感情の為の機械
「感情の為の機械」
私は感情を喪失してからもう随分長い間独りで暮らして来た
だから感情があるということがどういうものなのか今はわからないし
わざわざ必要なものだとも考えていなかった
だが
道に堕ちていた天使の羽根を拾った時に
それをなにかすら理解出来ず その有効性もいかせないまま
壊してしまった事で
私の日常は劇的に変化し 感情をなくした事で得る事が出来た
充分に強大な社会的地位と莫大な収入も同時に失う事になってしまったのだ
だからといって
一度身に付いた贅沢な暮らしを諦める事はどうしても出来ない相談だった
あらゆる方法を駆使して失ったものを取り戻そうとしたが全ての方策が失敗に終わりなす術を失った私はすがる思いで高名な占い師に相談を持ちかけた
占い師は一度喪失した感情を取り戻し過去感情を捨てるに至った経緯を再度追体験する事が必要だと私に告げ法外な相談料を要求した
それで私はなんの躊躇もなく彼を殺し床下に隠していた金貨や銀貨 宝石等を持ち出すとそれを使って世界中を放浪するかのように探し求めようやく応える事の出来る錬金術師を見つけたのだ
それで
今
感情の為の機械という実に奇妙な機械と向き合っている
この機械は感情を喚起させる為にのみ存在する
仕掛けは理解出来なかったが仕組みは簡単だ
人間は人間同士の関係性によってはじめてその存在の意義を理解出来る集合生物だ
つまり感情等と言うものはその為に存在し発達してきたと言っても過言ではないだろう
ならば感情を失うキッカケになるものはその関係性にありそれを与えるのもまた関係性によるものなのだ
この顔の部分を抉られた奇妙な機械は感情を失うキッカケになった人間を作り出しそれによって感情を取り戻すという仕掛けなのらしい
私が向き合うと暫くして機械は獣が唸るような音を立て始めたかと思うとやがて顔らしきものが抉られた金属部分から生えるようにその姿をあらわしはじめた
だが それは良く見知った顔であってそれでようやく思い出したのだ
かつて貧困のどん底で喘いでいた頃どうしてもその環境から抜け出したくて私は悪魔と契約したのだ
悪魔に魂を売り成功に必要な人間にしてもらったのだ
機械から浮かび上がり徐々にカタチになって行くそれはまさしく私が契約した悪魔に他ならない存在だった
つまり魂とは感情そのものであることを私はそこで漸く理解したのだ。
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