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川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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2022年1月の記事一覧

お膳会議

お膳会議



 今日は今日の様子があり、調子がある。それにより、箸の上げ下げも変わったりする。行儀作法が変わったわけではないが、勢いがいいときと、悪いときがある。しかし、箸の使い方が無作法になることは疋田にはないが。
 一日三食なら、三食とも違う。これは食膳の様子が違うためもある。おかずとかだ。食が進みやすいときは箸の勢いも鋭い。剣術だ。
 当然、うまく挟めないときもあるし、すんなりといくときもある。同じ魚

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日常の闇

日常の闇



 日頃、やり慣れていないことをやった翌日、また日頃の暮らしぶりに戻るのだが、これが意外とほっとする。ホームに帰る。ホームポジションに戻るためだろうか。
 一日内での射程は分かっている。これを退屈だと思うわけではなく、そちらの方が安定した暮らしぶり、一日の過ごし方になる。
 これは年々保守的になるようで、違うことをするよりも、日々の繰り返し中で、一寸違えてみたりする。違うことを少しやるわけだが、

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結界外へ

結界外へ



 時間を持て余し、退屈紛れに、いつもとは違うようなことをし始めるのではなく、高浜は起きるのが遅すぎたので、いつものスケージュールには乗りにくくなった。時間が余っているのではなく、足りない。
 それでいつもとは違うようなことをし始めた。要するにその日の予定は一切キャンセル、無視して、全く違うことに走ることになる。
 これなら、遅いとか早いとかが通じない。一日のスケジュールがまったく異なっているの

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言い訳のお告げ

言い訳のお告げ



 今日は出掛ける日で、作田は外で作業しないといけない。これは毎日出ていたこともある。しかし急ぎの作業ではないので、サボりがち。
 毎日だったのだが週に一度は休むようになり、二日になる。そのうち隔日になったり、続けて休むこともあった。また続けて行くこともあるが、計算すれば休みの方が多くなっている。
 そして、今朝、作田は朝の日課をこなしているとき、調子の悪さに気付く。体調だろうか。風邪の引きかけ

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古歌の寒稽古

古歌の寒稽古



 冬の雨。これは雪よりも冷たいかもしれない。しかし、気温は雪の日よりも高いだろう。その地方で雪が降るのは希なので、本当の寒さを岸田は知らない。
「雨の中、お出掛けですか、岸田さん」
「寒稽古です」
「何の」
「歌のです」
「カラオケの」
「いえ、古歌です」
「ああ、懐メロねえ」
「万葉集以前の歌です」
「ああ、なるほど。それで寒稽古とは、何となく分かります。声を出すのでしょ。歌うとき」
「そう

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白崎本通り商店街

白崎本通り商店街



 白崎駅の改札を抜けるとその昔、繁盛したような駅前商店街がある。まるで商店付属の駅のように。婦人用の安っぽい洋服の数メートル先に改札がある。横はお好み焼き屋だが、焼きそばにかけたソースが鉄板に当たり、その匂いが伝わってくる。間口は狭いが明け放れており、粗末な丸椅子が見える。ここで食べるよりも、持ち帰る人が多いのかもしれない。長いテーブルが一つあるだけ。値段は安く、駄菓子屋に近い。そこが一等地。

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木下原へ

木下原へ



 予定戦場は、木下原。ここは見晴らしがいい。一寸した原っぱ。戦には丁度いい場所。別にそこで戦うという決め事をしたわけではないが、戦いやすい場所なので、最初から決まっているようなもの。それに何度かこの木下原での戦いがあった。だから今回も、そこ。
 篠田軍は集合地の木下原の西へと向かっていた。忠岡郷の城主。主君から任された領地と城。篠田家は地元に人ではない。
 その郷から兵を集め、向かっていたのだ

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内と外

内と外



 みぞれ混じりの雪か雨。どっちだろうと高岡は考えた。俄雨らしいことはすぐに分かったのは、雲が見えているため。大陸ほどには広くはないが、輪郭が見えている。青空にその暗黒の大陸。これは大きな雲なのではなく、下に来ているためだろう。
 その雲が真上にまで近付いて来る。今よりも降りが激しくなるかもしれない。
 雨だと思ったのだが、白いものが混ざっている。雪が雨の中に混ざっている。これをみぞれというのだ

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夢



 夢は忘れていたものを思い出させてくれることがある。未来予想なら夢のお告げ。予知夢。
 しかし、その夢が先々のことを知らせてくれているのか、別の意味なのかは分からない。見た者が勝手に解釈しているだけで、意味を見出しているだけの場合もある。
 昔、あったこと、少し前のことでもいい。それが夢の中に出てくる場合、そこのところを注目してくれと、催促しているようにみえる。
 そこのところのポイントを見て

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夢一話

夢一話



 夜中、ふと目を覚ますと、女がいる。旅館での話だ。
 観光地だが、少し離れている。古びた旅館が三軒ほどあるが、どれも敷地が広く、何処かの別荘風で、旅館らしく見えない。温泉が出るようで、そのため、離れた場所にあるのだろう。
 客室は和室で、二部屋ある。竹中は奥の広い方の八畳で寝ていた。手前の部屋は何もない六畳の間。まるで控え室のような。
 宿の者が勝手に客の部屋には入ってこないだろう。風呂に入っ

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普通な日

普通な日



 今日は普通だ。日々同じことを繰り返しているのだが、その順番も普通。特に変化はない。体調も普通。悪くもないが、それほど良くもない。
 冬場で寒いのだが、それほど寒くはないし、暖かくもない。そして気分も普通。
 これは焦るようなことや、心配事や、苛立ちやプレッシャーになるようなことも静まっているのでノーマル。普通だ。
 といって冷静になりすぎているわけでもない。が、気持ちは落ちついいる。穏やか。

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ひでお伝説

ひでお伝説



 昨日は大活躍し、勇者であり、英雄だったので、今日は休もうかと思った。二日も、そして二度も三度も勇者ができるわけがない。
 それに、そればかりでは疲れる。テンションも上がりすぎ、また体力の限界値も上限。あとが疲れる。気も高まったまま、なかなか鎮まらない。寝るのも遅くなる。
 だから勇者はたまでいい。勇者働き、英雄働きをする前はプレッシャーが掛かる。それがあるので本村はできるだけうまくやり終える

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龍の落とし子

龍の落とし子



 山奥の山村。そこに美しい衣服をまとった女人が迷い込んだ。逃げ込んだといってもいい。その衣服は汚れていた。
 村近くの谷で、女人は倒れていた。崖から足を滑らせたのだろう。源五郎という一人暮らしの里人が洗濯をしているとき、それを目撃している。当然、駆け寄って助け起こした。
 女人は崖の上を指差した。追っ手だ。このあたりでは見かけない騎馬。そして見たことのない鎧。太刀の鞘が赤いのも目に入った。騎馬

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阿波侍

阿波侍



 垂井の宿は宿場町ではない。そのため、宿屋はない。しかし、泊めてくれる家がある。百姓家だが、空き家もある。
 山中にあり、宿場と宿場の間ぐらい。その距離が長いので、そこにできたのだろう。といっても勝手に旅人を泊めているだけ。また街道沿いではない。宿場と宿場を結ぶ本街道ではなく、裏街道。だから二山越える程度でずっと続いているわけではない。
 本街道よりも回り道になる。だが、本街道には番小屋があり

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