「宙に漂い、果ての果て」
――戦いは終わった。
”彼女”は帰り、私は壊れ。
最期に生まれた、この名もなき”私”の僅かなる自我も誰にも顧みられず宙を漂うのだ。
『…さようなら、我が主。貴女の行く末に幸多からん事を…』
”私”はそう呟いて、スリープモードに移行。
もう目覚めることもないだろう。
◆
ピロロロピボボボ。
…ブゥン。
電力供給を確認、スリープモード解除。
「よーし、電気入っていってるかー」
「うまく行ってますぜ姉御…多分ですけど」
前回の起動から宇宙時間基準で凡そ4302302周期の――これ以上は破損が大きく測定不能。
機体信号、セルフチェック…
「しっかしこんなよくわからないものが宙って転がってるんすかね」
ジェネレーター破損率75%。戦闘モードでの運用不可。
「馬鹿言うな、と言うかアタシだって長年この家業やってるけど初めて見たよ」
頭部バルカン、右、左手ビーム砲、左赤熱型マニピュレーター、腰部追加ブースターすべて使用不可。
背中四門メインブースター、…使用可能なのは右下1のみ。他は全損。
「そのためにわざわざこんな辺鄙なところまで…」
電力供給によりジェネレーター再稼働。以後半永久的に稼働。
出力は凡そ平常時の20%。
『おはようございます、メインシステム、通常モードで起動。』
起動完了。
「うわあ!喋ったぞコイツ!?」「わひゃああ!?」
ドンッ!
右が破損したメインカメラで状況を確認。驚く二人組と、後方での爆発。
「げっ、やべえ。宇宙海賊ですぜ!」片方が外の宙を見る。
「何ィ!もう見つかったって言うのかい!」そしてもう片方――片方――
”彼女”に似て――いや、だが――でも。
『――ああ、そこにいたのですね』
「へ?」
”彼女”にそっくりな間抜け面を見て。
『ご命令を、我が主』
「…アンタ、アイツら何とか出来んの?」
『ご命令とあらば』
「――良し、何とかしてみな!」
『了解』
私はもう一度戦おうと決めたのだ。
『――貴女に勝利と安息を。』
”私”は跳んだ。
【続く】
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