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小説(SS) 「ダージリンを求めて」@毎週ショートショートnote #数学ダージリン

お題// 数学ダージリン
 

「ホッホッホ……。伝説のダージリンを求めし冒険者よ、よくぞここまでたどり着いた」

 冒険者サトルとその一行は、立派な白ひげを生やした賢者に案内され、隠されたダージリンの間へと通された。
 古い石室の壁面にかけられた篝火が一斉に灯り、部屋の中央にある木製のテーブルとイスが浮かび上がる。それらは、黄金の輝きを放っていた。

「さあ、ここに座りたまえ」

 イスはひとつだったため、仲間に背中を押された冒険者サトルが促されるままに腰をかける。
 賢者が微笑んだ。

「この伝説のダージリンは、その者にとって最も足りないものを授けてくれる。冒険者よ、何を欲す」

「ぼくは、仲間に支えられてばかりでした。みんなを守れるだけの力が足りない、と実感しました」

「果たしてそうかな? 己の苦手とするものとは、これまで無意識に避けてきたものかもしれぬ。それがなんであっても、受け入れるように」

 冒険者サトルが頷くと、妖精たちが目の前に現れティーカップにダージリンを注ぎ始めた。

「さあ」

 賢者の声に促され、ゆっくりと口につける。
 すると、冒険者サトルの頭の中を数字がかけめぐった。数字ダージリン、数字ダージリン。
 震える手から、ティーカップがこぼれ落ちた。
 冒険者サトルが数学ダージリンと呟き続けていると、賢者が近づいてきた。

「お主に足りなかったもの。それは数学の処理能力だったようじゃな。だが安心せい。これでお主でもお金の計算ができるようになったぞ」

 かくして、冒険者サトルは長い旅路の果てに思いがけず、足し算と引き算ができるようになった。

〈了〉654字



一週間ほどの海外旅行から戻ってきました。
久々に書くと、日本語の感覚が違う感じがします。

この秋から脚本家教室に通って、学び直しを始めています。少しはそれらが反映されてるかもしれませんし、まったくされてないかもしれません。

ではではまた〜 

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