

「そう、言ったのね?」

「あぁ……忘れもしねぇ」

 あ。本音。これは、本音だ……そっか、覚えてたんだ。……でも考えてみれば、そんな風に言われたらショックで忘れられなくなるに決まってる。

「それで、あなたは? どう思った?」

 ……ちょっとマドリンネ婦人! まだ追求する気ですか?!

「どうって……」

「少年ながらに、何か思ったのでは?」

 ……もう触れない方が良いですって! 彼が……かわいそう。

「……『あー、自分って邪魔なのかな』……確かに。思ったかもな、俺……」

 かわいそう! なんて親!

 ……私はその瞬間、完全に当事者として会話に参加したつもりになっているジブンに気づきました。というのも、気づけば私の頬を涙が一筋、伝っていたからです。そして脳裏には、なぜか私自身の幼少期のイヤな思い出が次々にフラッシュバックされていました。

 そう、私もそう思ったんだ、昔……。だから、彼の言い分が、体感が、過去がわかる。

 幸せな大人は、幼少期からそういう風に考えるマセた子供なんかいるはずないって言うけど……違う、現実はそんなに簡単じゃない。本当に、ちゃんと配慮という言葉を知っている子供だっている。ちゃんと察する子供だって……。

 彼はいつ頃、そう思ったんだろう? 私が記憶にあるのは……小四、くらいだな。

「その頃からかしら? 自分勝手さは悪いもので、隠すべきものだと思うようになったのは」

「……さぁな。ま、気付けばこういうネジ曲がった性格になってたし。……ケドな、それは昔の話。今はこれでも、25歳の大人」

 ……スゴイ。強い。言葉にしたけど、引きずられてない。あっさり、過去と今を区別できてる。私なんか……。

「と言いたがる気持ちもわからなくはないのだけれど。その頃から、そういう発想があなたの中に芽生えていたことも、また事実」

「おいおいー、まるでドラマじゃんか。言っとくけど俺、そんな悲劇のヒーロー体質じゃねぇーぜ」

 ドキッ……。泣いた私は、悲劇のヒロイン体質? 私はあわてて、必死に涙を拭いました。妙に、感傷的になっていたジブンが恥ずかしく、愚かに感じられてきたからです。ここ数年、涙なんか流した事すらなかったのに……それにもともと、感情的にはなりにくいタイプの、はずなのに……。

「アタクシも、何もすべてがその出来事のせいだとは思っていないわ。ただ、ほとんどの問題のきっかけと原因は、とても小さな、今で言えばどうでもよさそうな出来事の中に潜んでいるもの。それも、あなたとお母さんのそうした心のすれ違いは、その出来事の前から既に起こっていたはず」

 鋭い……確かに。私自身の記憶をたどってみてもそう。印象的な出来事は少ないけど、その前後からすでに始まってた。そっか、何度も何かしら同じような感情を抱いて、それが反復するから、ジブンの中でどんどん蓄積して……強いこだわりというか、こんなややこしいジブンになっちゃうのかも。

 ……にしても、かわいそう、早坂少年。心が凍りつくような、寒々しい幼少期を過ごしてたんだ……。

「そして、忘れられない出来事がその感情や苦悩の象徴としてあなたの中で1つ大きな核となり、その核が未来への警戒心を強め、あなたの中に居座る。……そうして、最初は小さかった勘違いがどんどん膨れ上がり……複雑で大きな影響力を持つジブンができあがる」

「ハッ……。仮にもしそーだとしても、母親にちょっと拒絶されたくらいで人生ビビるようになるなんて……くらだねぇな、俺……」

 ……そんな! 私はこの時、無意識に彼にそう言いたくなりました。だって、彼の気持ちがイタイほどよくわかる!

「あら、まーた独りよがり。あなたこそ、ジブンという存在の性質をもう少し理解してあげるべきよ。あなたのように、男性性の特色が強い方は本来、相手を喜ばせることで幸せを感じるもの。だからあなたが言う『男が尽くす』も、特色上は正しいもの」

「……男、ねぇー。俺にはクソガキにしか思えねぇケド……それも、ろくでもない頭でっかちなクソガキ」

「相変わらずね。けれどあなたの場合はそれだけじゃない。記憶力と感受性、洞察力も抜群という、多くの女性性の特色も兼ね備えているタイプ。そうなると、ひとたび悲しい出来事を経験しようものならば、それを2度と味わうまいと徹底したがる。と同時に、少なくともジブンは誰にもそんな体感を味わわせたくない、とも考える。あなたはそういう、配慮に対する意識が強い人。そういう人間は警戒心も人一倍強いから、逆にジブンのミスや落ち度も許せない……」

 ……まるで、私に言われてるみたいに聞こえる。思い上がりかもしれないけど、でも……私がずっと守ってきたポリシーを、マドリンネ婦人はズバズバ言い当ててる。そして、その言葉を受け取ってる目の前のこの彼は……やっぱり。心当たりがあるみたい。背中がこわばってる。……似てる。

「けれどねMr.早坂、そんなあなたもただの1人の人間。弱い時があって、間違ったこともいっぱいやって……それでいいのよ。それでこそ、生身の人間ですもの……。うふふ、ジブンに甘すぎる人が相手を思いやれずに苦労する一方で、相手を思いやりすぎてジブンに鞭打ちをする厳しいあなた……もう少し、許してあげてもいいんじゃなくって? あなたは十分によくやっているわよ? 頑張りすぎだわ……」

 よかった……マドリンネ婦人、ありがとうございます。私がそう素直に思ったのは、その言葉を聞いて、彼のいきり立っていた肩が少し、ゆるんだように見えたからでした。

 『ジブンに鞭打ちをする厳しいあなた』ーー確かに、許してあげてもいいと思う。彼はきっと、たった1つの小さなミスにさえ、敏感すぎるんだ。だからカレカノだって、まるで完璧にすべき仕事みたいに……。

「……昔の俺、なんか間違ってた?」

「いいえ。あなたもあなたのお母さんも、何も間違ってはいないのよ」

「は? ンだよそれ……」

 確かに! なんで? だって……。

「『お母さんが間違っていた』……と言ってほしかったかしら?」

 ……そう、それ。

「……てめ、俺をからかって楽しんでるだろ?」

「いいえ、あなたを知りたいだけよ……過去の不快感(トゲ)が残らないように」

 ……確かに。さぁ早坂さん、お母さんのグチというか、不満を言って! スッキリした方がいい!

「……別に」

 ……なんで? ひどい母親を……なんで彼は、責めないの?



To be continued..


この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


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