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小説(SS) 「ブーメラン発言道」@毎週ショートショートnote #ブーメラン発言道

お題// ブーメラン発言道

 
「おいおい、そんなたくさん料理を持ってきて食べきれるのか?」

「なに言ってんだ、おまえが逆にモノをとってこなさすぎなんだよ」

「おれはな、食べ放題で意地を張って、己が愚行に苦しむ連中をこの目で見てきたんだ。だからわかるんだよ。その調子だと今日も満腹に悶える姿を拝むことになる」

「とはいえよぉ、腹に余裕があるにもかかわらず、たらふく食べないなんざぁ、金の無駄だぜ。裕福な家庭で育ったんだろうよ。食べ物のありがたみってもんが身体に染み込んでねぇんだ」

「苦しんでまでばかすか食べる料理に、美味しさやありがたみを感じられるのか? どうせ最後には、ご馳走を残してしまうのだろう? どちらが食事に敬意を払っているかは明白だと思うが」

「金を払ってんのに、やせ我慢をしろってのか? めでてえやつだな。ほんとは心の奥底で、腹一杯に飯を食いてえって思ってんだろ」

「うっ」

「それがおまえの本心だよ。残しちまうかもしれねぇっていう理性が、本来得られるはずの自由と権利を自ら縛っちまっている。そして、純粋な気持ちを踏みにじって、無理矢理自分を納得させている」

「……ああそうだ、その通りかもしれない」

「解き放っちまえよ。そうすりゃ楽になるぜ」

「……そうだな。たまにはあんたの言葉に従ってみるのもいいかもしれない」

「よくいった。今日は思う存分食ってくれ」

「ああ。それよりあんたはダイエット中なんだろ? 嫁さんからもうるさく言われてるって。今日くらいは、少なめにしたらどうだ?」

「いいかもしれねぇな。おまえがいっぱい食うって言ってくれたんだ。おれは少なめにして、満足感を得ることにしてみるぜ」

 そう言って一人は、いつものスタイルを捨てて、爆食いを開始しました。もう一人は、しっかり食べきれるようにほどほどに調整しながら食事を進めました。

「く、苦しい……もう食べられない……」

「腹がすっかすかだ。金がもったいねぇ……」

 お店を出た二人は、互いに目を合わせました。
 そして自分自身が放った言葉を思い出しました。
 こうして二人はブーメラン発言を自覚し、しかし同時にその羞恥心への快感を知り、その道を極めようと思い立ちました。

 これが、いま全世界に大旋風を巻き起こしているブーメラン発言道の誕生の瞬間でございました。
 

〈了〉933字



なんだか思ったより長くなってしまいました。
今日食べ放題でたくさん食べてきまして、
お腹いっぱいになってしまい、なかなか小説を書くモードになりませんでした。

そんな実体験をお題に乗せてみました。いつもより内容にリアリティがあるような気がしますね。

とまあ、互いに相手を非難してた内容が返ってくるという話にしてみました。まったく変なオチです。

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