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川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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2019年9月の記事一覧

秘境サイト

秘境サイト



「落ち着けるものがいいですねえ」
「それは物事が落ち着かないと、落ち着けないでしょ」
「そうですねえ。しかし、落ち着いたものが好きです」
「それも結果的に落ち着いたので、落ち着けるのじゃありませんか」
「結果ですか」
「辿り着いたとき。目的を果たした地点。そこが落ち着き先ということでしょ。何もしてないのに落ち着きだけを求めるのはどうかと思いますよ」
「いや、世の中、次から次で、落ち着いたと思っ

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千古万古

千古万古



 千古からあるものは人が関わっているが、万古からあるものはどうだろう。今もまだ引き継がれているのは当然千古の昔のものが多く、馴染みが深いかもしれない。
 千古万古の昔からあるもの、そして未だに続いているものはやはり価値がある。続いているだけでも馴染みの線が切れていないためだ。
 しかし、今のものでもよく見ると、千古万古からあったものの発展型かもしれない。
 では千古万古からある考え方などはどう

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古い農家が残る村

古い農家が残る村



 何度か通った覚えのある通り。別にその道を通らなくてもいいのだが、ついつい入り込んでしまう。それは下田が自転車で走っているときだ。散歩のようなもので、一寸したサイクリングだが、街中を練り走る程度。市街地を見て歩くには自転車が都合がいい。遠目で見ているこんもりとした森などは神社か寺か公園なのだが徒歩だと寄りにくい。時間の取り方の問題で、行っても見るべきものがなければ無駄足を踏むことになる。
 こ

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体感温度

体感温度



「寒くなりましたなあ」
「急にねえ」
「この前まで暑くて暑くてたまらなかったのにね」
「涼しさを飛び越して、寒いですよ」
「秋抜きですなあ」
「いやいやまだ秋が始まったばかりで、夏も残っていますよ。半袖のシャツ一枚の人だってウロウロしているほどですよ」
「しかし、その中に混ざってジャンパーを羽織っている人もいるじゃないですか」
「個人により温度差があるのですよ」
「それは大事だ」
「いや、それ

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ある読書子

ある読書子



 下田は暇があれば本を読むタイプだが、本を読むために時間を作ることは滅多にない。しかし朝夕の電車内では必ず読んでいる。これだけでも結構な読書量になるし、何かで待っているときなども、待ち時間に読むし、喫茶店などに入ると、本だけ読んでいたりするので、読書家の部類に入るし、趣味は読書でも通るだろう。
 名著、名書、古典的定番など、それなりに読んできた。そのため一般常識以上のことを多少は知っている。歴

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若き隠遁者

若き隠遁者



 世の中のことが分かってくると、もう興味をなくす人がいる。よく分からないので、興味があったのだろう。そしてこんなものかと分かると、そこで止まってしまう。
 しかし、その後も世の中は進み、以前にはなかったことや、新たな謎が出てきたりするのだが、それまでの知識で何となく持ったりする。劇的な変化ではないためだ。相変わらずの世界が相変わらず続いているようなもの。
 だが、世の中のことに興味をなくしてい

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