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PSM マンチェスター・ユナイテッドVS.アトレティコ・マドリード レビュー

テンハグ政権2度目のビッグマッチ。負けはしましたが、アトレティコにも通用する!という収穫と、まだまだこれからという課題の2つが見えたのかなと思います。試合の流れを追いながら、その2つについて言及していければと思います。では、いきましょう。

①スタメン

 両チームのスタメンはこんな感じ。ユナイテッドはサンチョ→エランガ、ショー→マラシア以外はいつメン。アトレティコは5-3-2を採用し、守備時5バック、攻撃時変則4バックという一昨年くらいから行っているかたちでした。

Ⅰ.アトレティコの守備での振る舞いと
ユナイテッドが主導権を握れた理由

1⃣アトレティコの開幕鬼プレッシング

 この試合、基本的にアトレティコはミドルゾーンにブロックを組み、奪ったところを速攻という狙いだったが、前半の5分まではユナイテッド陣内深くでの激しいプレッシングを行っていた。

②アトレティコの開幕プレッシング

 アトレティコのプレッシングは4-4-2気味の配置。2トップは相手2CBを、コンドグビアとレマルのダブルボランチのどちらかが相手のアンカーをケアしながら中央のスペースを消す役割。そして矢印で示したように、4-4-2のフォーメーションにおいてSH、SBとなる4選手はサイドにボールが出たら、一気にボールホルダー、マーカーに圧力を掛けるという具合だ。

 アトレティコの伝家の宝刀である4-4-2による同数プレッシングにユナイテッドは苦しみながらも、この3'のシーンのようにビルトアップからチャンスを作れたほか、ボールを奪われることはあっても決定的なチャンスを相手に作らせなかったということが、この試合の主導権を相手に与えなかったことにつながったといえそうである。

2⃣アトレティコの5-3-2ブロックと
ユナイテッドの配置と狙い

③アトレティコの5-3-2、ユナイテッドの3-1-6

 上述したように、この試合のアトレティコは基本的にはユナイテッド陣内深くでのプレッシングは行わず、ミドルゾーンにブロックを置いて相手の攻撃の選択肢を限定するスタイル。今季のユナイテッドのPSMの対戦相手でいえば、ヴィラのミドルゾーンでのプレッシングに近い。
 ヴィラが採用した4-3-1-2と同じく中央に選手が固まって配置される5-3-2。アトレティコはラインを高く保ち、DF-MF-FWという3つのラインをできるだけ狭め、2トップで相手の攻撃をサイドに誘導したところにIHがプレッシャーを掛け、サイドに追い込んでいくベーシックなかたちだ。
 それに対してユナイテッドは左SBのマラシアがCBの一角に入る形で3-1-6のような配置を形成。1アンカーが相手2トップ間に位置することで相手2トップを中央に絞らせて、「時間」と「スペース」のある2トップ脇にいる両脇のCBからゲームメイクをする狙いだ。
 5-3-2の泣き所となる「2トップ脇・WBの手前のスペース」において、そこを2トップがケアすることができれば、後方の5-3のブロックはあまり動かなくて済むが、2トップがケアできない場合、IHもしくはWBがそのスペースのボールホルダーにアプローチする必要が出てくるため、後方に「ズレ」が生じることとなる。少し概念的な話になったが、ユナイテッドは(例えばダロトやフレッジが3バックの一角の立ち位置を取るなど、)そこにいる人が変わっても3+1の形を常につくることで、アトレティコの5-3-2ブロックの2トップ脇からチャンスメイクをするシーンを再現性をもって作りだせていました。

④ユナイテッドの両脇CBを起点とした崩し1
⑤ユナイテッドの両脇CBを起点とした崩し2
⑥ユナイテッドの両脇CBを起点とした崩し3

 アトレティコはユナイテッドの3バックに2トップがプレッシャーを掛けきれない場合は、IHが出る仕組みになっていた。そこでユナイテッドが狙っていたのが、プレッシャーを掛けに出てきたIH裏(DH脇)のスペース、そしてそれをカバーされた場合に空いてくるCB裏のスペースである。④、⑤はマラシアに対してM.ジョレンテがプレッシャーを掛けに来た際に、ブルーノ、マルシャルの2枚のどちらかがそのIH裏のスペース、もう一方がそれをカバーするために空けたCB(サヴィッチ)の裏のスペースを狙ったシーンである。
 7分、8分とこの局面が立て続けにつくられていること、ブルーノとマルシャルがその時々で役割を変えていることを踏まえても、これは明らかにチームとして狙った動きであると考えられ、実際④のシーンでは裏に抜けたマルシャルがカバーをするヒメネスと交わして、あと一歩で決定機というところまでいっている。
 また、⑥のように右サイドでもマグワイアを起点としたひし形を形成した上での連動した動き出しによってマグワイア→ライン間で待つエランガ→逆サイドのマラシアというようにボールがつながっていたり、以下に添付したようにマグワイアからラッシュフォードへのロングフィードが何度かあったりと、チャンスをつくるというだけでなく相手を押し込むという意味での「崩し」がうまくいっていた。(アトレティコは裏のスペースを空けるくらいなら、撤退するを選ぶチームであるという理由もありそうだけど…)これらの配置と狙いが前半ユナイテッドが相手に主導権を与えなかった1つの要因である。

3⃣試合を通してハマっていたユナイテッドのプレッシング

 ユナイテッドが主導権を握れた1つの理由としてボール保持における配置と狙いについて上述したが、もう1つの理由であり、最大の理由がこのプレッシングといえる。

⑦ユナイテッドのプレッシングのかたち

 アトレティコはボール保持をする局面になるとヘイニウドがSBのように振舞い、左WBのカラスコはさらに高い位置を取る。右サイドではWBのモリーナは4バックのSBとしては比較的高めの位置で幅を取りながら、ジョレンテや2トップの一角のコレアが中央のライン間で待つ配置となっている。強引にフォーメンションで表すなら、左右不均衡の4-3-3といったところだ。
 そのアトレティコの「4-3-3」に対して、ユナイテッドはいつも通りマンツーマンを基本としたプレッシングを敢行。4-2-1-3のような配置をとり、⑦のようにそれぞれがマーカーを持ちながら、相手の2トップに対しては2CB+左SBの3枚で数的優位を確保したかたちとなる。
 このプレッシングに対して、アトレティコはショートパスによるビルドアップを諦め、GKからロングボールを蹴ることが多かったが、されどロングボールということで、それがアトレティコの安定したボール保持にはつながらないことが多かった。

 また、このシーンのように相手にボールを奪われた直後に行うカウンタープレス(ゲーゲンプレス)もかなり機能しており、ビッグチャンスこそ少なかったものの、ユナイテッドは「ボール保持」・「ボール非保持」・「トランジション」という局面において、相手ゴールに近づくプレーができていた。
 じゃあなんで点とれなかったんや!、ビッグチャンスつくれなかったんや!というところが、まさにアトレティコという感じで、ユナイテッドの選手からすると狙い通りにゴールに迫れているという感覚があったかもしれないが、アトレティコとしても「相手に主導権を与えながらも、失点せず、チャンスも作る」という狙いがしっかりできていたように思う。(実際、アトレティコは25'に「マンマーク守備」の弱点であるCB裏のスペースからチャンスをつくっている)
 ただ、前半だけでなく、ボール保持の局面が上手くいかなくなった後半60分以降も、ユナイテッドが大崩れしなかったのはこのプレッシングが安定していたからで、このプレッシングの強度が今後もユナイテッドの生命線となりそうだ。

Ⅱ.アトレティコの2ndスカッド投入による試合の様相の変化

1⃣アトレティコの5-4-1と狙いが見えない
ユナイテッドのボール保持

⑧60'以降のアトレティコとユナイテッド(ぺリストリ⇔ガーナーを除く)

 アトレティコは、60'に2ndスカッドとして11名の交代を行い、フォーメーションも5-4-1(3-4-3)に変更した。恐らくこれは決まった交代であり、フォーメーションの変更含めて、試合状況の修正という意図はアトレティコ側にはないと考えられるが、この立ち位置の変化によって明らかに試合の様相は変わった。

⑨アトレティコの5-4-1(5-2-3)ブロック

 5-4-1というフォーメーションは後ろが重いという反面、後方に選手が多い分、後方のスペースを気にすることなく各々の選手が前方の選手にアプローチできるというメリットがある。そのメリットを活かしてアトレティコの選手は5-3-2の時よりもマーカーがはっきりし、ユナイテッドのボールホルダー、そしてライン間で待つ選手に対しても力強くアプローチすることができており、ユナイテッドのボールを外回りさせることができていた。
 ユナイテッドは相手のフォーメーション変更による2トップ→1トップ(3トップ)化に合わせて、マラシアとマグワイアの立ち位置を修正して2CB+1のようなかたちにするなど、ピッチ内での工夫は見られたが、それによってマグワイアと幅を取る右WGとの距離が離れてしまったりと、5-4-1の相手をどう崩すかという再現性を伴ったメカニズムはあまり見えなかった。もちろん、こういう状況でも72'や74'のシーンのようなチャンスをつくれるようになったのは今季からの進歩ともいえそう。

2⃣アトレティコのボール保持の狙いとフレッジ退場の因果

⑩4-3-3のアンカー脇と中央の数的優位

 アトレティコの3-4-3に対して、ユナイテッドは4-3-3でのプレッシングを敢行。IH-相手CHというように基本となるマンツーマンの要素は維持しつつ、アンカーのフレッジはボールサイドにスライドして、味方SBとともに相手シャドーの対応にあたるタスクとなる。
 しかし、「ボールサイドにスライドする」となると当然、スライドの隙やゾーンの隙間が出来てくる。そしてそのアンカー脇のスペースに位置するのはうますぎる2人、グリーズマンとJ.フェリックス。さらに入れ替わりでそこに1トップのモラタも入ってくることがある。その対応でフレッジに負担がかかったり、そこから突破されることは当然増えてきてしまい、実際アトレティコのショートパスによるビルドアップは前半よりもスムーズになっていた。89'の退場もそのアンカー脇のスペースに降りてきたモラタにフレッジが激しくチャージしたことがきっかけとなっている。
 上述したように、アトレティコがこの3-4-3に変更した後もプレッシングは機能しており、ここで言いたいのは何も「4-3-3のプレッシングが悪い!」ということではなく、サッカーにおけるフォーメーションの嚙み合わせの重要性をここから読み取ることができるということである。(あと、あの退場はフレッジ個人が悪いわけではないんじゃないかってことですね。)

3⃣またしても浮上する「修正に対する修正」問題

⑪パスの出し手と幅を取る選手の距離

 アトレティコの得点後、当然ながらユナイテッドは点を奪うために、より前方に重心を傾けることとなる。ときには⑪のように、2-1-7のような配置になって相手を殴り倒すことを狙うわけだが、上述したようにマグワイアやリンデレフといったパスの出し手から幅を取る選手の距離が遠くなる分、パスが中央→中央というようにサイドを経由できなくなり、逆に相手からは守りやすくなっているように見えた。
 途中の選手交代を含め、この試合でどれだけベンチサイドからの指示による修正が行われたかは不明だが、シーズンを通した中でこの試合のように主導権を握っているように見えても先制点を相手に許してしまい、追いかける展開となることはある。それに加えて、この試合やヴィラ戦のように相手が試合中により守備の強度を高めるための修正をすることもある。
 そのときに、まずはピッチ内の選手がどのように立ち位置や振る舞い方を変えるか、そして最終的にはどのようにベンチサイドがそれをサポートする交代や指示を出せるかということはプレミアリーグを"生き抜く"上で重要であり、ヴィラ戦のレビューから繰り返しになるが、この「修正に対する修正」は改善の余地がありそう。(2-1-7で強引に突破!を極める路線もそれはそれでロマンがあって僕は好きなんですけどね笑)

Ⅲ.さいごに

 ラージョ戦のレビュー書くかわからないので、今季のPSMのまとめでも。
 全勝からの分け、負け、分けと尻すぼみになったPSMでしたが、控え組で臨んだラージョ戦を除いて、本気のヴィラとアトレティコと試合をしたことでこれから改善が必要な部分も浮き彫りになり、良かったのかなと思います。全勝で終わって、向かうとこ敵なしというのもかっこいいですが、PSMで有頂天になって、リーグ戦で課題を突き付けれれてもしょうがないのでね。
 繰り返しになりますが、課題が浮き彫りとなったといっても、プレッシングやボール保持など欧州屈指の守備を誇るアトレティコ相手に通用する部分も多かった気がしています。これはこのPSM期間通してのことですが、やはりテンハグのチームは「点を取る」ということに関してはかなり長けていて、相手を崩すためのボール保持の約束事の明確さ、そして相手がブロックを作る前に縦に速くという意識の高さは目を見張るものがあると感じます。だからこそ、ヴィラ戦、アトレティコ戦の終盤に見せた、攻撃が単調になってしまうという脆さがあるので、このスタイルがどの程度プレミアリーグにマッチするかは楽しみです!
 あとは怪我人次第ですけどね。そこは祈りましょう(笑)では!

タイトル画像の出典

https://sportslightmedia.com/ucl-2021-22-manchester-united-to-face-atletico-madrid-after-round-16-draw-redone/


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