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小説(SS) 「国宝級のアプローチ」@毎週ショートショートnote #鳥獣戯画ノリ

お題// 鳥獣戯画ノリ


「お前がカエルやれよ」

「やだよ。おれはウサギやりたいよ。お前がカエルやれっての」

「秋山先輩と話すきっかけを作りたいって、お前が言うから手伝おうってんだぞ」

「わ、わかったよ。じゃあ、カエルやるよ……」

 拓実は、しぶしぶカエルをやることになった。この学校には、国宝級の美女がいるのだ。秋山先輩はその長い黒髪で、校内ならず他県に住まう男子たちをも魅了するほどの恐るべき美貌を持っている。ひとたび学校から足を踏み出そうものなら、顔に自信のある男子たちが、我こそはとアリのように群がってくるほどで、放課後の予定はイケメンたちによる告白の事前予約でいっぱいである。廊下をすれ違う先生たちはその美しさを直視できず、窓の外を見るしかない。彼女の前では、校長先生の尊大さも、紙ひと切れに等しいのである。もちろん、妬む女子も多い。しかし、陰口を叩こうものなら、イケメン男子たちによる、数にたのんだ陰湿ないやがらせが始まる。ゆえに女子生徒でさえも、彼女の美しさの前では等しく無力なのだ。
 だから、秋山先輩とコミュニケーションをとろうと思っても、最大難関校の受験で全科目を満点とるくらいには難しい。

 しかし、拓実は耳にした。秋山先輩は、鳥獣戯画が好きらしい。マニアックで、かつ渋い感性だなと思いもしたが、逆に人並み外れた感覚の持ち主ゆえに興味を持つのだ、と拓実は思った。友人の情報網によると、秋山先輩は各学校を代表するイケメンたちをことごとく振り続けているという。彼女が大事にしているのは、顔ではないのだ。秋山先輩ファンクラブの最新データからも、共通の趣味に関する話をする際に会話時間が長いということが確認されている。彼女の趣味をどストライクに攻める。それがコミュニケーションをとるための確実な一歩となるはずなのだ。
 つまり、アプローチするならば鳥獣戯画。しかし鳥獣戯画の魅力は、まったくわからない。どうするのが最適かを考えに考えた末、自分たちが鳥獣戯画になればいいのではないか、と拓実は結論づけた。

 拓実はカエルの仮装をして、道端に立っていた。その横には、ウサギをまとった友人がいる。ただの安いコスプレではなく、白い布に鳥獣戯画風の達筆な絵を描き、それを頭から被った力作である。まえだけでなく、後ろから見たときも鳥獣戯画に見えるよう、工夫を凝らした。
 まもなく、秋山先輩がくるはずだ。この道は男子につきまとわれやすい彼女が、二週間にたった一度だけ歩く聖なる通学路として調査済みである。
 美貌のオーラが近づいてきた。まだ姿を現してはいないが、空気が美女の到来を待ち望んでいるかのように、拓実には感じられた。ゆっくりと、曲がり角の塀からオーラが滲み出てきた。それは鳥獣戯画の仮装から見える覗き穴から、たしかに感じることのできるものだった。秋山先輩の姿が少しずつ見え始める。半身、そして全身。その目は、空を見ているような、なにも見ていないような、遠くに意識が飛んでいるような様子をうかがわせた。こちらにはまだ気付いていない。拓実とその友人は、いまだと思い、息を合わせてごそごそと動き始めた。車が、二台通れるかどうかという道に、秋山先輩とカエルとウサギがいる状態である。カエルとウサギは無我夢中で、しかし楽しそうに軽やかに、鳥獣戯画ノリを意識して動いてみせた。何度も家で練習したためその動きにはいっさいの迷いがない。
 秋山先輩は、近くまできてようやくカエルとウサギに気がついた。とっさに後ずさり、通学のカバンを地面に落とし、がたがたと全身を震わせた。

「ひ、ひいっ!! こ、こないで!! なに、なになになんなの、え、いや、いやあああああ!!」

 その悲鳴は、街中の野次馬を呼び寄せるには十分だった。拓実とその友人はまもなく取り押さえられ、警察から優しい指導を受けることになった。
 拓実はあとになって、秋山先輩が鳥獣戯画好きという噂がデマであると知った。
 

〈了〉1,609字
 



だんだん、話のしょうもなさが
エスカレートしてきた気がします。
少しでも愉しんでいただけたら嬉しいです。

(サムネイルがダサすぎる……)

鳥獣戯画ノリ、難しかったです。
鳥獣戯画のノリを作るためには、このくらいの尺が必要になりました。みなさんが410字で書けるのが不思議でなりません。

ではでは〜

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