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プレミアリーグ第20節 マンチェスター・ユナイテッドVS.マンチェスター・シティ

まずは、両チームのスタメンから。

①スタメン[Sofascoreより]

Ⅰ.得点が生まれるのはゴール前

1⃣シティの奇策(?)とユナイテッドのプラン・対応

 試合前、ペップは奇策をするといっていたらしい。それがどんな策だったかは、本人に聞かないとわからないが、ここでは恐らくこれではないかと思われるものについて言及する。

②シティの奇策1
③シティの奇策2

 シティの奇策は3つ。
 まず(1)がSBとWGの両方をサイドに張らせ、CBとSBの距離を広げること。ユナイテッドの守備のスイッチを入れる「WGの相手CBへのプレッシング」に対しての策であり、ユナイテッドのWGに(CBに寄せるか、SBをマークするかという)「選択」を迫る狙いだ。
 (2)がCFハーランドの極端なまでの列を下りる動き。IHは高い位置にいたまま、相手のCBのマーカーであるCFがアンカー脇まで下りることで、ユナイテッドのダブルボランチ、2CBに(誰がハーランドに付いていくか、いかまいかという)「選択」を迫る。
 (3)がSBがボールを持った際にみせる、IHのサイドに流れる動きとそれと連動したWGの中に入る動き。中盤をマンツーマン気味に守る決まりとなっているユナイテッドのダブルボランチに対して、(サイドに流れるIHに付いていくか、中央のゾーンを守るかという)「選択」を迫る。
 (1)~(3)すべてが、ユナイテッドの選手に本来のタスクやいつもの試合の要領ではカバーしきれない「選択」を迫るかたちとなっており、まさに奇策といえる。余談ですが、(3)に関してはユナイテッドがビルドアップのときに用いるパターンであり、「パクリが奇策ってこと?」と少し思いました。
 シティの予告された奇策。これを予期したとは考えにくいが、ユナイテッドもシティ対策としてしっかりと「この試合に向けたプラン」を用意していた。

④ユナイテッドのプラン・対応

 ユナイテッドは前回対戦で苦心した相手の2IHとCFに対して明確なマーカーを設定した。マンマークを基本とすることは変わりないが、いつもの試合であれば非ボールサイド側のボランチはボールサイドに寄る構えを見せるが、この試合は違った。例えば、相手左サイドにボールがあるときにフレッジは中央にスライドして下りてくる相手CFハーランドを見るのではなく、完全にデブライネに張り付く。カゼミロはその要素が若干薄かったが、相手右サイドにボールがあるときにハーランドをマークすることは少なかった。
 そうなると、誰が列を下りる動きをするハーランドを見るかという問題になる。しかし、この点も明確に2CBのどちらかがハーランドを見て、マークをはっきりさせることで対応。マンマークという原則は同じでも、いつも以上にその姿勢を明確化させていた。恐らく、マークの受け渡しを少なくすることで、縦横無尽に動くシティの選手に守備者が混乱させられたり、迷いを生んだりしないようにするためだろう。
 さらに、ユナイテッドは1列目の守備にもテコ入れをしていた。いつもであれば、両WGはまず自分自身の担当マーカーとなる相手SBを意識したうえで相手CBにプレッシャーを掛ける。しかしこの試合では、両WGのブルーノとラッシュフォードは明らかに相手CBの自由を奪うことを最優先事項としていた。相手SBからかなり離れた立ち位置を取り、中央のCFマルシャルとOHエリクセンとの距離間をより意識していたようにみえた。また、(これはエリクセンの個人の判断による対応の可能性もあるが、)4:07~でも確認できるように、この試合ではいつもの試合と比べてCFとOHが横並びになって2トップ気味に相手の2CBとアンカーを抑える動きが多かった。つまり、ユナイテッドの1列目は4トップのようなかたちで、相手CBの「時間」と「スペース」を奪い、中央のパスコースも制限していた。これらの相手CBへの強い圧力掛けと中央の選手へのしつこいマンツーマン守備によって、シティが前回対戦でみせた2CBを起点とした中央でのチャンスメイクを思うようにはさせずに、9:59~の場面の決定機を作ることに成功する。

2⃣ベルナルドの機転とカゼミロの判断

 ハーランドの極端な列を下りる動きもすぐにやめ、(「パスミスがなければ…」というシーンもつくれていたが、)どうにも奇策が上手くいっていない感のあったシティ。しかし、パスミスで決定機を作らせてしまった張本人であるベルナルドがわずか開始10分ほどでビルドアップを修正する動きを見せる。

⑤11:38~の場面 ベルナルドのダブルボランチ化&3バック化

 その動きは、列を下りる動きによるベルナルドのダブルボランチ化、そして後方の3バック化である。3:24~のスローイン・10:40~のゴールキックでも同じような動きが確認されており、ベルナルドの頭の中では10分程度でユナイテッドの選手の立ち位置と自分がどうすべきかというのが整理されていたのかもしれない。
 ベルナルドのアンカーと並列、もしくはそれよりも下がって2CBと3バックを作る大胆な動きに対して、カゼミロはついていかない。そうなればシティは相手2トップに対して3対2、相手4トップに対してGK含めて5対4の数的優位をつくることができる。さらに、ベルナルドがユナイテッドの1列目の手前でボールを持つことで、彼からの中央へのパスコースを制限するためにユナイテッドの両WGは位置を下げて(絞って)対応せざる得ない。よって、(それまでユナイテッドのWGが積極的にプレッシャーを掛けていた)シティのCBに「時間」と「スペース」を与え、シティの2CBはチャンスメイクすることが可能になる。
 実際、11:38~に加え、12:47~,19:10~,22:32~,23:55~とベルナルドのこの動きからシティはビルドアップに成功している。また、13:27~25:50~のシーンではアンカーのロドリが同じようにユナイテッドの2トップ(1列目)より手前でボールを受けて、相手を動かし、ロドリのいた相手1-2列目間にデブライネ(13分)、ハーランド(25分)が下りてくることでユナイテッドのブロックをいなしている。ポイントは相手の1-2列目間に選手がいる状態で相手の1列目より手前に誰かが下りて、2CBに「時間」と「スペース」とパスコースを与えることである。

⑥前半の主なスタッツ[Whoscored参照]

 ベルナルドの機転とそれに呼応した選手たちの修正によって、シティはボールを安定して保持し、19:10~ではCK獲得、22:32~ではハーランドのシュート(被ブロック)、25:50~にはPA侵入とチャンスメイクもできていた。しかし、⑥のスタッツを見ると、前半のシュート数はユナイテッドの方が上回っていることがわかる。加えて、注目したいのはボール保持率とパス本数。12'以降のベルナルドの修正によって、保持率・パス本数ともに大幅に数値が向上しているものの、シュート数は2本に留まり、相手に3本のシュートを打たれている。
 ベルナルドの修正は、無意味ではなく、確かに、有効なものであった。しかし、ユナイテッド側のカゼミロの「ベルナルドについていかない」という判断も意味のあるものだったといえる。
 カゼミロはあえてベルナルドについていかずに、最終的に相手が侵入を狙うCBの手前のスペースとそこに入る人を守ることを選んだ。もちろん、それによってユナイテッドのプレッシングは半機能不全となった。しかし、得点が生まれるのはゴール前(PA付近)であり、安易に釣りだされなかったカゼミロが相手のビルドアップからの疑似速攻を遅らせたり、防いだりしたシーンもあった。さらにカゼミロ個人だけでなく、ベルナルドの動き出しに対してユナイテッドはチーム全体として少し重心を下げて、ミドルブロックを固めようという意思統一ができているようにも見えた。
 6失点で玉砕した前回対戦を踏まえた個人・チームとしての現実的な判断が、相手のシュートを2本に抑えて試合の主導権を握ったうえでの前半0-0という結果につながったのかもしれない。

Ⅱ.内容と結果の乖離はあったのか否か

1⃣シティの再修正による猛攻

 前半はユナイテッドの「プレッシングが機能しなくても、後ろに人がいる状態」に苦しみ、25:00~,32:58~,36:43~などではユナイテッドのトランジション気味からのパスワークでチャンスもつくられたシティ。前半のゴール期待値は、MUN(0.66):MCI(0.13)となっていた。そして後半のゴール期待値は、MUN(1.06):MCI(0.52)。ユナイテッドにゴール期待値が上回られているとはいえ、シティも1/2で得点することができる確率まで上昇している。
 そこには、シティの後半からの修正が影響していたといえる。

⑥シティのビルドアップ再修正1
⑦シティのビルドアップ再修正2
⑧シティのビルドアップ再修正3
⑨シティのビルドアップ再修正4

 この再修正の要点と狙いを言語化するのは少し難しい(解釈も人それぞれ)ので、該当シーンをすべてピックアップした。以下では個人的に感じた再修正の要点と狙いについて言及したい。
 この修正のポイントは「SBの立ち位置の意識」「攻撃の縦幅を確保するという全体の共通認識の向上」である。⑥~⑩全てにおいてSBが内側にポジションを取り、⑦・⑨のようにWGへのパスコースを開けたり、⑥・⑧のように自分自身がパスをもらっている。中盤の列を下りる動きによる3バック化によって相手の2トップの守備の基準点をずらしたうえで、相手両WGの外切りプレッシングも封印するために、SBが中に入る動きを見せる。ユナイテッドの両WGは大きく開いた相手2CBからSB(中)+WG(外)の2つのパスコースを抑えることは不可能であるため、ボールにプレッシャーを掛けられない。ユナイテッドはブロック全体を下げる(撤退する)必要が出てくる。

⑩前半のシティのビルドアップ(イメージ)

 前半のシティはSBの基本的な位置をWGと同じ大外のレーンの低いポジションに設定して相手WGを引き付ける狙いがあった。しかし、ユナイテッドの両WGはシティのSBのポジショニングをあまり気にせずに、CBに圧力を掛けることを優先させていた。前半ではユナイテッドのその狙いを空転させるためにベルナルドのアドリブでビルドアップには成功していたが、⑩のようにイメージとしてはベルナルド+4バックとロドリ+α(デブライネ&ハーランド)の6枚~8枚が後方でビルドアップに係わったり、足元でボールを受けようとする動きをしていた。
 前半でもベルナルドorロドリの下りる動きによる3バック化&SBの中に入る動きは行われていた場面もあったが、後半はチーム全体の共通認識を整理してビルドアップに係わる人数を4バック+中盤1~2枚(ロドリ&ベルナルドorデブライネ)と最低限にすることで、前半の低重心サッカーを改善させる狙いがあった。CFの相手DFラインとの争いの活発化と攻撃の縦の厚みの増加によって、ビルドアップ後の疑似速攻がより鋭利になった。それによって相手ゴールを脅かす機会が増したといえる。
 風間八宏御大は攻撃の重要な要素として「相手CBへの攻撃」を挙げていたらしい。前半の列を下りるタスクを少なくして、「相手CBへの攻撃」に集中したシティのCFハーランド。結果として、ユナイテッドCB陣はDFラインを下げる必要性が生まれ、中盤のスペースをシティに明け渡すこととなった。
 57分にフォーデンに代えてグリーリッシュを投入したシティ。⑧の58:14~の前進を起点に一度はボールを奪われたものの、即座に回収してFKを獲得したシティ。最後はグリーリッシュのヘディング。3人目の動きを見せたデブライネについていかなかったラッシュフォード。(速攻要員という意味で)チームとしての約束事なのかもしれないが、ラッシュフォードは撤退守備の際のマークはアバウトになりがち。後半のxGは0.53だったが、シティの後半からの再修正ユナイテッドの左サイドのマークのズレというように、布石が整ったシティのゴールであった。

2⃣ユナイテッド逆転の流れを呼び込んだ1得点目

 60分のゴール以降も、⑨の62:48~のようにシティがユナイテッドのプレッシングを交わすシーンが目立つ。ユナイテッドもアントニーとブルーノのポジションチェンジ&72分のガルナチョ投入(ブルーノはOH、ラッシュはCFに移動)で、プレッシングのスイッチを入れ直す+カウンター時の両サイドの起点づくりを狙ったと思われるが、あまり大きな効果は見られずに試合は進んでいく。
 ただ、66:00~,73:36~とプレッシングによって相手GKエデルソンにロングボールを蹴らせて、そのボールを回収することに成功している。そして、76:45~の相手のビルドアップではラッシュフォードが猛然プレスを見せて、シティのビルドアップ隊を脅かす。その後のシティのゴールキックで、エデルソンは長い時間を取って、ユナイテッド陣内右サイドに向かってロングボールを蹴りこむ。解説の加地さんも「エデルソンの試合展開を読んだ良いプレー」と仰っていた。しかし結果的には、このロングボールがタッチラインを割ったことでユナイテッドが獲得したスローインから得点が生まれる。
 スローイン後の混戦からデヘアがボールをキャッチすると、すぐにヴァランにボールをつける。勢いよくヴァランにプレッシャーを掛けたシティ左WGグリーリッシュに対して、ヴァラン→カゼミロ→ワン=ビサカのパスルートでボールをグリーリッシュの背後のスペースに届ける。ワン=ビサカが3人(ベルナルド・グリーリッシュ・ハーランド)を引き付けて、ベルナルドがマークしていたカゼミロにパスを供給。そしてカゼミロからブルーノへのアシストで「疑惑の得点」が生まれる。
 一見すると、脈絡のないゴールであり、なおかつオフサイドポジションにいたラッシュフォードの動きによってシティDFの対応が遅れたことによる得点である。このゴールが「疑惑の得点」であることは間違いない。しかし、得点を生んだゴール前の局面を作ったのは、ユナイテッドのハイプレッシングによってエデルソンにロングボールを蹴らせたこと、ユナイテッドが積み上げてきた後方からのビルドアップでグリーリッシュの外切りプレッシングをスムーズに交わせたこと、という2つのことである。「疑惑の得点」であることに変わりはないが、ユナイテッド側からすれば、今シーズン積み上げてきた「プレッシング」と「ビルドアップ」によって、シティを上回った一瞬を作り出せたことが得点につながったといえる。

 そして、81分に自陣からのロングカウンターからユナイテッドの2点目。失点に絡んだラッシュフォードだったが、やはり千両役者。そして、ガルナチョ。試合に出るたびにできることが増えている感がある。
 個人だけでなく、ガルナチョをエリクセンに代えて投入したテンハグも流石である。普通であれば、ビハインドな状況でフレッジとガルナチョを交代してエリクセンをピッチに残したいところだが、トランジションゲーム(速い展開の試合)になるという読みのもと、フレッジをピッチに残してエリクセンを交代したと思われる。結果論ではあるが、その判断もこの得点を生んだ1つの要因だった。
 最後はシティの猛攻及ばず試合終了。クローザーマグワイアはどこか貫禄がある。

3⃣まとめ

 タイトル回収をしたい。内容と結果の乖離はあったのか否か。つまり、「疑惑の得点」によって流れを掴んだユナイテッドは勝利という結果に値したのかどうかということだ。
 個人的な見解をいえば、勝利は出来過ぎな結果だったが、負ける内容でもなかった試合だったと思う。前半はユナイテッドがシティを完封し、1試合通してのシティのxGも1.0未満である。
 それぞれの立場でこの試合への内容と結果に関する意見は異なりそうだが、前回6失点で大敗したい相手に引き分けの内容の試合をして、勝利を掴んだユナイテッドは確実に成長している。

タイトル画像の出展
https://www.sofascore.com/manchester-united-manchester-city/rK


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