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ダメな会議の特徴

コンサルタント時代にあるチームの会議に参加した。クライアントの情報を得ることを目的に、会議にオブザーバーとして参加するのはコンサルタントはよくあることだが、客観的な目線でクライアント社内の人間関係や雰囲気を肌で確かめることができる貴重な場である。

失敗だった会議

結論から言うと、その会議は失敗だった。最上位の責任者の機嫌を損ねたことでその会議は只ならぬ空気で終始し、当初想定されたゴールに到達もできなかった。会議体としての結論・総括もなく、各自の宿題も合意されないままだったので、放っておけば次回の会議も同じような結果に至ることが明らかだった。
後日、参加者のうち話が分かる、影響力のあるメンバーを個別に呼び出し、カドが立たないように会議の問題点と解決方法について説明した。

私が指摘した問題点は、大きく分けて3つあった。

その①:根拠が勘や気持ちに依存して、正確な議論ができない

あるタスクについて進捗を確認する場面では、現在時点の実績値が示された。そして、その実績値に対して物足りないのでもう少し頑張りが必要だという総括がなされた。
まず問題なのは、「目標値に対する進捗」という観点で語られていないこと。目標に対して現在必要な進捗率は〇〇%で、それに対して満たしているのか、不足しているのかという評価をしなくてはならない。物足りないというは、どのくらいなのか。それを埋めるための施策はどの程度必要なのかが全く分からなかった。
さらに重大なのは、目標値自体がコロコロ変わり、タスクを遂行するメンバーに全く共通認識がなかったことだ。確認する度にコロコロ変わるので、チームとして全員で目指すべき方角として認識されていない。個々人が何となく頑張って成果を上げていれば良いということになっていた。
そのような状況なので、議論が全て精神論になってしまった。「もう少し頑張る必要がある」「頑張れる気がする」「雑になっている」などそれぞれが勘や気持ちに依存した発言を繰り返すので、何をどの程度遂行すればよいのか分からない状態は解消されなかった。
議論のベースにすべきは、勘や気持ちではなく、数字や事実であるべきだ。目標値は数字でしっかり定める必要があり、よほどの理由がない限り自己都合で簡単に変えてはいけない。行動目標は5H1Hでしっかり言語化する必要がある。

その②:開催者がイニシアチブを持とうとしない

あるチームの責任者がその会議の司会進行役だった。事前に話し合うテーマ=アジェンダは設定されていたが、そのアジェンダで使用する情報やデータについて把握しておらず、他の参加者にその場でお願いして全体共有される始末だった。
おそらく、この司会者は、アジェンダを設定するところで仕事を終えてしまった。アジェンダから議論すべき論点と材料を提示し、なされる議論の想定と議論のゴールイメージを持てていなかった。ファシリテーションというのは、事前の準備が全てだ。準備が整っていれば議論本番は脱線にさえ注意しておけば大抵上手くいく。逆に言うと、会議において相応の準備でお膳立てしなければ、議論は進まない。開催者以外は物見遊山で臨むことが圧倒的に多い、と割り切って準備をしておく必要がある。参加者が準備をしてくれたら幸運というくらいに。
予想通り、議論は迷走した。目的や議論の現在地点も分からないまま、その①で述べた精神論の交換に終始した。見かねた(私とは別の)ゲストがその場を仕切り直し、次第に事態は収拾していった。議論の質は、開催者の準備量に左右される。

その③:ラップアップがない

実のない議論が続き、ようやくアジェンダを全て消化したところで、会議がそのまま終了になった。通常、会議の最後にはラップアップを行う。会議で話されたことを振り返りながら総括し、会議体としての結論を参加者全員で合意する。そして、必要に応じて宿題を明らかにして、いつ・誰が・いつまでに・何をするのかを明示する。続く場合は、次回の会議の日時までその場で確定できれば理想だ。

この会議は、それがないまま散会してしまった。恐らく、この会議で示された課題と解決策(精神論が中心ではあるが)は、忘却の彼方に消え去り実行されることはない。議事録もないし、3日もすれば参加者の頭からは完全に消え去っている。別の情報で上書きされ、話した内容すらも忘れ去られているかもしれない。
そのようなことを防ぐためにラップアップは有効だ。忘れやすい人の脳みそに、もう一度会議の内容を刷り込み定着させる。議論した内容から行動を生むために宿題を持ち帰らせる。次回の会議は前回の会議の復習とその宿題の進捗を詰めることからスタートする。毎回宿題があり進捗を問われるという緊張感が参加者の本気度を上げていく。やってくることが当たり前になり、真剣な参加者が増えていければその会議体は成果を上げるまで自走していく。少し大げさだが、ラップアップはそのような正のサイクルを作るためのトリガーになるはずだ。逆に、ラップアップがなければ、実のある議論がなされず、同じことをひたすら繰り返すことになる、蟻地獄のような状況を生む。侮ってはいけないのだ。

ポイント

文字として読むと、本当にこのような会議があるのかと思ってしまうほど稚拙な事象ではあるが、上記は実際にあった会議の話だ。様々な会議に参加しているが同じような状況は実に多い。ファシリテーションのトレーニングを積んだコンサルタント達の会議でもゼロではない。私自身も失敗し、繰り返さないために徐々に改善してきた。今も完璧だと言い切れる自身はない。それほど実のある会議を作るということは難しい。
一方で、フォーマットとして仕組み化できる部分も多い。特に、最後のラップアップに関しては、アジェンダや議事録の雛形に最初から組み込んでおけば良い。そうすれば必ず最後に触れることができるし、それを踏まえた時間配分で進めることもできる。
日本のホワイトカラーの生産性は先進国で最も低い水準らしい。その要因の一つとして、「実のない会議」に時間を奪われていることがあるのではないかと考えている。たった一人が上記のポイントに留意しながら会議体を改善できれば、参加者全員の生産性を改善できる。

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