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川崎ゆきお
2021年3月30日 12:45
懸命に、丁寧にやったものよりも、適当に、いい加減にしたものの方がよかったりする。手を抜くというよりも、その手前で既にやり終えていたような。だから抜くもなにもなく、すっとそのままやってしまえたようなこと。 当然、あとで考えると、簡単にやり過ぎたため、自信はない。そんな簡単なことでいいのだろうかと考える。それでは懸命にやったことにならないし、真面目に真摯に取り組んだわけではないので、少し罪悪感
2021年3月26日 13:17
いつも春風が吹いているような顔の上田だが、春になっても顔色が冴えない。険しい顔をしたまま戻らないように。 それはどうしたことかと、知り合いの住職が訪ねると、戻らないと言うより、これで普通だと言うし、別に生活が厳しいわけではないし、いかめしいことを考え続けているわけでもないと。 ではどうしてそんな不機嫌そうな顔になったのかと聞くと、冬の寒いとき、顔をしかめたままフリーズし、戻らないとか。
2021年3月25日 13:28
木下が出した企画書を見て部長が興味を懐いたようだ。それで、部長室から呼び出しを受けた。 課長がそれを聞いただけで、別に話を聞こうというわけではない。 課長は係長にそのことを話した。係長は木下に、部長が呼んでいるという話になってしまう。それでいつ行けばいいのかと考えたが、すぐにだろう。 それですぐに部長室のドアを叩いた。そこには部長しかいない。 見晴らしのいい窓を背にした椅子で、部長は
2021年3月24日 13:31
倉橋は楽しみを早い目に済ませてしまった。しかし、それほどのことではなく、がっかりした。そういった楽しみは間隔を置いて実行している。今回は早すぎた。そのため、次の楽しみまでの期間が長い。「早まったなあ」 倉橋は後悔したが、我慢出来なかったのだろう。早く楽しみたいと。 次の楽しみまで、かなり間が開く。これを早めて、前倒ししてもいいのだが、期間を置かないと、それほど楽しいことにはならない。今
2021年3月23日 11:58
春めいてきたので北中は外に出た。毎年のことで、特にいうほどのことでもないし、語るほどの内容ではない。そのへんの虫が起きだして、蠢いている程度。世間の片隅よりもさらに隅の隅、しゃがんで見ないと分からないし、また葉の下や、ドブ板の下などにいたりする。 しかし、その虫の僅かな移動距離内でもそれなりの影響を与えている。非常に狭い範囲だが。 北中もそんな感じで、北中が動いても、それほど影響はない。
2021年3月21日 13:16
「市ヶ崎の権蔵さんはこのあたりか」「そうです」「どの屋敷じゃ」「そこの小橋を渡って、右に入って二つ目のお屋敷です」「かたじけない」「いえいえ、それよりも、いいんですか」「何が」「そんなお屋敷に行かれて」「用がある」「じゃ、仕方ございませんねえ」「何が仕方ないのじゃ」「いえいえ」「気になるのう。何かあるのか」「何かおわりなので、行かれるわけでしょ」「まあな」「では、
2021年3月20日 12:42
「桜が咲いています」「あ、そう」「ソメイヨシノです」「あなたが見た桜だけでしょ」「そうですが、別の場所でも見ました」「じゃ、二箇所」「いえ、三箇所か四箇所」「どの程度咲いた」「どの木も、一輪ぐらいで」「一輪」「はい、一つだけ、ぽつりと、そのあとは、それに続くでしょう。だから今朝は咲き始めです。昨日までは咲いていませんでしたから」「あ、そう」「どうですか、花見と洒落ません
2021年3月19日 13:50
長く眠っていた龍が竜ヶ森で目覚めた。竜ヶ森と呼ばれているが、龍など見た者はいない。伝説だ。名が残っているのだから、何か謂れがあったのだろう。 龍を起こしたのは少女。 ある日、森に迷い込み、崖から滑り落ちそうになったとき、飛び出していた岩にしがみついた。その岩もずるっと動いた。 龍の封印だったようで、少女がそれを開けたことになるが、そんな意志などなかった。 そして森に行く用事もなかった
2021年3月18日 13:09
春が順調に進んでいる頃、柴田は相変わらずの暮らしぶりを続けている。徐々に暖かくなっていくので、順調だろう。しかし、柴田は不順。これは体調もそうだし、気持ちもそう。 しかし万年床のようにその状態に慣れると、それで普通。特に気にすることもなく、季節の移り変わりを見ている。 それが精神作用に大きく関わることはない。気候の良さが気持ちの良さに影響はするが、ただの皮膚だけの反応だったりする。 そ
2021年3月17日 12:47
「昨夜は春の嵐でしたなあ」「雷が落ちたでしょ」「あれは近い、閃光も強烈。電気を消してましたが蛍光灯いらず。それよりも明るい。ストロボだ」「ああ、フラッシュ」「音も凄かったですよ。響きました」「私は地震かと思って起こされましたよ」「何処に落ちたのでしょうねえ」「さあ、そこまでは分かりませんが、近いです。このあたりです」「まあ、嵐も去り、晴れてきました」「雨も凄かったですねえ。し
2021年3月16日 12:33
民宿のようだが、はっきりとした看板はない。見た感じ民宿のように見える。そのあたり、民宿が多い。駅前で老婆から誘われ、それに従った。既に夕方、何処で泊まっても同じ。寝るところさえあればいい。 駅前からかなり離れているが、商店街はかなり長く、一度途切れて田んぼの中の道になるのだが、また復活したように商店が並んでいる。しかし更地が多い。 駅からは送迎バスでもなければ、遠すぎるだろう。しかし、バ
2021年3月15日 13:26
「雨が降っておりますが、大丈夫ですか」「春の雨、暖かい。大事ない」「しかし、雨の日にわざわざ出掛けられなくても」「桜の蕾が気になるのでな。今日あたり、咲いておるやもしれん。昨夜からの雨で」「まだ早うございます」「分かっておる。途中が見たいのじゃ。咲く手前の頃が」「今年に入って、毎日ですよ。見に行かれるのは」「変化はないのだが、最近は蕾も大きくなり、色も付きだした。これは近い」「
2021年3月14日 18:48
今日は何もしないで、ぼんやりと過ごそうと吉岡は思ったのだが、昨日もそうだった。 何か用件でも済んだ翌日ならのんびりを楽しめばいいのだが、連日、のんびりなら、のんびり漬けで、のんびりとした感じにはならない。さらに、もっとのんびりと過ごせばいいのだが、そうなると逆に退屈。今でもそうなのだから、これ以上のんびりとしたくはない。 そういう日々を送っていた吉岡だが、ここ最近忙しくなった。用件が多く
2021年3月13日 12:43
表通りではなく、裏通りの商店街、ほぼ路地だが、そういうところを歩くのが前田の趣味。それはコースが決まっており、毎日そこを通っている。裏道の入口に散髪屋があり、料金が安いので客が多い。裏側にタオルが干されており、白い大きな花が咲いているように見える。散髪屋は硝子張りで、店の人が数人おり、顔を覚えるほど。そこの人も、その時間になると毎日通っている人がいるな、程度には見ているだろう。 そして、路