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プレミアリーグ第19節 マンチェスター・ユナイテッドVS.ボーンマス レビュー

 まずは、両チームのスタメン。

①スタメン

Ⅰ.試合を動かした絶対的アンカー

1⃣両チームの攻守の攻防

②ボーンマスのビルドアップVS.ユナイテッドのプレッシング

 この試合で前半から機能していたのが、ユナイテッドのプレッシング。ボーンマスのビルドアップの未整理感も否めなかったが、ボーンマスの左右不均衡のビルドアップにしっかりと対応して見せていた。
 ボーンマスのボール保持時の配置は4-2-3-1からの3-2-5への可変。OHビリングが左のハーフスペースに移動し、右WGクリスティが右のインサイド(ハーフスペース)、右SBスミスが大外で幅を取る動きを見せる。
 ウルヴス戦は相手の3センターのポジショニングと動き出しに苦戦し、トップ下のブルーノが孤立していたユナイテッド。この試合でも、右CHのL.クックがウルヴスのヌニェスに似た動きを見せるかたちだったが、相手ダブルボランチに対してVDB、エリクセンの2枚、高い位置を取るビリングにカゼミロというようにマーカーが明確に設定されていた。ユナイテッドの前節からの修正・ボーンマスへのスカウティング、ウルヴスとボーンマスのビルドアップの質の違い、何が最も影響したかはわからないが、とにかくこの試合のユナイテッドのプレッシングはボーンマスの前進をしっかりと阻めていた。前半でいえば、5',7',12',13',24'に高い位置でのボール奪取に成功している。

③ユナイテッドの崩しVS.ボーンマスの撤退守備

 この試合、スコアが動くまでのボーンマスのボール非保持時のプランは4-4-2でミドルサードからファイナルサードにかけてブロックを敷く撤退守備。ボールにプレッシャーを掛け始めるライン(プレッシング開始ライン)は、ハーフウェイライン付近となっていた。
 W杯明け以降、ボールを保持して相手の引いたブロックを崩すのが板についてきたユナイテッド。この試合の相手の守備がベーシックな4-4-2となれば、攻略法を見つけるのもお手のものだった。
 相手がどんな陣形だとしても、基本的な攻撃の原則や方法論は変わらない。「同サイドに集めて崩しor大外!」である。CB+α(両SBorダブルボランチの誰か)で3バックを作り、1アンカーを置く3-1-6のような配置を基本とする。相手2トップ脇でボールを持つ供給者(可変時の「両脇のCB」)に対して、ひし形を作り、アンカーのカゼミロも顔を出す。
 例えば③のように、ボールホルダーのエリクセンに左SBショー、左WGラッシュ、CFマルシャルでひし形を作る。さらに、マルシャルの下りる動きに連動して、OHのVDB、右WGブルーノが相手DFライン背後を狙う斜めのランニングをする。手前のひし形or背後を狙う選手に繋いで同サイドから中央にかけての崩しを狙うが、それが相手ブロックのスライドによって阻まれたとしても、直接もしくはアンカーや後方の選手(2CBなど)を経由して、スライドした相手ブロックの大外で待つワン=ビサカにサイドチェンジする選択肢もある。ウルヴスの得点シーンのように、ボールサイドの選手に味方・相手両選手が密集しているため、逆サイドの大外の選手は広大な「時間とスペース」によって突破を狙うことができる。
 ミスになったが、5:00~18:00~の2つの崩しには同じような典型的なかたちが見て取れるほか、38:40~の大外に張るブルーノの斜めのパスからの崩しもそのかたちの派生といっていい。
 しかし、狙い通りにボールを持てていても、同サイドでの崩しが相手選手に引っ掛けたり、相手の同サイド圧縮に(U字パスではない)有効なサイドチェンジをさせてもらえなかったりという時間帯が続いた。個人的意見だが、試合終盤は集中が切れていたが、この試合の(プレッシング含めて)ボーンマスの守備は決して悪いものではなかったように見える。

2⃣トランジションを制すものは試合を制す

 膠着した試合を動かしたのは、困ったときのセットプレー。前半21分にカゼミロがエリクセンからのFKを合わせての得点。得点者のカゼミロがさらに素晴らしいのは、このFKを獲得するまでの2つのトランジション局面に関与し、ユナイテッドに優位な状況を生み出していたことだ。
 20:24~のユナイテッドボールの自陣でのフリーキックから振り返る。

(1)20:33~ ブルーノのパスミスで、中盤の危ないエリアでボーンマスボールに。

(2)20:40~ ブルーノ、ショーを中心としたカウンタープレス(攻⇒守の切り替え時にボールを奪う動き)で相手を囲み、最終的にカゼミロがボールを拾う。

(3)21:10~ ボールを持ったユナイテッドは相手ファイナルサードまで侵入するものの、パスがボーンマス選手に当たり、ミドルサードまで押し戻されて攻撃のやり直しに。

(4)21:13~ エリクセンから相手DFライン裏を狙うマルシャルへの一気のロングフィード。結果的にルーズボールとなって、カゼミロが回収。

(5)21:30~ トランジションでの速攻は失敗するも、ユナイテッドはショーから大外で待つラッシュにボールを繋ぎ、得点につながるFKを奪う。

 実況の倉敷さんが、ラッシュがFKを獲得した際に「物語が膠着すると、カゼミロは出てくる」という仰っていたが、カゼミロはそれを地でいく選手だった。FK前の2つのトランジションでの働き、FKでの見事なハーフボレーと得点を直接的かつ間接的に演出した。
 カゼミロは、移籍が破談となったフレンキーとのタイプの違い、30歳に約100億円という移籍金から、獲得当初は疑問の声も少なくなかった選手である。正直、自分もその一人でした。
 しかし、蓋を開けてみれば、持ち前のトランジションでの活躍に加えて、ここぞという時の勝負強さでチームをけん引している。何より意外だったのは彼のパス能力の高さで、マドリー時代と異なり、チームとしての原則やポジショニングが整理された環境でのカゼミロはパスの出し手としても優れた選手である。ということで、一度謝らせてください。すみませんでした。

Ⅱ.振る舞いの変化と対応力

1⃣ボーンマスのプレッシングに対するユナイテッド

 1点ビハインドとなったボーンマス。当然ながら、得点を奪うために、プレッシングを開始。

④ボーンマスの4-3-1-2プレッシング

 ビハインドとなる前の9',10',13'にも、相手のバックパスに応じて見せていた4-4-2からダブルボランチの一角が列を上げて相手のアンカーを見るという4-3-1-2プレッシングを相手陣内深いエリアで敢行。両WGや両SBも中央に絞って中央封鎖をして、相手をサイドに誘導したうえで同サイドに密集してボールを奪いきる狙いだ。
 ボーンマスはこのプレッシングで一時的に試合の主導権を握り、26',28'にこの狙いからボールを奪い、28'に関しては(オフサイドとなった)決定機に繋げている。ユナイテッドの選手のポジションチェンジに対しても臆することなく、それぞれの選手が自分より前方の相手選手を捕まえに行くチャレンジができており、ユナイテッドも前半はこのプレッシングに苦しめられていた。

 しかし、HT後の後半。ユナイテッドは48',49'と立て続けにボーンマスのプレッシングを交わして前進に成功し、49'のビルドアップからショーの得点に繋げている。得点シーンを振り返っていこう。

⑤2点目を奪う起点となったユナイテッドのビルドアップ1

(1)相手後方からの裏パスを処理して、リンデレフがGKにバックパス。ややトランジション気味の局面であったが、ボーンマスはここからプレッシングを開始。ユナイテッドはショートパスによるビルドアップを企図。(⑤)

(2)ボーンマスCFソランケのプレッシングをカゼミロ経由で迂回してリンデレフに繋げて、1列目の突破に成功。(⑤)

(3)リンデレフにボールが渡ると同時に、列を下りる動きを見せるエリクセンに対して、右CHクックはぴったりとマークし、ボーンマス側は実質的にユナイテッドの4バック+ダブルボランチを6枚で見る数的同数プレッシングのようなかたちに。(⑤)

(4)エリクセン、そして前線の選手にもパスを繋げないと判断したリンデレフは、2タッチでサイドに開いたショーに捌く。ショーに対して、ボーンマス右WGクリスティが中央のパスコースを切ってプレッシャーを掛ける。(⑤)

⑥2点目を奪う起点となったユナイテッドのビルドアップ2

(5)ショーがボールをもらうと同時に、ラッシュフォードが列を下りる動きを行い、エリクセンの動き出しによって空いていた相手2-3列目間でボールを受ける。

(6)パス&ゴーでラッシュフォードとのワンツーでショーが相手の2列目を突破し、ショー+マルシャル+ブルーノ+ガルナチョ+カゼミロVS.相手の2CB+左SB+左CHの5対4の状況を作る。

(7)ショー⇒ブルーノ⇒ガルナチョとボールを大外までもっていき、ガルナチョのグラウンダーのクロスをショーが右足で合わせて得点。

 一連の流れでは、ショーの個人能力に頼るところも多かったが、例えばラッシュフォードがボールをもらったときに、カゼミロは(パスをもらった)ショーと同じスペースに走り出している。つまり、ショーが動き出さなくてもカゼミロにボールが渡り、相手の2列目を突破していた可能性は高い。チームとして「どういう動きをつけ、どこのスペースが空き、どのようにそのスペースをつかうか」という共有ができつつある。このシーンでは、エリクセンの列を下りる動きに対して、ショー、カゼミロ、ラッシュフォード(、マルシャル)の3(4)人がエリクセンの動き出しによって空いたスペース(相手ダブルボランチ裏)を使う青写真が共有できていたといえる。1点目がカゼミロ個人によるものが大きいのだとすれば、2点目はまさにチームとしての力を見せた得点だった。
 ちなみに、得点後の50:35~や60:40~のシーンでもGKからの有効なビルドアップに成功していて、どちらもエリクセンが係わっている。カゼミロと同じく、チームとしての成長を引き上げたもう1人がエリクセンであることは全員の総意な気がする。

2⃣試合を決定づけた3点目の起点はプレッシング

 ユナイテッドの2点目以降は、ボーンマスも57',60'にはビルドアップから、58'にはプレッシングからチャンスを作るなど、一進一退の攻防となっていた。両チーム選手交代を挟み、試合は終盤に向け徐々にオープンな展開が増える中で、85'にユナイテッドがCKから試合を決定づける3点目を奪う。ショーの対角線のパスを斜めに抜け出して受けたブルーノのプレゼントパスをラッシュフォードが得点した。
 実はCKを奪う起点となったのは、ユナイテッドのプレッシング。この試合を通じて機能していたプレッシングが実った得点ともいえる。交代で入ったCFエランガの3度追いでサイドを限定し、左WGガルナチョがパスコースを読みきり、相手右CBメファムのパスをカット。逆サイドまでボールを持っていき、ラッシュとブルーノの2枚による崩しでシュートまで持ち込み、CKを奪った。
 この試合でも70:59~71:33~の2つのシーンでは、OHビリングと右WGクリスティが一時的にポジションチェンジをしていたことが混乱を生み、ボーンマスにプレッシングを剥がされて突破されるという場面があった。この2つの局面はマンマーク的な要素が多いユナイテッドの守備の弱みが見えたシーンだった。ただ、絶対に突破されない完璧なプレッシングは存在しないわけで、相手の突破回数を減らしているという意味ではユナイテッドのプレッシングも練度を上げつつあると個人的には思っている。

Ⅲ.まとめ

 マンチェスターダービーの情報を遮断している関係で、スタッツなどを用いることはできなかったですが、3-0ほど内容は圧倒できていなったという印象。それでも勝利に値したのは間違いなくユナイテッドで、このチームは安定して勝ち星を拾えるチームになってきたのだなぁと思います。ここにヴェフホルストという「飛び道具」が、どう組み込まれていくのかすごく楽しみです。では。

タイトル画像の出典
https://www.sofascore.com/afc-bournemouth-manchester-united/Kkb

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