小説(SS) 「薬」@毎週ショートショートnote #アメリカ製保健室
お題// アメリカ製保健室
桜庭シンは、お茶ばかり飲む少年だった。
幼少期に、炭酸飲料は体に悪いから、骨が溶けるからと両親に教わって以来、ファミリーレストランのドリンクバーでもウーロン茶以外を手にとることがなかった。
だから彼は、保健室の先生が「この薬でも飲んでゆっくりしなさい」と言いながら渡してきたソレに驚きを隠せなかった。
セブンティーンアップ。レモンとライムの風味が香る果汁ゼロパーセントの炭酸飲料だった。
どういうことだ。シンはただただ混乱した。
聖グレートアメリカン学園高等専門学校の入学式で体調を崩し、保健室のベッドに案内された直後のことだった。
「先生、これは薬ではないと思います」
「なにを言ってるんだ。これを飲めばみんな元気になる。アメリカでは常識だぞ」
「そんなはずはありません」
「セブンティーンアップは、全ての体調不良に効く最高の健康飲料だ。それを飲まないと言うのか?」
「はい。ほかの薬をください」
「この保健室には、この薬以外は置いていないぞ。コーラが欲しいというなら、先生のコーラをわけてあげないことはないが」
「先生のコーラはいやです」
「じゃあ、早く薬を飲んで寝るんだ。そうしないといつまで経っても体はよくならないぞ」
「……わかりました」
シンはしぶしぶセブンティーンアップを飲んだ。
そして寝た。すると不思議なことに、さっきまでの不調が嘘のように回復した、という気分にシンは包まれた。
「先生! 本当に体調不良が治りました! ぼく、知らなかったです。セブンティーンアップがこんなに体に効くだなんて! 明日から友達にも勧めたいと思います!」
シンは喜んで保健室を出た。
しかし、セブンティーンアップには、体調不良を治す成分はいっさい含まれていなかった。その代わりに、セブンティーンアップを飲めば治るという、アメリカン感覚を植えつける催眠成分がふんだんに含まれていた。シンは、お茶を飲まなくなった。
〈了〉795字
*前々回のお題では、クリスマスのときぶりに
たらはかにさんのセレクションに入れてもらえました〜。嬉しいです。
今回はどんでん返し、ということですが、
前回・前々回に比べると、ひっくり返し感がうすめかもですね。某SNSで、アメリカ人は風邪を引いた人に某ドリンクを勧めるという話を思い出して書いてみました。
ちなみに登場人物の「シン」は、
劇場版ガンダムSEED FREEDOMを今日観てきたからか、こんな名前になりました。
ではではまた〜
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