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新規感染者数の半減期と倍化時間

自然科学の分野では半減期や倍加時間の概念が対象の変化速度の指標としてしばしば用いられている。例えば、培地環境が良好な微生物や動植物細胞の培養では、細胞数が2倍になるに要する時間が倍加時間として定義されている。原料濃度に1次の化学反応では原料が2分の1だけ生産物に転化するのに要する時間が半減期である。同様に、時間経過に伴う放射性同位元素からの放射能放出量の減少や薬物動態学における血中薬物濃度の減少などにも半減期の概念が用いられている。これらに共通なことは現象の過程が線形であることである。感染症の伝播は、自然現象ではなく、むしろ厄介な社会現象ではあるが、単純SIR式の適用を認めれば自然現象の線形過程と同じである。

新型コロナウイルス感染症についても、半減期(新規感染者数が1/2に減少するに要する日数)と倍加時間(新規感染者数が2倍になる日数)の式は実質的に同じで、次のように表される。また、新規感染者数が1/10に減少する日数も10倍に増加する日数も同じであり次式のように書かれる。

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ここに、λは正味の感染速度定数であり上の2つ目の式で表される。γは隔離率である。Reは実効再生産数で、1月8日の非常事態宣言発出時は東京都については1.1とみなされた。下の図は、新規感染者数が半分もしくは2倍になる日数、及び1/10もしくは10倍になる日数とReの関係を示す。

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先日(1月13日だったと思うが)、京都大学教授西浦氏の以下のコメントが報道された。「東京都について、厳しい対策(Re = 0.72) が実行された場合には、宣言発出時の新規感染者数1,000人だったものが、2月下旬には100名以下になる。この後非常事態宣言を解除し宣言前の状態 (Re = 1.1)に戻っても、再び1,000人を超えるのは7月中旬になる。」、「緩い対策(Re = 0.88)の場合には2月下旬に新規感染者数は500人を下回るが、ここで宣言を解除して元の状態に戻ると、早くも4月中旬には新規感染者が再び1,000人を超える。」

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このコメントは、先に政府が東京都への宣言解除の目安として「新規感染者数が500名以下まで減少すること」と述べたことに対する警鐘であろう。

上記の簡単な計算によれば、緩い対策 (Re = 0.88) の下での半減期(1,000人が500人になる日数) は28日、強い対策 (Re = 0.72) が実行されて感染者数が1/10に減少するに要する日数 (1,000人が100人まで減少する日数)は40日となる。これに2週間程度の応答遅れを考慮すると、所用日数は、それぞれ42日と54日となる。1月8日を起点とすれば、これは各々2月19日と3月3日となり、概ね2月下旬に緩い対策での1/2か、厳しい対策での1/10が達成される。

その後の3月初旬から宣言前のRe = 1.1 の状態に戻ったとすると、新規感染者数が再び500人から1,000人に倍増する日数は33日、100人から1,000人に10倍増する日数は111日となる。これに2週間程度の遅れを足すと、それぞれ47日と125日となる。すなわち、4月中旬、7月初旬となる。

以上のようなつまらない計算をするまでもなく、結論は自明のことである。今回の宣言下で新規感染者数を極力減少させておけば、その後時間が稼げるというに過ぎない。

どなたか、ワクチンが安全に幅広く行き渡るようになるまで、新規感染者数が100人程度で実効再生産数が 1 に維持できるような精密制御プログラムを開発していただけませんでしょうか!



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