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川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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2021年11月の記事一覧

明日休む人

明日休む人



「明日は休みたいと思っているのですが」
「またかね」
「身体が休みたいと言ってますので」
「君が言ってるんじゃないか」
「私の意見では言うことを聞いてくれません」
「君の身体じゃないか、君自身じゃないか」
「そうなんですが、休まないと五月蠅いんです。身体が」
「だから、それは君が言っていることでしょ」
「私の意志じゃどうにもなりません」
「で、君の意志はどうなんだ」
「休みたいです」
「それは

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予知能力

予知能力



「さっさと済ませて帰りますか?」
「どうかしましたか、僕が何か」
「何となく、そんな気になったものですから」
「何となく?」
「適当なところまでやって、もう終えましょう」
「何か原因でも」
「早く帰った方が良いかと思いましてね。私だけじゃ何なので、一緒に終えましょう。私がいないと、あなたもできないので」
「そうですね。じゃ、僕も途中までにします」
「すみませんねえ。勝手を言って」
「何かあった

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場末の二人

場末の二人



 場末の喫茶店。横に場末のビリーヤード屋がある。
場末の似合う妖怪博士も、場末の人間だろう。
 所用で立ち寄った駅前、この近くに幽霊博士が住んでいることを妖怪博士は思い出し、珍しく持ってきた携帯電話で、呼び出してみた。
 携帯するから携帯電話。しかし、滅多に持ち歩いたことはない。外出先でところ構わず電話がかかってくるのが面倒なためだ。
 しかし、妖怪博士の携帯電話にかけてくる人間は希で、ほとん

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やってみる

やってみる



 やってみるまでは分からない。予想とか、予測はできる。しかし、実際に動いてみると、中味が見えてくる。思っていた通りの中味だが、あれっと思うようなものが新たに見出されたりする。それをやっていて別のものが浮上してきて、そちらの方が実は大事だったりする。
 それで最初にやり始めた頃の目的とは違う目的に乗り換えたり、また並行してやったりする。
 さらに進めていくと、思ってはいなかったが、思い当たらない

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機械仕掛けの吉田

機械仕掛けの吉田



 吉田は決まり事を機械のように、連日続けている。まるでロボットのようだが、中味は生身の肉。機械のようにはいかない。
 しかし、その動きは機械のようで、その流れから出る事はないし、また同じ流れを維持しようと思っている。
 機械なのに、思う。中の人が人間なので、思ったり考えたりはする。違うことがしたいとかは当然ある。
 しかし、機械的にやるのも実は大変で、その動き方を維持するだけで、一杯一杯。下手

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ここは何処

ここは何処



「小春日和ですねえ」
「この前もそんなこと、言ってましたが」
「晴れて暖かい日しか、ここには来ないからです」
「ああ、そうでしたね」
「あなたは雨でも寒くても、毎日ここに来ているのでしょ」
「はい、日課ですので」
「私は今なら、小春日和の時だけ、これからまた寒くなりますので、暖かい日も少なくなるでしょう。しかし、晴れて少しでも暖かければ、来ますがね。寒いといって部屋の中でじっとしていると飽きま

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調子の良いとき

調子の良いとき



 篠塚は今朝は調子が良い。それはまずいと思った。
 身体が軽い。何をやるにもスラスラといく。動きがいい。頭の回転も速く、複数のことをさっと認識し、さらに先取りできるほど。
 困ったものだと、篠崎は考えた。調子が良いときは、そのあとが怖い。これは良い状態などそう続かない。次は調子が悪くなるだけ。
 それで篠崎は調子の良さを隠した。誰に。これは自分に。
 それで、調子が悪いというか、まずまずの調子

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夢は秋野を駆け巡る

夢は秋野を駆け巡る



 秋の野。志垣はそういうところを散策したいと思っているのだが、街中で暮らしていると、野に相当する場所が遠い。だが、電車を使えば野のあるところへ出ることができるが、どの野が良いのかを検討する必要がある。
 当然日帰りで行けるような場所に原野などない。これはかなり野っ原というか、人が住んでいないような場所とかでないと駄目。
 だから、野にも種類がある。どの野までを志垣は野と思えるかだ。
 子供の頃

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父帰る

父帰る



 同じことを繰り返しているようで、同じことをずっとやっているように見えても、接し方が違う。そのため、結果が少し違う。
 同じだが、違う。というより、同じようには絶対にならないこともあるためだ。むしろそっくりそのままの繰り返しの方が難しい。
 ただ、意味としては同じようなもの。結果も微妙、微少な違いはあるが、一緒と同じ。だが、出てきた意味が少し違う場合もある。
 それは接し方だろう。以前と同じ結

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藪糞

藪糞



「寒くなってきましたねえ」
「朝より、昼の方が寒いですよ。気温が下がっている。いつもなら昼の方が高いのですがね」
「やはり、そうでしたか。じゃ、寒くなっているのは確か」
「朝も晴れ、昼も晴れで、天気は同じです。気温だけが下がっています」
「この分だと、夜は冬だね」
「まあ、秋の終わりですから、そんなものかもしれません」
「吉田の気温も下がっている。何とかしないとな」
 つまり、吉田という人の熱

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晩秋

晩秋



 晩秋、陽射しが暖かい。まだ寒くはないので、いい気候だろう。それも束の間の話で、すぐに寒くなる。
 その頃でも小春日和があり、そこはオアシス。別に水が欲しいわけではないが、秋の終わりなのに春。小さな春。これは本当の春が来るまでは連続しないが、単発的に来る。
 春を先取りしているわけではない。今年の春は、ずっと後退したが、経験済み。だから、来年の春を寒くなってきた頃から待つというのも、それは早す

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桜と紅葉

桜と紅葉



 今年も紅葉の季節がやってきた。待っても待たなくてもやってくる。何もしていなくても一年は過ぎる。何かをした人でないと、やってこないわけではない。紅葉も勝手にやってくる。
 今月今夜見る月と、数年後に見る月は同じようなものだが、見る場所が違っていたり、また、月など見ようと思わなかったりする。偶然夜空を見れば月があった、その程度が多い。月を見るため、外に出ることは月に関しての何か用事があるためだろ

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波風が立つ

波風が立つ



 それまで、何となくいつものように暮らしていたとき、一寸した波風が立つことがある。それが気掛かりになり、いつものペースで日々が送れなくなる。日々は同じ、やっていることも同じだが、気持ちが違う。
 そういうとき、いつもの気分に戻りたいと願ったりするが、そのいつもの気分がそれほどいいものではない日もある。
 しかし、日々の平穏を乱す厄介事とか、面倒事は質が違う。これもまた、いつものペースの波に吸収

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とある祭りの準備

とある祭りの準備



 先々、必要だと思い、小まめに準備していたのだが、その先々の近くになると、あまり必要ではなくなっていることがある。
 先々を考えていた自分と、現実とでは、違ってきているためだろう。自分だけではなく、当然世の中も少し変化し、様子が違っている。それほど大きな違いはないのだが、必要性が薄らぐ。
 この先々の準備。実際にはその時、その場でも、できてしまうのだが、それでは余裕がないし、先のことを思う楽し

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