マガジンのカバー画像

川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

1,185
運営しているクリエイター

2018年5月の記事一覧

決戦の時

決戦の時



 平田家と高砂家は仲が悪い。隣接しているためだろう。油断しているといつの間にか領内の村が取られていたりする。これは領主替えで、村が勝手にやること。隣国が占拠したわけではない。村が自主的にやったことなので、手が出せない。お互いにそんなことをやり合っているうちに、そろそろ決着を付ける時期に来ている。
「近いですなあ」
 この二つの領地と隣接する宮田家の管領が言う。宮田家は宮家を祖としており、土着し

もっとみる
予讐復讐

予讐復讐



 予習と復習、これは予習して授業などに出るとゆとりが出る。あらかじめ自習しているので、予想された展開になるので、初めて聞く話ではないので、知っていることをまた聞くような感じで、これは授業中が復習のようなもの。だから予習しておれば復習は必要でなかったりする。実際には本番の授業中が復習も兼ねているため。
 ただ授業は教科書通り、これがあるので予習できる。教科書通りではない教え方をする先生は別だが。

もっとみる
故郷は遠く

故郷は遠く



 明日から何をやろうかと黒岩は思った。やることがないのだ。だから探している。それが見付かればそんなことを思うこともない。
 それほど長い勤め先ではなかったが、会社を辞めた。何度目かになるが自分で辞めたわけではない。また解雇されたわけでも。単に潰れた。失業保険があるので、すぐには困らない。もう若くはないが年寄りでもない。中途半端な年齢。再就職を考えると頭が痛くなる。それで、この痛さを消すため、も

もっとみる
本気モード

本気モード



 吉見はあまり本気になりたくなかった。何事も軽く、いつでも身を引ける距離で、そして体重を掛けないで、遊び半分に。
 これは子供の頃、遊んでいて、本気になってやっていると、そんなところで本気を出している自分が恥ずかしかった。本気を出すとは実力の全てを吐き出して、全身全霊で取り込むこと。
 また真剣にやることも恥ずかしいとされていた。実際には推奨であり、褒められるべきことだろう。だが、褒められるこ

もっとみる
後ろの自転車

後ろの自転車



 気のせいではなく、気配だけではなく、本当に誰かが後ろら来ていたように思えた。思うだけならならどうとでも思えるが、視野の中に、確かに人が入った。後ろからだ。振り返って見たわけではないが、目の端に確実にいるのが分かった。だから錯覚ではない。
 お茶の時間、丑三つ時ではない。三時のおやつ。竹中は休憩時間、仕事場ではなく、近所の喫茶店まで行き、一服する。おやつは食べないが、コーヒーを飲む。昼の休憩ほ

もっとみる
寄り道

寄り道



 天気晴朗なれろ波高し。そんな月曜日の朝、海の波は見えないが、風があるのだろう。雲が流れていく。あの雲は何処へ行くのだろうかと考えたことはあるが、見ている間はそれほど移動しない。向かっている方角程度は分かるが。
 雲は何処へ行くかは風任せ。そんな感じの旅人が昔いたのかもしれない。風の向くまま気の向くままの。だから目的地がない。目的地を決めて旅立たなかったとすれば方角が手掛かり。西へ行けばどうな

もっとみる
月日

月日



 いつの間にか日が過ぎていく。それはやるべきことをやっていないためだと田中は考えた。そんなことを考えている暇があれば、そのやるべきことをさっさと片付ければいいのだが、そうはいかないらしい。さっさとできない事情がある。
 では、やるべきことをスラスラと片付けた場合は月日が立つのが遅いのかというと、そうでもないらしい。
 しかし、色々なことを詰め込んで懸命にやっていると、逆にあっという間に日が過ぎ

もっとみる
ネット賽銭箱

ネット賽銭箱



 梅雨が近いのか湿気が強くなっている。こういう日は寝苦しいのか、何度か木下は夜中に起き、その度にまだ早いとまた寝るのだが、そのサイクルで次に目が覚めたときは早い目の朝。ここで起きてもかまわない。少し早起きになるが、早起きは三文の得。早起きすると枕元に一文銭が三枚置かれているのなら、これは具体性がある。しかし一文銭では値打ちがない。古銭として売れるかもしれないが、売りに行くときの交通費の方が高く

もっとみる
人の世

人の世



 人の世があるのなら虫の世もある。昆虫などは集団で暮らし、社会がある。だから虫の世もある。しかし人が人の世を思うとき、思うことで人の世が出てくるが、虫は虫の世のことを思うだろうか。近くにいる虫について思うところはあるかもしれないが、どの程度の距離だろう。犬や猫、鳥あたりなら親や兄弟のことを思うかもしれない。そのとき、犬の世として、猫はただの動物扱いになるとは思えない。猫から見ての犬も。
 ちょ

もっとみる
歌の家

歌の家



 諸国を遍歴し、経験値をたっぷり蓄えた白ノ俊だが、それを活かす機会がない。しかし良く考えるとずっと遊覧船に乗っていたような旅。苦労などしていない。これは本家が金持ちのため。若い頃の苦労は買ってでもしろと当主に言われ、旅に出たのだが、路銀はたっぷり持って出た。銭で解決することは銭で解決した。殆どのことは銭で解決した。
 これは一応外遊をした坊っちゃんに近い。坊っちゃんのままだが色々なものを見聞し

もっとみる
踏切を渡る

踏切を渡る



 線路側からプラットホームが見える場所。そこは踏切。その場所から電車がホームに入って来るのを佐々木は待っている。ここがスポットで、休みの日など同じように写しに来ている人もいる。そのため、佐々木が見付けた秘密のスポットではない。
 流石にホームにいる人は肉眼では見えないが、いるかどうか程度は分かる。電車がホームに入って来るまでに写さないと、それからでは踏切が閉まる。ホームに止まったあたりでもう踏

もっとみる
機械の汁

機械の汁



 自分はいいと思っているのだが、他人はさほどいいとは思っていないことがある。逆に嫌ではないが、それほどいいとは思っていないものを、他人は非常にいいと思っていたりする。この他人というのは不特定多数の人々。しかし仲良しグループでも、それがある。
 自分が好きなので、他人も好きだろというのも頼りのない話で、また自分が面白いと思うこともそれと同じで、これも基準としては弱い。しかし本人が弱いだけかもしれ

もっとみる
誰かいるのか

誰かいるのか



 堀口は早く仕事を終えて遊びたいとか、自分の時間をエンジョイしたと思うのだが、そんなときに限り、仕事が捗らない。あと僅か。ほんの数十分で済む。調子の良いときはその半分で済む。そして大してプレッシャーの掛かるようなものではないので、さっとやれば、さっと終わってしまう。だが早く済ませたいときに限り、そうはいかないのだから、皮肉な話だ。
 簡単なはずのことで手こずる。やり出せばすぐなのだが、止まって

もっとみる
三村君じゃないか

三村君じゃないか



 三村はとりあえず散歩に出た。このとりあえずがいけない。これという判断ができないので、適当なことをしていることになるのだが、それでもとりあえず動ける。それが解答ではないにしても。とりあえずやってみようという感じだが、やることが分かっているのなら問題はないが、やることがないので、とりあえず何かをするというのが問題。
 三村はとりあえず散歩に出た。これは本来の目的ではない。散歩に行きたくて、散歩に

もっとみる