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川崎ゆきお
2018年11月30日 12:30
「水谷道太郎に近付きたいと」「はい」「何者か、知っておりますか」「偉い人でしょ」「知る人ぞ知る存在です。彼のことを知っておられるだけでも大したものです」「いえいえ、たまに名前を聞くので」「何か用件でも」「お近づきになりたいと思いまして」「それは無理でしょ」「近付けませんか」「近付けます」「じゃ、いけるじゃないですか」「会うことは簡単かもしれませんが、それだけです」「で
2018年11月29日 11:08
「欲をかいちゃいけませんが、欲がないとやることがなくなりなすよ。元気もなくなる。目標もなくなり、目的もしっかりしない。何をやるべきかも曖昧」「じゃ、欲深くてもいいのですね」「神々の深き欲望だよ」「はあ?」「しかし、欲をかきすぎるとよくない。それだけハイパワーになり、鋭利になり、強くなりますがね。これは切れすぎる刀のようなもの。逆に自分を切ってしまうこともあります。誤ってね」「では、ど
2018年11月25日 11:13
支店と言っているが出店のようなものではなく、支社だろう。規模は大きく、またここがこの組織の発祥の地。本社は元々、ここにあった。 そこに新しい支店長がやってきた。早速全員を集め、挨拶が行われた。これはしなくてもいいのだが、この宝田の流儀だろう。「何事においても慎重に、成功よりもミスをおこさないこと。ミスの少なさが成功をもたらす。そのため、私は割り箸を叩いて渡る、を信条としております」 ざ
2018年11月24日 12:17
第一印象で決めるか、論理的に詰めて決めるのかで、高田は迷っていた。そのものの選択で迷っていたのではなく、選択の仕方で迷っていた。これは選択基準を何処に置くかの話。人それぞれ流儀があるが、そんな大層なものではなく、流派をなすほどのものではない。 高田は第一印象で選ぶ方だが、それだけでは危ないので、論理的なフォローもする。そのとき、第一印象でよかったものが、意外と駄目だということが分かったりす
2018年11月23日 13:17
蟻とキリギリスの話で、夏場遊んでいたキリギリスが困る初冬。例に従い蟻にすがる。そういう法則でもあるのだろう。 夏場、猛暑の中でも働いていた田中の家はアパートで、しかもこの辺りでは一番安い。キリギリスの吉川は少し離れた町に住んでいるが、そちらの方が安い。だから田中よりもいいところに住んでいることになるが、それは最下位争い。低いレベルでの比較だ。「田中君、いるかな」「来たな吉川君。この季節
2018年11月20日 11:26
朝、目覚めた吉田は、今日は何をする日だったのかと先ず考えた。こういう日は何かある日で、今日しなければいけない、何かがあるとき。いつもなら単に目が覚め、何時だろうとか、もう少し寝ていたいなどが最初にくる。そのため、特に考えるようなことはしないし、考えることは起きようとすることぐらい。 昨日の延長、昨日の続きがすぐに始まるわけではない。一度寝てしまうと、繋ぎ目なく始まるというようなことにはなら
2018年11月19日 11:51
天ヶ峰。それは何処にでもあるような山の名かもしれない。 この地方での天ヶ峰は高天原伝説と絡んでいる。そこから神々が降臨したというものだが、これは後付けで、そういう必要があったのだろう。世の中の動きで、いかようにも変わる。 実際にはこの辺りでは一番高い峰なので、天高きところの山という意味だろう。また里から見ると雨が分かる。霧が掛かるためだ。それで天気予測ができたりする。天ヶ峰ではなく、雨ヶ
2018年11月17日 12:08
「最近忙しくてねえ」「忙しいのに、よく遊びに来たねえ」「忙しついでだ」「でも忙しくていいじゃないか」「忙しいだけで儲かっていない」「商売をやってるわけじゃないだろ」「いろいろと先のことを考えて、動いている。下準備のようなもの。いずれも有為なこと」「いい調子じゃないか」「それで、昼寝ができなくなった」「昼寝なんてしてるの」「ああ、体調を崩したとき、よく昼寝をした。その癖が残っ
2018年11月16日 12:19
「寒くなってきましたねえ」「もう冬ですよ」「秋から冬は釣瓶落とし」「最近釣瓶なんて使いませんし、井戸もないですがね」「あるんです」「使っていますか」「使っていません」「どんな井戸ですか」「水道がまだ来ていなかった時代の井戸ですよ」「古井戸じゃなく」「共同井戸ですがね。四軒か五軒の」「長屋のような」「普通の家にも井戸があった時代です。水道時代手前の最後の井戸です」「その
2018年11月14日 11:22
「次は何処へ行きますか」「見るものがないねえ」 山が深い。高い山ではないのだが、街から離れているため、深く見えるのだろう。 夕食も終わり、浴衣に褞袍を羽織り、下駄を履いた宿泊客がそぞろ歩きを楽しんでいるのだが、見るべきものがない。川沿いのちょっとした膨らみ程度の場所。温泉として古くからあるが修験者の宿として使われていた。だから里の人間がわざわざここまで湯に浸かるに来ることは希。 しかし
2018年11月10日 11:08
「誰がこんなことをしたのかね」「あ、僕です」「余計なことを」「あ、はい」「元に戻しなさい」「分かりました」 田村は調子が良いときは注意せよという教訓を忘れていた。これは自分で発見した自己管理方法。今日は調子が良すぎて、積極的な仕事をしてしまったようだ。少し方法を変え、よりよくするためにやったことなのだが、裏目に出た。おかげで元に戻すのに時間がかかり、帰りが遅くなった。 地下鉄を降
2018年11月8日 11:00
きつね坂。その名を聞いただけで、もう何があるのか分かりそうなものだが、ついつい欺されてしまう。分かっていても欺される。分かっているのなら欺されないはずだが、欺されてしまうのは、欺されてみたいという気が少しはあるのかもしれない。欺されるとろくなことにはならない。そのため、敢えて欺されようと思う人などいないのだが。 柴田がきつね坂に差し掛かったのは、用事があるため。まあ道を行くときは何らかの用
2018年11月4日 10:44
人に歴史あり。そのため歴史秘話もあるし、歴史から抹殺したこともある。しかし個人の歴史。世間に対して示すのは履歴。これは歴史的出来事ではなく、職歴だろうか。当然学歴が分かりやすい。卒業してからの職業が「がたろう」では分かりにくい。河川埋没物清掃員。まあドブさらいをする人だが、この話は落語「代書屋」で有名。 自分のことなのに知らない歴史がある。それは実際にあったことで、体験したことなのに。その
2018年11月3日 09:59
「最近忙しそうですね」「いろいろと慌ただしくてね」「それは結構なことで、景気がいいのですね」「景気も何も、私は仕事をしていませんから。そのため、物価が下がるとありがたいです。景気がよくなります」「いやいや、物価が下がりすぎると危ないでしょ」「そうですか。まあ下がった分、余ったお金で何か買ってしまいますから、同じことですがね」「じゃ、最近どうして忙しいのですか」「やることがないので