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川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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2018年3月の記事一覧

見た目通り

見た目通り



 人は見た目で分からないが、見た目ではない事柄などを見たとき、それで分かるのだろうか。見た目といっても見ただけの見た目もあるし、表面だけの関係もあるし、また表面的なことしか知らない場合もある。これは人に限らないが。
 見た目はあまり良くないが、実際には良い人だったというのがパターンとしてある。ではどういうところで良い人だと分かったのか。これも見た目の一部ではないのか。
 そして意外と禁じ手とさ

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龍を宿す

龍を宿す



 人の内心は分からない。時田は大人しく従順で腰も低く、愛想もいい。誰に対しても親切なので、良い人なのだ。そのようなことを常に実行し続けられるということは実際には有り得ないし、逆に不自然なので、これは何処かで意識的にやっているのだろう。
 愚弄、馬鹿にされたり、さげすまされたりしても、へいこらしている。これはストレスが溜まるだろう。
 しかし人の内心は分からない。こういう覇気のない人間なのだが、

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巫女在籍の多い神社

巫女在籍の多い神社



 里の山際にある神社は周囲は森で覆われ、何処にでもあるような造りだが、社殿の横に建物がある。神主の家にしては規模が大きすぎる。由緒のある神社かといえばそうでもなさそうで、古いことは古いのだが村の神社ではない。つまり氏子は村人ではないし、氏子そのものもいないようだ。村の神社は別にあるので、やはり何らかの謂われがあるのだろう。
 この神社には神主はいない。村の神社なら不思議ではなく、氏子総代とか、

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奥の桜

奥の桜



 私鉄のおもちゃのような一両編成の電車で終点に降りると、そこから既に花見は始まっていた。
 竹下はそこではなく、山寺を抜けたところへ行くことにした。山寺周辺が一番桜が見事で、花見客もここが多い。春休みのためか子供も多くいる。
 そこを抜けたところから山の中に入っていくのだが、人通りの多い山道のようなのが続いている。シーズンでなければただのハイキング道だろう。しかし山際まで宅地のためか、散歩に来

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業界のキッコーマン

業界のキッコーマン



 下田は人の集まりを苦手としていた。嫌ってもいた。しかし人出が多いところは好きだ。大勢の人で賑わっているところへはよく出掛ける。ただし、見知った人がいないことが条件。群衆の中の一人は意外と孤独なもの。だから、一人でいるときと変わらないためだろう。
 しかし集まりが苦手、徒党を組んだり組織の一員とかは駄目。スタッフとかはとんでもない話で、何かのスタッフに加わるとかはもってのほか。
 そんな下田な

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方向と方法

方向と方法



 目先や方法を少し変えると一瞬だが新鮮な気持ちになる。これは長続きしないが、行き詰まったとき、少しは動ける。動けば事も動く。止まれば事は運ばない。
「目先ですか」
「そうです。これは方向を少しだけ変えてやるのです」
「方法もですか」
「方法とはやり方です。これを変えるのです」
「でも、いつもの慣れ親しんだやり方でないと」
「それで、事が動き出したときは、戻せばいいのです。それにいつものやり方と

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桜咲イタ父帰レ

桜咲イタ父帰レ



「花見時ですなあ」
「桜は咲いてますか」
「サクラサイタチチカエレです」
「電文ですか」
「そうです」
「父は何処かへ行っていたんでしょうか」
「失踪したんでしょうなあ。家出のようなもの」
「でも居場所は分かっているのでしょ」
「失踪なので、行方は分かりません」
「じゃ、電報を届けられない」
「電文ではそうなるのですが、実際には桜咲いた父帰れです」
「じゃ、電文じゃないとなると何ですか」
「新

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神通力

神通力



 その地方の国々は巫女が重要な働きをしていた。中には巫女が女王として治めていることもある。
 国といっても規模は小さく、市町村レベルにも達しない地域で、これを一国としていたが、それよりも狭い地域もあり、これは国レベルではなかったが、僻地ではそれが多かった。それは豪族とも言われており、あるまとまった団体で、これが最小単位の勢力。その豪族集団が一つになったのが国。だから村落単位でいえば、村々が集ま

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新しいシステム

新しいシステム



「どうも上手くいかん」
「以前の方法に戻したらどうでしょうか。それを望んでいる人達も結構いますから」
「いや、不備があるから、今の方法に変えたんだ。それで上手くいってたんだ。ところ不備が出た。今まで気付かなかったんだ」
「長くやっていると、何かが出るものでしょ」
「リスクというやつだね。しかし、以前の方がリスクは少なかった」
「しかし、以前の方法はもう古いですよ。それでシステムを変えたのですか

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三層の町

三層の町



「町の中に町があるのです」
「ほう」
「その町の中にさらに町が」
「じゃ全部で三つの町ですね」
「そうです」
「町中町でしょ」
「そんなものがあるのですか」
「一番古い町が外側に拡がり、ドーナツ化現象じゃありませんが、古い町を囲むように新しい町ができたようになります。最初の町の周辺には何もなかったのでしょ。だから拡がっただけ。しかし建物は新しい。町の施設も中央部ではなく、周辺にできる」
「じゃ

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観覧車

観覧車



 仕事が一段落付いたので、田中は自由な時間を得た。しかし、一段階なので、二段階三段階とあるため、自由な大海原が拡がっているわけではない。浜辺から少し沖に出かかったところで、戻らないといけない。
 二段落目はすぐに待っているのだが、二三日のんびりとしていてもかまわない。これは日数的に多いといえば多い。連休に近いが、中途半端。一日目は寝ているだろし、最後の日は体力温存で、無茶はできない。翌日から二

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漫画家志望2

漫画家志望2



「今晩は今晩は」
「はい」
「遅か時間にすまんとです」
「夜中の二時ですよ」
「まだ起きとられると思いまして」
「まあ、それはいいですが、何か」
「まんぐあの原稿を持って来たとです」
「えっ」
「先生ば、何か画いて持って来いと言いなさったので無理して画いて来ましたばい」
「まあ、いいから玄関先で大きな声じゃ困るから、中に入りなさい」
「おんじゃまします」
「それで、何でした」
「まんぐわの原稿

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想像と実際

想像と実際



 想像すれば分かることはそれほど興味はない。分かるまでは興味深い。これは興味の時間が長いためだろう。何年も持つものもある。そして、永久に分からないものも。しかし、まったく分からないことが分かっていると、それもまた対象外になってしまう。分かる楽しみがないためだ。
 そして、想像で分かってしまうことは、もう想像だけで十分で、やる必要がないこともある。これは結末が分かってしまい、そのあとのことも見え

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賢者と愚者

賢者と愚者



 賢く、知恵もあり、教養も知識も豊かで、知性も高いのだが、世の中、それだけでは何ともならない。いくらいい頭があっても活かす場所がなかったりする。せいぜい今夜のおかずは何を作るかで、その知性を使う程度。
 また豊かな経験も活かすところがなければ、何ともならない。
 岸和田は世の中の人が全部馬鹿に見えるのだが、本人が一番哀れなのかもしれない。
 それを運だと諦めているが、この諦めるということにも一

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