揺るがぬ哲学【サガン鳥栖】

J1リーグ序盤戦を終え、今年もサガン鳥栖が上位に付けている。

決して財政的には潤ってはいない、スター選手がいる訳でもない、地方クラブの手本になる全員で戦うサッカーは、監督交代・主力の移籍を経ても健在。
昨年も成果を上げた可変式3バックシステムでの堅実な守備と、全員が90分走り切る粘り強さ。これが、鳥栖の哲学として浸透してきたのだろう。

昨年は前半戦4位から、終了時には7位まで順位を落としたが、今期は文字通り終盤まで「走り切れる」か。


☆無尽蔵

2022シーズンも鳥栖は有力選手の放出を余儀なくされた。
地方クラブにはどうしても付いて回る問題で、財政的な問題から有力選手を引き留めておくのがなかなか難しい。

昨夏には、林大地がシント=トロイデンへ、ユース出身の逸材・松岡大起も清水へ移籍。
シーズン終了後には、2021シーズンの主力選手、樋口雄太、酒井宣福、仙頭啓矢、大畑歩夢、山下敬大らが相次いで他クラブへ移籍した。

一気に主力が抜け厳しいかと思われたが、ここまで4勝1敗7分け。リーグ最少失点タイ。
開幕前の予想に反して、今年も接戦を落とさない粘り強さで現在5位。

その強さを支えるのは、やはり圧倒的な走力だ。

総走行距離、総スプリント回数共にリーグ1位と、驚異的なデータを残しており、鳥栖のスタイルとして大きな武器になっている。

データ上で特筆すべき数字を残しているのは3人。

両ウイングバックの岩崎悠人、飯野七聖とボランチ・小泉慶。この3人は、1試合平均約13kmの走行距離を記録。特に岩崎は広島・藤井智也と共にリーグトップのスプリント回数もマークしている。

3バックの根幹を成す両ウイングバックが激しい上下運動を行い、ボランチが広いプレーエリアで常に攻守に顔を出すことで、90分間通じてフィールドを支配している。

もちろん、ただ走るだけでプロのトップリーグで戦える訳は無く、主力の移籍があったものの、若手からベテランまでタレントは育っている。

プラチナ世代の天才レフティ・堀米勇輝は今年30歳の節目の年、円熟したプレーで攻撃のタクトを振るう。FC東京戦の直接フリーキックは秀逸。

今季、徳島から加入したFW・垣田裕暉は187cmの体躯ながら縦横無尽に駆け回り、絶え間ない動き出しと、前線からのハイプレスで前線を活性化。

ゲームキャプテンを多く務めるGK・朴一圭は、今シーズンも守備エリアの広さと、1対1の強さを遺憾なく発揮し、J屈指のDF陣・ジエゴ、ファン・ソッコ、田代雅也らと共に、ゴールに硬く鍵を掛ける。

昨年、J1史上最年少で開幕スタメンを飾った鳥栖ユースの至宝、18歳・中野伸哉は昨年7月にトップチーム昇格。高校生ながら中心メンバーとして活躍し、若きサガン鳥栖の顔になりつつある。


とはいえ、選手層は決して厚い訳ではない。夏を越え、後半戦に向けて苦しい時期は昨年同様に訪れるだろう。
しかし、クラブの哲学が浸透してきた今、過去最高順位の5位を超える成績、つまりAFCチャンピオンズリーグ圏内は十分に現実的な光景だ。

巨大ではない、財政的にも潤っていない地方クラブが、無尽蔵の運動量と組織力を武器に、アジアに殴り込む。そんな、我々が大好きなストーリーを来年は観られるかもしれない。

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