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川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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2021年10月の記事一覧

派閥崩し

派閥崩し



 小山は何処かの派閥に入らないといけない。政治家ではなく、ただの会社員。しかし、それなりの政治力が必要。
 別に何処にも所属したくないし、また社内マニュアルにもない。また人事課に行っても、派閥一覧表があるわけではない。それに派閥に入るのは仕事ではない。そんな業務はない。
 それで小山は適当な派閥に入ることにした。小山は新入社員なので、それなりの誘いがある。同期の前田がおり、彼も選ばないといけな

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宮脇家の謎

宮脇家の謎



 宮脇は眠くなってきた。晩秋の夕方前で、気候はいい。少し暖かい。
 午前中は曇っており、雨上がりのあと。少し肌寒く、陰気な曇天。このままの一日かと思ったのだが午後からは晴れだし、気温も上がった。
 それで急に眠くなった。早く起きてきたからではなく、一寸した会食があり、そこでこれ以上食べられないほど食べた。さらにとどめはケーキ。これが効いたのだろう。
 それで、事務所に戻る。これは個人オフィスだ

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炭焼き小屋の与助

炭焼き小屋の与助



 藩内で改革がなされ、悪家老は引退した。切腹とか、追放とかではなく、結構軽い。誰も血を流さない改革。要は悪家老の私欲が問われ、不公平なことが行われていた。賄賂とかだ。
 しかし、それを受け取っていたのは悪家老一人ではない。藩の重役達の中で、悪家老派全てそうだった。そのため、一掃された。
 若くて、いい家臣がいたのだろう。隅に追いやられていた重臣や若い役人がそのあとを継いだ。賄賂のあとを継いだの

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お見事

お見事



 子供の弟子を取った田村は武術の使い手。大きな道場を持っている。彼に敵うものは当然いない。しかし、広い世の中なので、いるだろう。
 田村は、その少年に見込みがあると思い、内弟子とし、本宅に住まわせた。田村の私邸だ。武家屋敷だが、田村は藩から見れば浪人。しかし、田村は武家であり、武家育ち。事情を話すと、開いている屋敷に入れた。門弟の中に高い身分の藩士も多かったので。
 田村家は長い間、放浪してい

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散歩道

散歩道



 下岡は一寸考え事をしながら、散歩していた。下岡にしては珍しい。昔は考え事や、考えが煮詰まったときに散歩に出掛けていたのだが、最近は散歩だけを楽しんでいる。
 風景を見たりとかで、これは目の前に現れるものを見ている程度。頭の中はその近い距離だけで、遠くまではいかない。確かに空の彼方の雲なども眺めるので、遠い距離のものを見ているのだが、あくまでも雲であり、空であり、それ以上の広い展開はない。
 

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不自由人

不自由人



 自由はいいのだが、責任を取らなくてはいけないらしい。それは嫌なので、不自由がいい。しかし、不自由な中にも多少の自由さがある。責任を取らなくてもいい自由度が少しはある。こちらの方がいいのではないかと田中は考えた。
 自由なのはいいのだが、際限がない。自由になった瞬間、また不自由なものが全面にあったりする。それらにいちいち責任など取っておれば、自由をやるよりも、責任取りの時間が方が長く、そして手

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決め事

決め事



 植田はやっと決まったので、ほっとした。これまでいろいろと考え続けていたのだ。これで方針が固まり、やることができた。何をすればいいのかが明解になった。
 そのとたん、一息ついたためではないが、何もしなくなった。決まったからそれで済んだようなもの。しかし、決めるだけなら誰にでもできる。だが、植田はなかなか決まらなかったのである。決めるだけでも一生かかるほど。残りの余生では実行できなかったりする。

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ノイズ

ノイズ



 吉田は少し難しい本を読んでいたのだが、要領を得ない。言葉遣いが古いためか、意味が分からない。旧漢字で、見たことのないような文字。これは一度か二度はあるはずだが、文字として認識できないので、覚えていないのだろう。
 それで要約したものがあるので、それを読む。すると、やっと何を言っているのかの大意が分かる。明解だ。
 しかし、何かが抜け落ちている。それは難しい本の作者のものの言い方とか、言葉遣い

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目からウロコ

目からウロコ



 何かもやっとしたものがあり、有村はそれが取れない。一度取れたのだが、またもやっとしだした。
 目が曇っている。目からウロコが落ちたとき、その、もやっとしたものが落ちるのだが、翌朝になると、また、もやっとしている。
 しかし、目からウロコを落とすのは問題だ。落としすぎるとかえってよくない。ある程度枚数がある方がいい。だが落とす方法はなかなか見付からないので、その気になって、さっと落とせない。

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レトロの逆襲

レトロの逆襲



「一つ前では今とそれほど変わりませんが、二つ前でも駄目です。これは今のと比べれば出来損ない」
「じゃ、どの程度古いのが良いのですか」
「がらりと変わる前ですね」
「じゃ、かなり前ですね」
「さらにもっと前だと古臭いとなります。もう誰も相手にしない」
「そこまで古いのが良いのですね」
「いや、今とかけ離れるほど古いと、これも困ります」
「はあ、どのようなのが、良いのでしょう」
「以前普通に使い回

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青いモミジ

青いモミジ



 その年、夏は冷夏だったが、秋半ば頃から暑くなり、夏が戻った。ここで暑さを取り返しているのだろう。
 岩倉はまだ青いモミジを見ている。色付くにはまだ早いが、寒色系から暖色系に先っぽから徐々になる時期が好きだ。
 そのモミジは神社の境内にあり、高い木ではないが、その前を毎日通っている。モミジまでの距離は少しある。モミジよりも奥の社殿の方が目立つのだが、その時間、丁度逆光。後ろからの光線でモミジの

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神仏の話

神仏の話



「神や仏はいるでしょうか」
「いるでしょ、そのへんにゴロゴロしている」
「そんな聖地があるのですか」
「いや、普通の市街地だよ。お寺にゃ、仏がいる。教会には、そっちの神様がいるだろ。普通にいるじゃないか」
「そうですね」
「分かりきったことだ」
「あのう」
「何か」
「そういうものじゃなく、神仏はいるのでしょうか。存在するのでしょうか」
「それはさっきいったでしょ。お寺の多い場所なら、仏さんだ

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気分の問題

気分の問題



 三村は今朝は気分が良くない。身体が悪く、何か気分が悪くなっているのではない。多少体調は芳しくないが、平熱範囲だろう。多少の波はある。
 気持ちが悪いのではなく、気の持ち方が悪い。昨夜食べ慣れないものを食べたからではない。腹具合が身体に影響を与え、気分にもそれが出てきたりする。
 これは、ぼんやりとしているとき、それを感じる。忙しい日々を送っているときは支障がない限り、気にしないだろう。
 そ

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正邪の対決

正邪の対決



 青雲の志を懐いた人や、暗雲の志を懐いた人がいる。どちらも起ち上がりは違うが、その後は、似たようなものになる。
 暗雲の志、これは暗い。根の暗さが先立つのだが、それもやがて明るさを増し、それほどの暗さではなくなっている。世間に出ると均されるのだろう。暗いばかりではやっていけないため。
 逆に明るく元気な青雲の志の人も同じことで、これも均され、平均的なものになる。標準的な。
 しかし、どちらも起

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