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階段を降りた、その先に【ヴィッセル神戸】

潤沢な資金力を生かして国内外のスタープレイヤーを並べるが、思うように勝てない。ヴィッセル神戸のイメージはそんなところだろう。事実、昨年は終盤まで残留争いに巻き込まれる憂き目に会い、ネガティブな意味合いで開幕からリーグの話題の中心だった。

しかし、今季はリーグ唯一の開幕3連勝を達成。きらびやかなスカッドに伴うスタートダッシュを切り単独首位。J1を牽引している。

”バルサ化”の失敗

ヴィッセル神戸の過去最高順位は2021年。
アンドレス・イニエスタを中心として個の技術で攻撃を構築し、平均ボール支配率リーグ4位の55%、62得点という攻撃的なフットボールで過去最高の3位に付けた。
センターバックにトーマス・フェルマーレン、中央に山口蛍、セルジ・サンペール、イニエスタ、トップには古橋享悟と特にセンターラインにタレントが揃い、ポゼッションにカウンターなんでもござれといった万能感が漂っていた。

しかし、スター選手の出入りが多い事でスタイルの固定化に着手してこれなかったヴィッセル神戸は2022年、第29節まで残留を争う苦難のシーズンを過ごした。

大きな原因は主力の流出と怪我。
チームの心臓・サンペールは右膝前十字靭帯損傷で出場無し。フェルマーレンは引退。前年夏にエース古橋が海外移籍し、補強した大迫、武藤も怪我の影響でフル稼働が出来なかった。

個で解決してきた局面が打破出来なくなったこと、更には三浦淳寛監督の早期解任で、どの様に戦うかというゲームモデルが全く定まらなかった。

そもそも”バルサ化”という言葉が指すのは「バルセロナというクラブは明確な哲学を持っているため、どんな選手が出場してもバルセロナのサッカーを表現できる」という部分で、皮肉なことにバルセロナでの経験を持つスター選手達を補強する事で、理想とは真逆といえるクラブの状況になってしまったのだ。


シンプルに個で上回るハイプレス

昨シーズンの結果に加え、若手の有望株・小林友希、小田裕太郎の欧州挑戦、郷家友太、小林祐希の移籍もあり、シーズンオフには大型補強が敢行されるかと思いきや、今年のヴィッセル神戸は少し違った。

中盤にはガンバ大阪から斉藤未月、J2東京ヴェルディから井出遥也といったハードワーカーを、センターバックにはベテランの本多勇喜、アタッカー陣のバックアッパーとしてセレッソ大阪からジェアン・パトリッキを獲得するなど、適材適所に堅実な補強を施した。

そしてシーズン前キャンプでは、昨年途中から就任した吉田孝行監督のもと、4-1-2-3でのアグレッシブな守備をチーム戦術として打ち立てる。

大迫、武藤、汰木の前線が守備のスイッチを入れ、チーム全体でどんどんボールにアタックする。元来、プレイヤーのレベルは高いのだ。プレスが嵌まれば球際で相手を上回れる局面が多く生まれる。そこからのカウンターの質も高い。
第2節札幌戦・第3節G大阪戦ではポゼッションフットボールを目指す相手にボールを持たせながら、大量得点の圧勝劇を演じた。
シンプルなハイプレスからのショートカウンターは、今のところヴィッセル神戸というチームに最もフィットする戦術のように見える。


確かに、ボールを握りダイレクトプレーで敵DFを躱す姿は美しい。しかし、ボールを扱うことだけがフットボールではない。個の強さを理不尽に生かし、勝てばいいのだ。今シーズンのヴィッセル神戸は個の能力を比較的シンプルな戦術で爆発させている。

階段を登る事だけが栄光への道ではない。
少し階段を下りた先に、ヴィッセル神戸の勝利への鍵は落ちていたのかもしれない。

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