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コーヒーと地球温暖化


1.最近コーヒー不味くなってない?

 現役を引退してコーヒーの仕事を離れて14年になる。その間、グァテマラ時代の友人から時々、コーヒーを送ってもらっており、常に一級品のコーヒーを楽しむ事ができた。その友人はカップテイスター(日本酒で言えば利き酒のプロの様なもの)の世界選手権でベスト8に選ばれ、その息子は世界チャンピオンになったコーヒーのプロ中のプロの家族なのだ。だから、彼らが選んで送ってくれるコーヒーがまずい訳がない。
 にもかかわらず、だんだんとそのコーヒーが美味しく無くなってきていた。特に昨年もらったコーヒーはどれも酸味が強く私の好みには合わなかった。これはきっと私の味覚が歳のせいで変わってしまったに違いないと思っていた。家内も同じように味の変化を感じていた。しかし、歳のせいだとすれば家内も同じ様に歳をとっているのだから当然のことなのだが。
 スーパーで買うレギュラーコーヒーは元々ブラックでは飲めないと思っていたので、それならとインスタントのスティックコーヒーを飲むようになった。たまにコーヒー専門店でグァテマラの農園コーヒーを買ってみる。結果はかろうじてブラックで飲める程度。
 最近ではインスタントのスティックコーヒーの甘味にも飽きて来た。なんとかブラックで飲めるコーヒーを探して買っている。唯一、昔ながらの味で飲めるのはエスプレッソコーヒーだけだ。だから仕舞い込んでいたエスプレッソマシーンを引っ張り出した。味は良いのだが、コーヒーを淹れるのも、しまうのも手間がかかり、いつもエスプレッソを楽しむと言うわけにはいかない。と言ってもそれは家内の仕事で私はただ飲むだけなのだが。

2. マルシェでコーヒーを買ってみた

 今年の5月26日の晴海フラッグの街開きの祭りには多くのマルシェがいろんなものを売っていた。コーヒーを売っているマルシェも複数あった。店主からいろんな話を聞き、興味を惹かれた4品を購入した。店主の話が事実なら、きっと私の想像以上に美味しいコーヒーで、ようやく探し求めていたコーヒーに巡り会えるかもと期待した。
 しかし、これは詐欺ではないかと思うほど、味はどれも私にとっては平凡なものだった。もはや、私が求めるコクのあるブラックで飲んでも美味しいコーヒーを入手することは不可能なのだろうか?

 一般のコーヒー好きの人は最近のコーヒーの味の変化をどのように感じられているのだろうか?恐らく、私は仕事柄、常に一級品のコーヒーに恵まれていたから余計に味の変化を感じるのであろう。グァテマラで生産された上級のコーヒーの大半は欧州向けに輸出されており、あまり日本には輸出されていなかったのは事実だ。おそらく、多くの日本のコーヒー好きの人でもそれほどの変化は感じていないかもしれない。

3.どんな味の変化?

 私が感じる味の変化はどのようなものか?友人からもらうコーヒーには以前はコクがあった。コクとはコーヒーの味の三大要素と言われる、酸味、苦味、香りがバランスよくまとまり、味に現れる深みと言えば良いだろうか。
 最初にコーヒーの味の変化で酸味が強くなったと表現したが、これは酸味が強くなったのではなく、苦味や香りが弱くなり、味のバランスが壊れ、味に深みがなくなり、酸味が目立つようになったのである。逆に、苦味が目立つこともある。
 これらの味の変化はどこから来るのかと考えた時、グァテマラコーヒーの格付けの違いに思いついた。コーヒーはその味の違いによりEPW(エキストラ・プライム・ウオッシュド)<HB(ハード・ビーン)<SHB(ストリクトリー・ハード・ビーン)に格付けされ、HBとSHBの違いはHBが1200m~
1350mで栽培されるコーヒーなのに対し、SHBは1350m~1500mで栽培されるコーヒーである。つまり、栽培地の高度差から来る味、等級の違いである。特に多くの一級品は1500m前後で栽培されている。SHBは味にコク、深みがあり、単品で飲むのに適している。HBはクリーンな味ではあるが、バランスが悪く、酸味もしくは苦味が強調され、単品では飲みづらく、他のコーヒーとブレンドすることにより欠点が補われバランスの取れたコーヒーになる。
 私が感じた味の変化はSHBのコーヒーがHBコーヒーになったということかも知れない。

4.温暖化による味の変化

 100m高度が上がれば(下がれば)0.6 ℃下がる(上がる)。逆に1℃温度が上がれば、166m高度が下がったのと同じことになる。つまり、気温が1℃上がればSHBの生産地帯の高度(1500m)の気温はかつての1350m以下の土地の気温と同じになり、HBの生産地帯の温度になる。これが味の変化の原因ではないかと思いついた。私がグァテマラを去ってから14年が過ぎたが、この間に感じる日本の気温の変化は1℃以上のものがある。(最も統計上はそれほどの差はなく、体感とは大きな差があるのだが。)特に、熱帯地方の温度の変化は温帯地方ほど大きくはなく、統計上はそれほどの変化が出ていないかもしれない。
 しかし、実態は大きく異なるだろう。コーヒーの実につく害虫としてブローカが有名だ。卵をコーヒー豆に産みつけるため、コーヒ豆に小さな穴があき、欠点豆とされる。このブローカは低地に生息するもので、上級のコーヒーには影響はなかった。ところが、10年ほど前にグァテマラのSHBの生産地帯にもブローカが生息し始めたという事がニュースになった。これは熱帯地方でも温暖化が顕著になり、SHB生産地帯の気候がEPW生産地帯(1200m以下)と同じ気候になり、もはやSHBの生産が不可能になった事を表しているのではなかろうか?

5.これからのコーヒーの楽しみ方

 もし私の上記の仮説、つまり地球温暖化がコーヒーの味に影響していると言う事が正しければ今後も昔の様に美味しいコーヒーを飲むことは不可能だと言うことになる。コーヒーの味の変化にコーヒー通の皆様はどう感じられているのだろうか?ぜひ意見を聴かせてもらいたい。
 
 最近は深煎りのコーヒーがほとんどだ。やはりこれはコーヒー豆の味の変化に対応しているのだろう。コーヒーの焙煎方法も時代と共に変化している。これは、コーヒー豆の味と品質の変化に対応しているのだろう。私は今後、手間を厭わず、エスプレッソを楽しんで行くことにしようか。

6.最後に

 私の最初のコーヒーに関するブログはネガティヴな内容になった。今後はよりポジティヴな内容の投稿を続けて行きたいと思う。コーヒーに関しては専門家がブログ等で色々と意見を述べられているが、これらの多くは消費者(川下)目線で語られている。私は自分の経験から、コーヒーのトレード(川中)および生産(川上)に従事する人たちの目線でコーヒーの裏側の世界の話をお伝えしたいと思っています。

以上

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