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小説(SS) 「指先の立方体」@毎週ショートショートnote #立方体の思い出

お題 // 立方体の思い出

 ――目隠しされると思い出す。
 かつて、ルービックキューブ世界大会の決勝で、優勝したときの手の感覚を、空気を、心臓の鼓動を。
 わたしの横に立つジャッジが、タイマーを押し、白い長机の上に置かれた逆さまのプラスチックコップを外す。中から、3✕3✕3のルービックキューブが出てきた。
 おでこにアイマスクをつけ、耳には遮音ヘッドホンをつけていたわたしは、素早くルービックキューブを手に取った。タイマーが時間を刻む中、配列を記憶し、どの手順で回せばいいかを分析していく。
 先ほどまでの緊張は嘘のように消え去っていて、すでに自分の息づかいすらも聞こえなかった。
 イメージの確認を終えると、両手を定位置で構え、首をコクリと頷く勢いを利用して、額にかけたアイマスクを目元に落とす。
 あとは、暗闇と静寂の中でイメージと手の感覚を頼りに、指先でキューブを回していくだけ――

 何者かにさらわれ、どことも知れぬ一室の椅子に手足を縛られたわたしには、そんな立方体の思い出だけが、心の癒しになっていた。
 目隠しをされた状態で、指先を動かしながら気を紛らわす。助けがくるまでわたしは、見えないルービックキューブを回し続けるしかない。
 

〈了〉502文字



今回はバタバタしており、期限過ぎての参加となってしまいました。

普段はダークな話ではなく、ギャグが中心です笑

これからも毎週書いていきますので
よろしくお願いします〜


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